第151話 パワーレベリングの下見 1

 先にジローで昼飯を取る。地図を見ながらモーザと話すと1泊くらいしたほうが良さそうに思えてくる。オヤジにスティーブが探していたら俺たちは森を散策に行ってる事を伝えてもらうように頼んだ。


 最近、ウチの職員はジローでの食事をツケで食べれるようになっており、溜まったツケは定期的にサクラ商事の経費として払っているのだが。流石に毎日ジローは体に良くないだろうと、最近うちの職員のために簡単な日替わり定食を作ってくれる。

 元領主の館の料理長をしていたオヤジだ。なかなかうまい定食でこれも病みつきになってしまう。


「泊まりで行くのか?」

「あー。1泊くらいは考えています。場合によっては2泊になるかもですが」

「そうか、気をつけろよ」

「はい、ありがとうっす」



 もう森の中の野営には大分慣れてきている。ある程度の行動食を少し購入し森へ向かった。


 モーザと地図を見ながら森の中を彷徨う。確かに警備団がチェックしている箇所は比較的遭遇率は高い。原因はよく解っていないようだが満遍なく森の中に魔物が配置されていたらそれはそれで違和感はあるしな。そういうものなんだろう。

 ただ、そういう場所の近くにはなんとなく魔素が濃い部分が有るような気がする。地面から滲み出ているようなそんな場所が。

 龍脈と言うのは感じることは出来ないが、魔素に関しては<魔力視>のおかげなのかなんとなく解るんだ。


 龍脈に、龍脈溜まりと言われる場所があるように、もしかしたら魔素にも魔素の溜まる場所っていうのがあるんじゃないか? 国、いや。大陸そのものが魔素に毒されているのか。それとも龍脈のように魔素の網が大地に張り巡らされて血液のように巡っているいるのだろうか。


 もしかしたらダンジョンというのはその魔素が溜まって出来たような物なのか。


 しかし以前モーザから聞いた、この世界の神話によると。邪悪な神が魔素をバラ撒くことで動物たちが魔物へと進化したという。それが本当ならダンジョンで次々と魔物が生み出されるのはまた少し感じが違うように思う。本当に謎だ。


 そもそもその神話とやらが本当なのかも怪しい。宗教が作り上げた世界の創世神話というのは地球にもあった。様々な宗教がそれぞれに世界の創世神話を持っている。そして科学の発達したあの世界ではそれはかなりフィクション性の高いものではあった。

 この剣と魔法の世界ではあながち作られた話では無いのかも知れないが。それを確かめる術は思いつかない。


俺は会った記憶がないが、裕也は女神と会っていると言うし。不思議な世界だよな。なんか教会でお祈りとかすれば女神とコンタクト取れたりするのだろうか。こんど聖職者の人たちのパワーレベリングの時に聞いてみたりしようかな。




 聖職者達を連れて来る時と違い、俺とモーザの2人ならずっと走ることが出来るので回るのは早い。近くにある溜まり場は割と直ぐに確認することが出来た。出てきたフォレストウルフは<ノイズ>と<ラウドボイス>のコンビで気絶させて放置をしていく。狩りすぎて次に来た時に減ったままだと困るなということだが。



 森の中での一泊は、カポの集落まで行って泊まる。寄合小屋なら夜番を交代しながらする必要がないのでぐっすり眠ることが出来る。どうせそんな深部までは教会の人たちを連れてこれないのだからこのくらいのラインが良いところかもしれない。


 俺は慣れてきたのだが、寝る時に頭上に浮かんだ珠がチカチカと気になってモーザが寝づらそうにしている。確かに光源と比べてそんな明るさが有るわけではないが、夜の暗い小屋の中だと少し目立つかもしれない。


「それ、ちょっと遠くにとか出来ないのか?」

「え? ううむやったことが無いけどなあ。コントロール出来るのかな?」


 試しに動かそうとしてみると、なんとなくフラフラと意識する方向に動く。


「おっおい! こいつ……動くぞっ?」

「げ、マジで動かせるのか?」


 しかし喜んだのは束の間。珠は意識を緩めるとすぐに元の場所に戻ってしまう。ううむ。もしかしたら訓練すれば思うように動かせるかもしれない。そんな事を考えるとちょっとワクワクしてくる。光源みたく明るさの調節は出来るのだろうか。


 少し暗くなるイメージを珠に向けると、すすっと明るさが減る。お。今度は意識を離しても光量が変わらない。


「お、少し暗くなったか?」

「……まあ、なったが、何だよそれ。スキルとか魔法じゃないのか?」


 ぬ。


 ぬぬ。


 そこで気がつく。そう言えばスキルチェックとか全然しなかったな。言われてみれば何かのスキルだったり魔法だったりの可能性もあるじゃねえか。


「流石だな。モーザ君。目の付け所が良いな……お? おおお……お?」

「お? どうした? スキルだったか?」

「ん~と……なんと言ったら良いか」


 以前から俺の中にあった正体不明のスキルらしき塊。アレが少し小さくなっている。半分までは行かないが、2/3くらいのサイズになっていた。これか? これじゃね? 不思議珠。

 そして見知らぬスキルが……


<龍珠後見>


 なんだ? これ。


 スキルと言っても他のスキルのように意識を向けると使い方や効果が分かる感じじゃない。ただ有るだけと言う感じだ。


「おい、黙ってないでなんか言えよ」


 考え込んでいるとモーザが聞いてくる。


「いやな。一応それっぽいスキルは有ったんだけどな」

「だけど?」

「何のことかさっぱりで……」

「???」


 モーザに話すと、モーザも聞いたことが無いという。まあ俺なんてこの世界1年足らずだから聞いたこと無い事ばかりだろうが。こういうの誰に聞けば良いんだ? <龍珠後見>とあるし、ランゲ爺さんも「珠」と言ってたから、この浮いてるやつが「龍珠」で良いんだろうな……で?


「おい、もしかしてそれって黒目黒髪の由来のスキルなんじゃね?」


 あ……そうか、転生の話はモーザには言ってないからそうなるのか。「龍」って付くしな。そこに繋がっても不思議じゃないが。

 でも多分今回は関係ないと思うが。ううむ。そのうちちゃんとしないと駄目かもな。


 でもこれで少しこいつの事が解った。まあ何なのか解ってないけどこいつの名前が何なのかだけは解った。一歩前進だ。


 それにしても「後見」って。後見人ってことか? こいつの。

 やはり全く意味がわからねえ。龍珠とやらをしっかり守れって言うことか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る