第152話 パワーレベリングの下見 2

 次の日、朝起きると光量を絞った龍珠の明るさは戻っている。


 とりあえず今日はスス村に繋がる街道の南側を攻めてみる。こういう龍脈があると魔物が龍脈を跨いで移動することがあまりないせいか微妙に出てくる魔物が変わるという。と言ってもフォレストウルフは相変わらず出てくるが、キラーエイプも比較的コッチ側に多い。等微妙な違いは有る。


 地図にはホーンラビットと言う文字が書いてあった。これってよく転生モノの小説を読んでいると初期に出る魔物だよな。ウサギは、旨いかも? なんて考える。

 しばらく進むと、ふとモーザが呟く。


「いるな……」

「え? は? まさか……」

「ふふ……気配察知だ。最近生えたんだ」

「なっ!? くそうっ!」


 モーザめ……俺が欲しくてたまらないやつを! モーザの言う方向にしばらく歩くとようやく俺の感知に引っかかる。察知と感知でここまで距離差が有るのか。悔しいぜ。


 感知に引っかかった方を見ると、そいつは茂みの中に隠れているようだった。茂みの中からなんとなく角っぽいのが見える。ふふ。頭隠して角隠さずってやつだな。可愛いぜ。何気なしにそのまま近づいていくとモーザが注意する。


「お、おい。気をつけろよ」

「え? まあウサギぐらい――」


 俺が言い終わる前に、突然<直感>が働く。と同時に感知していたホーンラビットの消え……たんじゃない。早いんだ。角をこっちに向けひとっ飛びに突っ込んできた。


「うおおお!」


 ガキィン!


 俺はとっさに剣を抜こうとするが間に合わない。そのまま鞘から少し出した剣の根本でなんとか角を弾く。弾かれたホーンラビットはそのまま俺の斜め後ろの木に突っ込んでいく。

 <瞬動>が無かったら多分それすら間に合わなかった。


「なんだ!? メチャクチャはええ」


 そのまま木にぶつかると思ったその時、ホーンラビットは体勢を変え木に着地をするように後ろ足を付ける。と同時に再びこっちに向かって飛んでくる。


「おおおお。やべえっ!」


 完全にホーンラビットのペースだ。こっちの体勢が整わないうちに第二撃を加えてくる。それでも今度は抜き放った剣でなんとか弾くことが出来たが、木や地面に着地するや否やこちらに向かって突っ込んでくるものだからやりにくい。


「手伝うか?」

「いいっ!」


 少し離れた所で見ているモーザが余裕顔で話しかけてくる。むかちゅく。


 ただ数度突撃を見れば慣れてくる。単調と言えば単調だ。早いだけで直線でしか攻撃は来ない。タイミングさえわかれば……。


 ザクゥン!


 ホーンラビットの突撃を躱しながら剣を跳ね上げる。そして頭を胴体を切り離す。それで終了だ。


「ふう……」

「ふうって、お前ホーンラビット知らなかったのか?」

「いや、知らない感じじゃないけどな。こんな素早いとは」

「そりゃ早いだろ。森の中での狩人や冒険者の死亡原因じゃかなり高いほうだぞ?」

「まじか……ウルフよりは弱いだろうと……思ってました」


 実際、察知など出来ない冒険者は突然の突撃で命を落とすものが結構いるらしい。居るのさえ分かれば木や皮の盾などで防げば、盾に角が刺さって何もできなくなるらしく、簡単に処理できるようだが。確かに突然の一撃はヤバいかもしれない。


 生態系のイメージで考えればフォレストウルフなんかよりずっと弱そうなイメージだが。これは何か違和感がありすぎる。


「……ホーンラビットはこっち側に多いんだよな?」

「まあな、この地図に書いてある辺りに多いからな。龍脈の北側に全く居ないわけじゃないが、基本はこっちだな」


 そりゃ地図にホーンラビットと記載が有るわけだ。危ないしな。こっち側はちょっとパワーレベリングに向いてないかもな。


「こっちはじゃあいいか」

「でも、もう大体場所は把握出来ただろ?」

「ん? まあ出来たけど……あ、もしかして奥に行きたいのか?」

「オヤジもこっちは連れてきてくれなかったからなあ」


 ふむ。もう1泊くらいしても良いか。とりあえずの目標はブレードタイガー。こちら側の奥の方に居る敵としては強敵の部類のようだ。俺たちは南東の方に向けて走り出した。




 この世界の常識として森の奥に進むほど魔物の強さは上がっていくという。同じキラーエイプなどでも奥に行けば強めの個体も出てくるようになるが、2人は特に問題なく進んでいく。


 昼も過ぎ、かなり奥に進んだと思う頃、突然モーザが止まるように声をかけてくる。


「ん? なんか居るのか?」

「ああ……だが気配を隠している感じがする。」


 俺の感知にはまだ引っかからない。くそっ。羨ましいぜ。

 俺たちも気配を消してじっと耳をすます。


 ズズッ。ズズッ。


 奥の方で葉の擦れるような音が聞こえる。これは、蛇系か? エルフの集落へ行った時に出会ったホーンドサーペントを思い出し嫌な緊張に襲われる。


 魔物は気配を殺す俺達の方向に確実に近づいてくる。かすかな音だが向こうも音を消せていない。それだけ質量がデカイのだろう。ただ俺たち2人とも<気配遮断>を持っていない。そのせいか完璧に気づかれているようだ。


 こういうときは逆に先手を取るべきか。


 やがて感知圏内に入ってきたそれは、やはり蛇のようだ。だがホーンドサーペントの時のような圧倒的な大きさではない、纏う魔力の量もそれほどでもない。


 モーザに2人で行くか? と合図して聞くも、モーザは俺に任せろと合図をしてくる。しゃあねえ。任せるか。



 蛇は俺達との距離を測りながら飛びかかってくるように体を縮める。そのタイミングでモーザが槍を構え蛇に向かって飛び込んだ。


 飛び込むモーザと同時に、真っ赤な大蛇が噛みつこうと飛びかかる。モーザは一瞬驚くが口を開けて飛びかかってくる大蛇の口の中にそのまま槍を突き入れる。


 ギュアアア!


 飛びかかり真っ直ぐになった大蛇の口の中に槍がズズズと飲み込まれていく。そして槍を持つモーザの手までが大蛇の口の中に突き刺さった。口の中で槍をくるっと捻ったのか、口からゴボッと大量の血を流しながら大蛇は動かなくなった。


「おお、文字通り串刺しだなあ」

「お、おお……」

「ん? どうした?」

「こいつ、レッドアナコンダだ……」

「ほほう、たしかに赤いな……おい、大丈夫か?」


 なんかモーザの顔色が怪しい。


「口に手まで突っ込んだら、手に……牙が」

「ん? まさかこいつ毒が?」


 慌ててレッドアナコンダの後ろに回り引っ張る。口の中から槍を持ったままの手が出てきたが……確かに手の甲に切り傷のようなものがついている。少し紫色に変色し始めていた。


「ど……毒消しあるか?」

「いやあ、ないなあ」

「不味い、すぐに……ここからだとスス村が近いか?」

「どうだろうなあ、まだルル村の方が近いんじゃないか? おっと、魔石を抜かないとな」

「お、おい。そんな暇ねえよっ!」


 腹をかっさばいて魔石をほじくり出している俺に、モーザが苛立ったように言う。


「え? まあ大丈夫だろ? モーザ強いし」

「ばっ馬鹿野郎! レッドアナコンダの毒は――」


 ふふふ。

 そこで、焦らすのをやめてモーザにむけてオーブを差し出す。


「あ? なんだ?」

「ほれ、マウントマンバから出たオーブ。確か<毒耐性>だったろ?」


 一瞬呆けたようになったが、慌ててオーブを受け取り砕く。暫く体の様子を伺っていたが、やがて毒が消えていったのかホッとするような顔になる。


「くそっ」

「どうした?」

「慌てる俺を見て楽しんでたろ?」

「ひひひ」

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