第153話 パワーレベリングの下見 3 プラスアルファ

 レッドアナコンダの毒騒ぎでモーザも少しやる気が削がれたようだったので、そのまま街道方向に走った。モーザが言うには、レッドアナコンダはそこそこいい値段で売れるというので2人で両端を持ち運ぶ。ホーンドサーペントの様に桁違いなデカさとかでは無いのでなんとか運べるが。チョットぬるっとするので運びづらい。


 予想以上に内部に入っていたなあと言う感じだが日が傾きだした頃にようやく街道についた。がいまいち場所が解らなかったのでそのまま街道沿いで野営をした。


「ちょっと食べてみようか?」

「毒の抜き方解らねえぞ」

「たしか、こういうのは牙の近くに毒袋があるんだと思うんだ。尻尾の方なら問題ないと思うぜ」


 尻尾の方を少し輪切りにし、熾した火で炙る。


「鶏肉のササミみたいだな。ちょっとパサパサしてるな」

「それでも乾き物食べるよりは良いよ」


 以前ホーンドサーペントの肉を食ったがあっちのほうが旨味が凝縮されていたような気がする。ランクの高い魔物だと味も旨くなるのだろうか。それでも噛んでいると奥深い味わいがある。調子に乗って結構食べてしまった。


 龍脈沿いの街道だが、一応2人で交代で夜番をしながら朝を迎える。




「ブレードタイガーは今度で良いな?」

「ああ、まああれもレアと言えばレアって言うからな。簡単に見つかるか解らねえし」


 そのまま今回はゲネブまで帰宅する。走り始めて割と直ぐにルル村に到着し、ようやく位置を確認できる。そのまま一気にゲネブまで戻った。





「なんだ。結局2泊したのか?」

「ちょっと奥まで行っちゃったもんで」


 走り通しで腹も減ったので帰宅前にジローに寄った。サクラ商事への伝言などもなんとなくジローの親父に入っていたりするのでそれの確認も兼ねてだ。この3日とくにスティーブは顔を出さなかったようだ。農作業で家と畑を行ったり来たりだけの毎日だったのかな?


 ジロー屋に行く前に商業ギルドにレッドアナコンダを持っていたのだが、思ったより高く売れたので少し懐が暖かい。特にホーンドサーペントの時もそうだったが睾丸は精力剤とし売れるし、革もそれなりに人気の素材らしい。肉はそうでもなかったがそれでも需要はあるらしく買取をしてくれた。

 正直な所、依頼を受けているとスティーブやモーザの給料的に赤字になるので、やはりたまには狩りで獲物を捕まえると助かる。いつかマジックバッグでも買ってもっと獲物を運べるようにしたいものだ。それにモーザと2人で10m近い長さのレッドアナコンダを運んでいると門番に声をかけられるのが面倒くさいしな。目立って恥ずかしい。


 

 それから数日して、新しい靴を取りに行った。社長さんが職人っぽかったから出来る前に行くと怒られるかなとビクビクしながら。スティーブも畑仕事が一段落したのでついてくる。

 しかし、急ぎで作ってくれると言っただけある。もう出来上がっていた。


「おおおお。これはとてもいい感じじゃないっすか!」

「あ? 当然だろ? 俺が仕上げたんだ」


 日本での生活だと靴を脱いだり履いたりすることが多いため、ちょっとブーツは脱いだり履いたりが面倒くさくてあまり買ったことは無かったが。このブーツはローカットにした分そこまで面倒くさい感じではない。それに、履いてしまえば完璧だ。軽さも申し分ない。

 魔物の生体材料を使ってるので魔力を通せば剛力ダッシュを使ってもビクともしないだろう。ビブラーのソール最高。


 サンダルの方はもうちょっと待てと言われたが、時にこれでボロボロの靴は卒業できる。まあ一応日本から持ってきた思い出の一品として取っておくけど。前回3人分のサンダルを頼んであったが、まだ手を付けていないとのことで、丁度今回はスティーブも来ていたので一応サイズも採寸してもらった。



「だけどそんな短いブーツで良いのか?」


 モーザはハイカットの頑丈なブーツを愛用しているようで、俺のローカットのブーツがなんとなく不安げに見えるらしい。まあ戦ったりあるからそうなんだろうな。


「歩く時さ、一歩一歩脚を上げるだろ?」

「まあ、そうだな」

「森の中を一日歩くと何回脚を持ち上げると思う?」

「ん? ……数万回にもなりそうだな」

「だろ? そう考えると靴は軽ければ軽いほど脚を持ち上げる時に必要な力が減るから、1日を通してみると負担がかなり減るんだ。1回持ち上げる負担差なんて大したことはないけど、数万回持ち上げるんだから負担の差もかなりだろ? 疲れて足元が怪しくなるより、しっかり踏み込める状態をキープしたほうがいつ魔物と遭うかわからない森の中ではより安全度は増すって考えなんだ」

「……なるほどな」


 ん?


 気がつくと、モーザに靴論を説いているのを社長や店員さんが聞いていた。


「そうか。それであれだけ軽量化に拘ったのか。防御力が落ちるから心配だったんだが。うむ。いや新しい考えだが筋は通ってるな」

「はい。今までオススメを聞かれてなるべくしっかりした物をとお客様に説明していましたが……少し考えたほうが良いかもしれませんね」


 なにやら2人も納得して聞いていた。


 まあ、こっちに来る前にたまに山に登ったりしたから当然登山靴を買う事もあったんだけど、その時にどういう靴が良いのか調べた時。最近はトレイルランニングに使われるような比較的軽い靴のほうが結果足の力が残るから怪我も少ないと言う考えがあり、たまたまそれを知っていただけなんだが。



「俺も同じ様な軽いブーツ一個作ってもらっていいか?」


 お? 突然社長にモーザが注文をしている。こいつ考えの切り替えが早いなあ。貴族のお坊ちゃまだけあって躊躇なく金も投入してくる。ううむ。スティーブもチョット羨ましそうに見てるし。しょうがねえか。


「社長。みんな欲しいみたいだからこいつらの作ってやって。会社の経費で買うわ」

「は? 給料もらってるんだから自分で払うぜ」

「いやまあ、仕事で使う靴なんだ。経費で良いよ。スティーブにも作ってやりたいし」


「ショーゴさん良いんですか?」


 スティーブもパッと嬉しそうな顔になる。可愛いなこいつ。


 社長はこの注文は急がねえぞと言うが、嬉しそうに受けてくれる。完成は適当に顔だして確認しに来いという事で、店を後にした。


 午後にブラン司祭と約束しているので3人で昼飯を食べてからゲネブの大聖堂に向かう。

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