第154話 教会での商談

 相変わらず大聖堂はデカイ。地球で暮らしていた頃死ぬ前に一度はバルセロナのサグラダファミリアに行ってみたいと言う夢があったが、こんな感じなんだろうか。そもそも日本の神道仏教両方を信仰しているような普通の日本人なので教会なんて結婚式場にある備え付けの教会くらいしか入ったこと無いからな。そんな事を考えながら大聖堂の入り口を潜る。


 今まで2回ここに来たことがあるが、その2回はスクロールの購入のためだ。やはりそっちの方面にも意識が行ってしまう。


「ちょっとスクロール見てみたく成るな」

「仕事の打ち合わせだろ? 公私混同するなよ」

「ういー」


 モーザもきっと見たいはずなんだが乗ってこない。マジメくんですか? スティーブは相変わらず大聖堂の威容に萎縮気味だ。


 入口付近に居た聖職者っぽい人にブラン司祭と約束している旨を話すと、「少々お待ち下さい」と言われる。呼んで来てくれるっぽいのでその場で天井などを眺めながら待つ。大聖堂の中では以前と同じように信者の人っぽいのがひっきりなしに出入りをし、祈りを捧げたりしている。


 やがてさっきの人が戻ってきて、奥の部屋に案内された。む。ブラン司祭って少し偉い人なのか?


 奥の部屋に入ると、ブラン司祭ともう1人年配の司祭が待っていた。あ、この人が偉い人だったのかな?


「今日はわざわざありがとうございます。副司祭長をしておりますメックスと申します。話はブラン司祭から聞いております。それで、引き続きうちの者のレベル上げをお願いできるのでしょうか」


 さすが聖職者なのか、若い3人を見ても、俺の珠を見ても全く動じずにニコニコと対応する。一応信用されてると思って良いのだろうか。


「コチラとしては、是非引き受けたいと思っておりますが、見ての通り私どもは大分年齢が若いのですが、そこは問題ないでしょうか」

「はい。ブラン司祭からも、Bランクの冒険者のお墨付きと言う話を伺っております。それに年齢と実力が必ずしも一致しないというのは仕事柄わきまえておりますので」


 ん? 仕事柄……なのか? ちょっと困惑するとすぐに察したのか言葉を続ける。


「聖人、聖女といった生まれながらに聖職者の才に恵まれた者も聖職者には多く居ますので……」

「なるほど。了解しました」


 

 仕事を承諾すると、後はブラン司祭にお任せしますとメックス副司祭長は部屋を出ていく。色々と忙しい人のようだ。


「仕事を受けてくださりありがとうございます。それで日程なのですが――」



 4日後に戴冠式に合わせて、ここゲネブでの盛大なお祝いのお祭りが開催される。期間は3日間もあるかなりの規模の祭りだ。その時に教会の聖歌隊もゲネブ民の前で歌を披露する事になっていると言う話で、ブラン司祭も聖歌隊に入っているということでパワーレベリングはお祭りの後にお願いしたいという話だった。


 コチラとしては特に問題ないので、それで受け入れた。祭りの2日後位から2人ずつお願いするということで、1人レベル10を目処に上げ行ってほしいと言うことになった。前回15まで上げると成るとフォレストウルフだけでは厳しいと言う話をしたので、上と相談しとりあえず10まで上げてもらえればかなり違うんではないかと言う事だ。


 武器はコチラで用意した剣を使い、毎日日没前にはゲネブには帰らせてほしいと言うことなど、細かい要望を聞いていく。コチラからも昼飯を用意してきてもらい、聖職者の法衣などでなく動きやすい格好をしてきてもらうなど要望を出しておいた。


 金額に関しては、色々と交渉をと思っていたが1発目からコチラの希望の倍近い額を提示されそのまま素知らぬ顔で了承した。日本でも坊さんはお金持ちという話は定説だったがこの世界でも宗教関連はお金に困っていないのだろう。


 さらっと、良いスクロールがあったら貴族枠の方の物を数点買えるように上に交渉してもらう。押せる時は押していこう。ブラン司祭も恐らく問題ないと言ってくれた。




 一度事務所に戻り、夕飯はジローで取る。久しぶりに裕也が教えてくれたあすなろ亭にでもと思っていたが、珍しくジローの親父が食いに来いと事務所に顔を出したので予定変更だ。


「で、教会の仕事はどうなった?」

「ああ、一応戴冠式が終わってから始めることで契約してきましたよ」

「うむ、やはりそうか。流石に戴冠式は避けると思ってたんだ」


 ん? なんか少し嬉しそうだな。一緒に祭りでも楽しもうとか言うんか?


「えーと……?」

「中央通りで祭りの期間だけ露天が並ぶのは聞いてるか?」

「いや、祭りのことはあまり知らないんですよね」

「場所は確保済みだ、三日間頼むぞ」


 ……は?


「マジっすか?」

「ああ、マジだ。」

「ジローを?」

「いや、流石に国王の戴冠式で過去の勇者のもたらしたジローを出すのは止めておく」

「じゃあ……テンイチ?」

「そのつもりだ」


 ううむ、安い金額で事務所も借りているし断れはしないよな。ちょっとこの世界に来て初めての祭りを楽しもうと思ってたんだけど……まあ参加で楽しむというのもありか。


 スティーブは興味深そうに聞いている。モーザの方は関係ない人の顔をしているがお前もやるんだからなっ!


 テンイチと言うことで鳥の魔物を大量に捕獲する事になる。一応仕入れの方でも買えるだけ鳥を確保する方向で動いているらしいが、露天で鳥を焼いた料理が定番らしくなかなか量を確保できなそうだということだ。日本の様に鳥は丸で売っているようで、鶏ガラだけとか、肉だけとか分かれていない分そうなってしまうのだろうな。


 屋台飯は転生物を読むとたまに出てきたのは覚えている。主人公が屋台のコンテストに合わせて日本の食べ物を持ち込んで勝利する的なやつだ。だが本番まで時間もない。アイデアも無い。ジロー屋のオヤジの主導で手足のように動くしか無いだろうな。



 鳥の魔物は何でも良いと言うわけじゃなく、特定の種類を指定される。ゲネブで飼育されている鶏の様なやつの原種らしい。ドコから借りてきたか解らないがフェニードハントの時に借りた携帯氷室を渡され、比較的出現しやすい場所を教わる。ヤギ村のちょっと先のほうだ。ゲネブのダンジョンの割と近くのようだ。モーザがダンジョンに行くと言わないように気をつけないとな。


 もう夕方近いがスグにでも出発しようという話になる。スティーブが家に泊まりで出かける許可を貰いに行くと言うので、その間にモーザと狩りの準備をすることにした。

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