第155話 祭りの準備 1

 結局スティーブは、母親に「行くなら明日の朝にしなさい」と言われたようで申し訳無さそうに戻ってきた。いや。まあノリでこんな時間に出発するとか言い出したんで冷静になればそれはそうだ。モーザも当然だろと言ってくるが、絶対さっきはノリノリで出発するつもりだったんだが気のせいだろうか。


 次の日の、日の出の時間に集まろうと決め、俺はスティーブを誘い閉店間際の弓屋に出かけた。


 俺とモーザはその気になれば<ノイズ>と<ラウドボイス>のコンビで鳥を捕まえることが出来るが、スティーブは<ノイズ>のみで<ラウドボイス>を持っていない。そのためやはり弓が無いと厳しいと思うんだ。


「で、今度は何を狩るんだ?」

「コッコーって言ってたな」

「ふむ、じゃあそこまで強い弓じゃなくても良いな、弓は使ったこと無いんだろ?」


 スティーブはまだ見た目も子供だ。初心者向けのやつで良いだろうということで適当に見繕ってもらう。やはり次元鞄にギリギリ入るような短弓でお願いした。

 何本か出してもらい引けるかを確認して、選んだ。


「若え割に力はあるな。剣より弓の道に行ってもいいんじゃねえか?」

「ははは」


 まあ、仕事柄オールマイティーにいろんな武器を使えるように成ればそれだけ潰しはきくけどな。多分スティーブは剣一本で行きたいってのが本心だろう。それでもスラムの子供たちは自作で弓を作って狩りに行ったりすると聞くので未経験では無いのだろう。


 ついでに俺の墨樹の弓を確認してもらうと、弦が大分傷んでるということで張替えをしてもらった。新品の弓を一本買ってくれたからサービスだと言ってもらえる。ありがてえ。


「店じまいの時間に悪かったね」

「気にするな、気をつけていけよ」




 次の日、日の出の時間に待ち合わせ出発する。スティーブは弓が嬉しかったのか昨日はオーヴィに砂で的を作ってもらって練習したらしい。それでもまだ使えるか解らないがスティーブには<操体>がある、体のコントロールが出来るなら引く力、引く場所、そこらへんのコントロールはかなりやりやすいんじゃないだろうか。


 ヤギ村は通常一日とされる距離だが、ひたすら走ることで半日ほどで到着した。

 恐らく俺とモーザの2人ならその半分で行けたと思うが、スティーブがやはりギリギリな感じで今はこれが精一杯だろう。裕也との特訓でレベルやベースのスタミナは大分増えていると思うが俺とモーザは<俊敏>を持っていたりするだけに差が出てしまう。体の大きさも違うから歩幅も差が出てしまうしな。



 ゲネブのダンジョンはヤギ村から更に街道を先に進み、途中で龍脈から外れて森の中に進んだところにある。そのためダンジョンは龍脈からすこし離れた奥にあるため、ダンジョンの入口がある遺跡の周りを遺跡を中心に半径20mくらいの距離でぐるっと一周円形に強固な石壁で覆ってあり、要塞のような感じになっている。そうしてダンジョンの外にいる冒険者やギルド職員らを魔物から守っている。


 冒険者のうち、依頼を受けずにダンジョンに籠もってばかりで生計を建てているものを「モグラ」と呼ぶらしいが、ダンジョンには腕に自信のある冒険者が数多く集まっている為龍脈沿いでなくても、これでやっていけるのだろう。スス村の鉱山ダンジョンの一層の入り口近辺に冒険者たちが集まり野営地を作るのに似てると思えば違和感はない。

 その代わりヤギ村がダンジョンの最寄りの村の割に栄えていないと言う問題があるらしいが。


「昔はヤギ村にも宿屋はあったみたいだけどな。スタンピードが起こると破壊されるから。今じゃ立て直すのは諦めたようだ。基本的にあの村は規模が小さいからゲネブまで逃げれば良いと防備の対策に力を入れてないんだよな」

「なるほどな。でもさっきも見たけど砦は作ってるじゃないか」

「今のゲネブ公になってから少しだが対策を取っているみたいだけど、あそこで本格的に迎え撃つというより時間稼ぎの為じゃないか」


 来る時にヤギ村で昼飯を取ったが、大きくはないが頑丈そうな砦が建設中だった。父親が第三警備団に居るモーザの情報によると、ダンジョンで警護についている警備団の現場の本部的な役割を期待して作っているらしい。


 ウーノ村のように村長宅と教会は割と強固な壁に覆われていたが、同じ様に逃げ遅れた村人はその砦で救出を待つ感じになるのだろう。ダンジョンの階層が深いと言うことはそれだけスタンピード時にあふれる魔物の強さも高くなるため、やはり最終的にはゲネブで迎え撃つのが対応策として決められているらしい。



 ダンジョンの周りにも砦が建てられており、それはダンジョンの入口を囲むように建てられた石壁に組み込まれた形だ。砦は石壁の中と外に入り口があり、スタンピード時は砦の中から落とし格子で出来た正門を閉ざして魔物を足止めしつつ、砦の壁の外に出入りできる小さな入り口からゲネブに逃げるようだ。よく考えられている。


 ただ、落とし格子の門っていうのは下をくぐる時ちょっと緊張するな。まかり間違って落ちてこねえかとか考えてしまう。



 ここのダンジョンは太古の昔に霊廟か墓の様な遺跡がダンジョン化したものらしく、苔だらけのマヤ遺跡とかのピラミッドっぽい形をしている。正面に動物の口のようなデザインの入り口があり、そこがダンジョンの入口になっている。


 話によると各地のダンジョンはこういった古代遺跡がダンジョン化した場所が多いらしい。祀られていた精霊が魔素に毒されてダンジョンを作り始めたのではという仮説もあるという。


 石壁はその遺跡の周りを囲む形で出来ているが、中の広さはあまり大きいわけでもなくダンジョンから出て野営の準備をする冒険者たちでむさ苦しい状態になっていた。以前モーザと来た時は中のセーフゾーンで野営をしたので外の状態はこんなになっているのは知らなかったな。



「おお? なんだ随分若えパーティーだな。大丈夫なのか?」


 野営するスペースを探していいるとヒゲモジャのおっさんが話しかけてきた。ずっとダンジョン生活で風呂も入って無さそうなナリだ。


「いや、僕たちはコッコー捕まえに来ただけで、ダンジョンには入らないですよ」

「がははは。コッコーか。まあ頑張って捕まえてくれや。捕れたら買い取ってやってもいいぜ」

「ははは。依頼なんで数が必要だからどうでしょう。いっぱい捕れたらよろしくおねがいしますね」

「おう。任せておけ」


 近寄ると匂いが大分キツイが、悪いおっさんでもなさそうか。あたりを見回しても冒険者ギルドで見かけたことのある顔が見当たらない。冒険者も色々と違うもんなんだな。


 とりあえず場所を確保し、タープを張って今日は3人で川の字になって寝ることにした。


「料理は……やめておくか?」

「ああ、あまり目立つとよく無さそうな気もするな」

「しょうがねえか。寂しい食事だが乾き物齧って寝るか」

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