第156話 祭りの準備 2

 朝からガヤガヤと冒険者たちがダンジョンの中に吸い込まれていく。タープを畳んでいると、昨日声をかけてきたヒゲのおっさんが「お前らも気をつけろよ」と声をかけられた。


 ダンジョンに籠もるモグラ達は、言わば山師だ。オーブだったりとレアな素材などの一攫千金を夢見て毎日のようにダンジョンに入る。飯がなくなればまた村や街に行き用意をしてまたダンジョンに籠もる。ここにもたまには行商人が来るようだが、スス村の鉱山ダンジョンと違ってここまで来るのに龍脈を外れるため危険は多い。毎日のように商人が来るわけではない。


 元々は皆ダンジョン内のセーフゾーンで寝泊まりするほうが多かったらしいが、ここの所魔物の量が少し増えているらしく、彷徨く魔物がたまにセーフゾーンに紛れ込むことが多くなってきてるという。

 そもそもセーフゾーンは魔物が湧いたりしない場所なのだが魔物をトレインしてセーフゾーンに逃げ込んでも魔物は追いかけてくる為、魔物がやってこない場所ではない。それなら外のこの場所のほうがゆっくり眠れると、割と低ランクの冒険者達は夜になると外に出てくるようになってきたようだ。


 でもまあ、そんなモグラの人生俺は駄目だなあ。大当たりして悠悠余生を楽しめる冒険者もいるかもしれないけどなあ。飽きそうだ。



 俺達もタープをしまい、ダンジョンを囲う門から出ていく。


「なあ、別々で探したほうが効率いいんじゃないか?」


 狩場に向かう途中にモーザがそんな事を言う。


「ん? まあそうだな……お? なんだ勝負か?」

「は? ……ほほう。面白そうじゃねえか」


 盛り上がりかけたところでスティーブが戸惑ったように言う。


「え? 僕もですか?」


 あ……


「いや、スティーブは俺と一緒にやろう」

「そうだな、スティーブはショーゴと組め。流石に1人で森の中はまだはやいだろう」

「おう、がんばろうな」

「は、はい」


 とう言うことで、モーザVS俺とスティーブの構図が出来上がり、とりあえず太陽が真上に来る時間に一度ダンジョンの所で昼飯を取る約束をする。取ったコッコーはジロー屋のオヤジの言うとおりに血抜きをして処理する。



 モーザと分かれてスティーブと2人で森の中を駆け回る。あまり目印のない森の中だ。場所を確認しながらコッコーを探す。



「……よし、スティーブやってみろ」


 茂みの影からウロウロとするコッコーを2人で眺めながらスティーブを促す。ゴクリとつばを飲み込みスティーブはそっと弓を構える。


 ……


 シュッ


 

 クワァア!!!


 ! 外れたか。だが動物と魔物の違いは攻撃を受けた瞬間に相手を探し攻撃に移ろうとする。コッコーは地球のニワトリに近い魔物であまり飛ぶのが上手くない。と言ってもそれなりには跳ねてくるが。


 高く跳ねたコッコーが茂みの影にいる俺達に気がつく。着地をした瞬間にコチラに向かってきた。


 <ノイズ><ラウドボイス>!!!


 グゥ


 倒れたコッコーに近づき素早く絞めながらスティーブに話しかける。


「なんか割とすぐに見つかったな。まあ矢を外したのは気にするな。昨日の今日だし次は体には当てたいな」

「はい、すいません」

「謝らなくていいよ。これも練習なんだから。出来るなら練習いらないだろ?」

「そ、そうですね。がんばります」



 それから昼までになんとか3匹のコッコーを捕まえた。なんかフォレストボアみたいになかなか居ない魔物かと思っていたが割と居るようだ。

 ダンジョンまで戻ると得意満面のモーザが入り口に立っていた。


「どうだ? 捕まえられたか?」


 モーザに氷室の蓋を開けて中を見せる。


「おう、3匹だ。そっちは……手ぶらか?」

「いや、今そこに立て掛けてある」


 モーザの言う方を向くと、壁に立て掛けた槍に5匹のコッコーが吊るされていた。


「……やるじゃねえか」

「ふっ。俺の勝ちのようだな」

「……前半戦はな」

「は? 昼までの勝負だろ?」

「そんな事ひっとことも言ってません~」

「くっ……まあ良いだろう。更に差をつけてやる」


「あの、氷室にあと数匹しか入らないですよ?」


「え?」

「あ……」



 それでも氷室に満杯になったら冒険者たちに振る舞おうと決め、昼飯を食べた後、再びモーザと別れ森の中に入っていく。


「モーザさん凄いですね」

「まあ、あいつ<気配察知>持ってるからな。森の中を走りまくればまあ勝てねえよ」

「解っててやってるんです?」

「たまには遊びの要素ないとつまんねえだろ?」


 こうして夕方まで森の中を駆けずり回った。


 ……


 ……


「……なんでお前らボア持ってるんだよ」


 そう。途中でフォレストボアに遭遇し。スルーするのも勿体ないので持ち帰ってきたんだ。当然、遠くから必死こいて運ぶのでコッコーは増えず。モーザが再び大量に捕まえたので無事に氷室は満杯になったのだが。


 ぶつくさ言いながら、モーザもボアを一緒にさばいてくれる。俺はダンジョンの囲いの外で火をおこし大量の肉を焼き始めた。一応ちゃんと砦の警備団の人に許可を取ってあある。第三警備団のモーザの事を知っている団員であったため問題なく許可はおりたのもあるかもしれないが。

 その代わり匂いにつられて魔物が来たら自分たちで処理しろよと言われたが。笑いながらだったのでもしものときは助けてくれるつもりなんだろう。肉が焼けたら彼等にも振る舞ってやろう。



 やがてゾロゾロと冒険者達がダンジョンから出てくる。


「おお。すげえなお前ら、ボア捕まえたのかっ!」


 ヒゲのおじさんも、ボアの匂いに釣られてやってくる。


「ちょっと重いので軽くするの手伝ってもらっていいですか」


 そう言いながら焼いた肉を適当な葉っぱに乗せて渡す。


「まじか。お前なんか頭の上に変なの浮かばせてるからチョットやばい奴だと思ってたが、良いやつじゃないか。ありがてえ」

「変なのって言わないでくださいよ」

「そんなの見たことねえからな。そりゃ警戒もするさ。火の魔法使いが練習でファイヤーボールを出しっぱなしにしたりするって話を聞いたことがあるがそんなもんなんか?」


 なるほど、昨日も話しかけてきたのも実は探りを入れてきた感じなのか。まあそういうのを警戒できないと冒険者もやってられねえのかもな。それにしてもファイヤーボールの練習か。そういう言い訳も出来るのか。ありだな。


 無料ってわけには行かねえだろうとオヤジが言うので、魔石1つと交換でと持ちかけると喜んで交換してくれる。周りで見てた冒険者も袋から自分の魔石を取り出し俺も俺もと差し出してきた。


 何人かが肉を食らっているとそれを見てさらにどんどんと冒険者が「俺にもくれ」とやってくる。またたく間にあれだけ有った肉が消えていく。


「骨はどっかに捨ててくるか」

「お、おい。それが大事なんだよ。なんてことを言うんだ」

「は? お前骨を食べるのか?」

「いや、これでジローのスープを作るんだよ」

「まじか……」


 氷室には入らないが明日急げばなんとかなるか。今度氷の魔法があったら覚えたいな……覚えられたらだけど。


 一応氷室の隙間に魔道具で作った水を淹れたコップなどを入れ、氷を作っておく。明日の朝袋にこいつを入れてなんとか痛むのが防げたら良いんだが。

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