第157話 戴冠式フェス 0

 朝から日の出の時間にダンジョンを出発してゲネブを目指す。肉のおかげでダンジョンに入っていく冒険者達が皆声をかけてくる。


「気をつけて帰れよ」

「昨日はごちそうさん、ありがとよ」

「今度はダンジョンに遊びに来い」

「今度は酒も持ってこいよ」


 風呂にも入らねえ汚いオヤジだらけだが、まあ、悪い奴らじゃ無さそうだ。



 ヤギ村の食堂で氷を貰えたのでフォレストボアの骨を詰め込んだ袋に氷を追加してさらに先を急ぐ。スティーブも必死についてきている。


 途中休憩しているとスティーブがぐったりしながら聞いてきた。


「裕也さんに鍛えられて戦闘は自信が付いてきたんですが、体力がなかなかつかなくて」

「ん~。スティーブはこれから体も成長していくし気にしなくて良いんじゃないか? まあベースが上がるのを待てなくてスキルとか付けたいなら毎日ゲネブの周りを走ったりしてさ、訓練するしかねえよな」

「スキル、訓練、ですね。がんばります」

「おう、頑張れ若者よ。その一歩が道となり、その一歩が道である。行けば解るさ。だな」

「はあ……」


 あれ? 男なら誰だって熱くなる詩の一節なのに反応悪いな。まだ子供には解らねえか。




 日が傾く頃ようやくゲネブの街が見えてくる。


 すぐにジロー屋に駆け込み納品する。携帯氷室いっぱいのコッコーにオヤジも大満足し、更にボアも喜んで受け取ってくれた。


 厨房裏にはテントの骨組みのような物も積まれており、明日の午後から設営が許可されるようだからモーザとスティーブは時間になったら設営してくるようにと言われる。俺はスープ作りを手伝うように命じられた。


 明日の昼にジロー屋で集合する事にし今日は解散だ。


 と。


 帰ろうとしたらオヤジに、コッコーの下処理を命じられる。


 俺だけ。




 氷室から出して少し溶け始めた所で、言われるようにコッコーを捌き、肉と鶏ガラを分けていく。鶏ガラの血合いなどの汚れとかを地道に綺麗にしていくのが面倒くさい。普通は肉を食べるのがメインなんだけどな、スープを取るには鶏ガラがメインになってくる。


 やがて店を閉めたオヤジが裏にやってくる。そのまま黙って俺の下処理したコッコーをチェックしはじめた。シーンとした空気の中、なんか不思議と緊張する。


「まあ、このくらい出来てればいいか」

「あ、ありがとうございます」


 手伝ってくれると思いきや、オヤジはボアの骨を取り出し下処理を始めた。まあ、きっと明日も営業はやってそうだもんな。


「結構肉があるんだけど、これはどうします?」

「うーん。フライにして売ってもいいが、今回はテンイチ1本で考えている」

「それならフォルやスティーブの家に少し持ってってあげてもいいですか?」

「ああいいぞ、お前もいるなら持ってけ」

「じゃ、モツの部分だけ貰おうかな」

「……モツだけか?」

「酒のつまみみたいなもんですけどね、煮込もうかと。またちょっと醤油分けてください」

「いいぞ、その代わり出来たら少し持ってこいよ」


 ボアの下処理を終えるとまた氷室に戻し、今度はちゃんと俺の方を手伝ってくれた。ある程度下処理が終わった段階でようやく解放された。




 ようやく家に帰りシャワーを浴びほっとする。今回は2泊か。まあチョット離れるだけでも自宅のありがたさが倍増する。ベッドの上でなんとなく漂う龍珠を眺めながら、動かす練習などをしてみる。


「ガルよお。お前ほんとになにもんなんだ? 役に立つ存在だと嬉しいんだよ。後見人としては」


 触るとビリビリするということで、ガルバニーと名付けたものの、言いにくいからな。ガルって呼ぶことにする。無愛想なガルは何も喋らない。ただなんとなく意識が繋がっているのか微妙に動かすことは出来る。このまま練習を続ければもっと自由にコントロールすることが出来るのだろうか……。


 そうこうしている内に段々と眠気が強まる。気がつけば夢の中に沈んでいた。



 

 午前中に店に顔を出したらズルズルと色々命じられそうな悪寒を感じ、のんびりと昼になってからジロー屋に顔を出す。今日は昼で営業を終えるようだ。スティーブとモーザは許可証とテントの部品を受け取り中央通りに向かう。俺はスープ作りを手伝う。


 デカイ寸胴鍋のようなものに鶏ガラや野菜を入れて煮込み始める。


「これだけ作ると、裏ごしするの大変そうですね……」

「ん?裏ごしはしないぞ、そこのミキサーでやるんだ」


 言われる方を見ると、何やら手回しのハンドルの付いてるミキサー風の物体があった。

 この世界にもあったのか。ミキサー。


「これは?」

「ああ、領主の館で以前俺が使っていたものだ。壊れて新しいのを買い換えるということで古いのを貰ってきたんだ」

「え? 壊れてるんですか?」

「いや、壊れてないぞ。ちゃんと使えるから安心しろ」

「いやだって、壊れてるって」

「壊れている体だ」

「うわあ……」


 後任の料理長を脅して奪ってきたに違いないな。


 

 やがて設営を終えた2人も帰ってくる。オヤジが2人はもう今日は大丈夫だから帰っていいと言っている。なんか、俺に対してより優しくね?


「そうだ、2人ともコッコーの肉持って帰れよ。食材は有れば使うだろ?」

「ああ、使うだろうが……まさかコッコーも骨だけ使うのか???」

「お、解ってきたじゃねえか」

「まじか……」


 スティーブも喜んで受け取る。


「いいんですか? ありがとうございます!」


 スティーブの家は大所帯だからな、かなり多めに持たせてあげる。


「スティーブ。ついでにフォルの家にも少し届けてもらっていいか?」

「あ、はい。良いですよ」

「ついでに魔石も持ってってやれ。あいつの家の氷室、魔石の補充してるか怪しいからな」

「わかりました」


 嬉しそうにコッコーの肉を持ってスティーブは帰っていく。モーザは手伝わなくて良いのか? と聞いてきたが、モーザに料理の手伝いはちょっと不安がある。大丈夫だと言って返した。



 お祭りの実行委員から、料理を出す屋台は普通の一人前より半分くらいで提供するように指示があったらしい。料理の屋台が予想より多く出店するらしく、1つの屋台でお腹いっぱいになると売上が偏るかもしれないということからそうなったようだ。


「そう言えば、器はどうするんです?」

「どうするって、どういう事だ?」

「え? だって屋台で料理を提供するなら使い捨てみたいな器は……」


 あ、そう言えばこの世界にそんなプラスティックのお椀とかなんて無いのか。店のを持っていくのか?


「そうか、こういう祭りみたいなのは初めてか。屋台が出るような祭りだとたいてい客が自分の器を持参してくるんだ」

「おお、マイ食器持参なんだ。エコだなあそれ」

「エコ? なんだそれ?」

「いや、使い捨てみたいなのは勿体ないなって」

「……お前の国だとそういうのがあったのか」

「まあ、そんな感じです」


 プラスティックゴミによる環境破壊とか、イメージすら沸かないだろうな。この世界の人達じゃ。


 食器を持ってこないお客のために一応運営事務所でも食器を売り出すらしい。木の器に即位の記念品の様な焼印が押されているらしく、記念品としてわざわざそれを使いたいってコレクターもいるようだ。


 いずれにしても、明日から3日も祭りは続く。4人もいれば途中抜けて他の屋台で食事をしたり出来そうだもんな。ちょっと楽しみになってきた。

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