第158話 戴冠式フェス 1

 当日は朝から中央通りは多くの人が集まり、各々出店する露店の準備をしている。もともと活気のある街だがここまで活気のある街は初めて見る。中央通りの幅の広い道の上を建物から建物へと色とりどりの旗が飾られ否応なしに祭りの雰囲気を盛り上げていた。


 準備をしている人々の笑顔も明るく、この空気の中に居るだけで気持ちが上がる。



 仕事は前もってスープは出来ているので、麺を茹でて盛り付けるだけだ。俺はガンジャ……いわゆるネギだな。それを細かく切るのとチャーシュー的なジローに使ってる肉をジローで使うときより薄めに切っていく様に言われる。はじめは麺茹でや盛り付けをオヤジがやってみせるようだ。そのうちモーザとスティーブにも変わってもらう予定だ。


 料理系は匂いなどの問題なのかある程度まとまって設置している。ここだけじゃなく離れたところでも同じ様に料理系をまとめたブロックはあるようだ。フライドポルトやコッコー揚げなど様々な露店が並ぶ中、ジローを提供する店もあるようだ。こっそり見てると、いつだか食べたトマトスープのジロー屋も居た。


 まあ、中途半端なジローならテンイチの敵じゃないとは思うが。



 時間が来ると開催の合図なのか花火が打ち上がる。広い街の中のイベントなので色んな所で催しは開催されている。話によると教会では新国王の栄華を祈念してのミサなどが行われたり、中央公園でも色々と催し物が行われているようだ。


 ちなみに領主は1ヶ月以上前に戴冠式に参列するために王都に出発して居ない。この祭りは留守を任された貴族たちがゲネブの住人の為に開催すると言う主旨のようだ。



「このテンイチってのはジローとは違うのか?」

「えっとジローの仲間ですが、一応違う食べ物として提供させてもらってます」

「うーん。ちょっと喰ってみるか」

「あざーっす。少々お待ち下さいね」


 歩きながら食べれる軽食と違うため昼の時間までは出は悪いかと思ったが、それなりに客は来る。ジローと言う食べ物が大分世の中に浸透している為、テンイチを見てもジロー?という反応がほとんどだ。


「おうっ! なんだこれ。ドロっとして麺にスープがしがみついてくるなっ」

「そうなんですよ、麺よりスープを楽しめる感じかもしれませんね。どうです?」

「どうって、いや。これはうめえよ。ジローより好きかも」

「おお。ありがとうございます。まだ店じゃ1日限定10食しか作れていないですが、もしよろしかったら店にも来てください」

「おう。行くぜ。間違いなくリピートするわ、店はどこにあるんだ?」


 ふふふ。やはりテンイチ。一時代を築いたラーメンだ。ジローにも負けないインパクトがあるぜ。




 どの客も自分の器を出してくるので、浅底に毛の生えた様な器を出されるとちょっと困ったりする。それでもなるべくそこに入れて提供はするが、完全に皿だと運営事務所で器を買ってきてくれとお願いしたりする。


 モーザは無愛想だし、スティーブもキョドってて客対応が微妙な上、肝心のオヤジも負けずにぶっきら棒だ。必死に俺が笑顔で対応する。なんでも屋をやってるんだからモーザもスティーブもこういう100万ドルの笑顔を早く身に着けてくれないとな。


 昼に成ると忙しさは増してくる。なんか知らないが俺1人で笑顔を振りまいている感じで早々に表情筋が疲れてくる。客は客で、結構評判が良いものだから、その都度店の場所を教えたりするのだが。お前らもうちょっと丁寧に教えないと駄目だろう……。




「お、兄ちゃんやってるな。スティーブもちゃんと働いてるか?」


 リンク、オーヴィ、モナの3人が冷やかし半分で顔を見せる。奥にはスティーブの家族が勢揃いしている。きっとスティーブの様子が気になって見に来たのだろう。


「スティーブはもっと愛想よく笑ったほうが良いぞ」

「わ、笑ってるよ!」


 家族にからかわれ恥ずかしそうに言い返している。

 そして何杯かを家族でシェアして食べると、頑張って働くスティーブの姿に安心したのか、「またな」と去っていく。


 街中が祭りを楽しんでいるようで良いなあ。



 昼が過ぎると少し客足がゆるくなり、オヤジの指導の下モーザとスティーブも麺を茹でたりし始める。それを見て俺は休憩がてら他の店を散策してみることにした。


 露天は日本の祭りに並ぶ屋台に似たような物も割と多い。紐を引いてその先に当たりくじが付いているものとか、だ。驚いたのが弓屋のオヤジが小さい弓をこしらえて射的的な店をやっていた事だ。冷やかし半分に並ぼうとすると「おい、お前は駄目だ。みんな持っていきそうだ」なんて断られてしまったが、みんな各々楽しんでいて良いな。


 教会のミサとかも見てみたかったが時間的に1人であまりブラブラしていると怒られそうだからな。適当に摘む物を買って戻っていく。


「どうだモーザ麺茹でできそうか?」

「はん、こんなの簡単だ。問題ない」


 モーザが強がっていると横からオヤジの叱責が飛ぶ。


「こんなのだと? 麺茹で舐めるんじゃねえ!」

「げ。あ、はい。すいません」


 くっくっく。さすがのモーザもオヤジには敵わねえようだ。4人で雑談をしていると後ろから声がかかる。お客かと思ったが商業ギルドの受付をしているサラさんだった。


「こんにちは、ショーゴさんたちも頑張っているようですね」

「あ、サラさん。こんにちは。サラさんも食べていきますか?」

「まだ仕事中なので、またお願いしますね」

「仕事? サラさんも何かお店出しているんですか?」


 そう言うとサラさんはキョトンとする。


「このお祭りの露店の仕切りは商業ギルドでやっているんですよ」

「あ、そうだったんですね。ご苦労さまです」

「それで……その玉。まだ浮いてるんですね」

「はは……大分慣れてきちゃってます」


 そうだなあ、俺慣れてきちゃってる。なんかそのうち玉男とか噂が出そうだな。




 夕方再び混んでくる。なんとなく昼より出てる気がする。客の反応も上々だし、少しづつ噂になるのかな。オヤジも明日はもっと出るかもしれないなと途中で店に仕込みに戻る。次第にモーザとスティーブも仕事に慣れてきてお客も問題なく回せてきた。


 程なくしてスープがきれる。かなり多めに有ったのだがよくもまあ売れたもんだ。麺もあと僅かだったのでスープの量はこんなもんでいいのかもしれない。露店の前に本日売り切れの看板を出し片付けを始める。


 一応モーザにジロー屋にスープ切れで閉める旨を伝えに行ってもらう。


 早めに閉めたからスティーブと、モーザが帰ってきたら祭りをぶらぶら見ようぜなんて話てると、モーザが帰ってくる。


「ショーゴ、明日のスープ作り手伝ってくれってさ」

「う……だよなあ。まあしゃあないか。2人で楽しんでおいで」

「はっはっは。まあ俺たちも露店で飯食うくらいだ。旨えのあったら持ってくわ」

「おう。よろしく頼みますわ」


 ということで俺はオヤジの仕込みを手伝いに向かった。

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