第184話 パレード

 この日も城壁の門は全開になっており、いつでも国王を迎えられる状態だ。中央通りの両端にはコレでもかと言う数の人が集まっている。民衆はやがて現れる国王の話を期待いっぱいにしていた。建物の2階から見ることは禁止されているため両側の建物の2階の窓は全てしまっている状態だ。


「んん……なんか満員電車に乗ってるみたいだよ」

「お尻とか触られたら言えよ」

「省吾君が一番怪しいです」

「いやん!」



 しかしなかなか国王が入ってくる気配はない。まあ国王のゲネブへの到着に合わせてのパレードになるからそんな時間を合わせられるワケは無いんだが……。そんな中1騎の騎獣にまたがる騎士が城門から入ってきた。


 おおおおおおお~


 街の中にどよめきが走る。恐らく前触れだろう。騎士は王国旗を片手にゆっくりと貴族街の方まで入っていった。そろそろ来るのか?


 アチラコチラで、「これ以上前に出るな!」「後ろから押すな!」等の警備団の面々の怒声が響く。一応中央通りの両端に紐でこれ以上前に行っては駄目というラインを作ってあるが、民衆はどうしても前のめりになってしまうものだ。



 やがて城門の方から大きな歓声が湧く。どうやら来たようだ。みつ子も必死で見ようとしているがちょっと前の男性集団で前がよく見えないようでピョンピョンと必死で跳ねている。


「みっちゃん、ちょっと持ち上げてやるよ」

「え?」


 返事を待たずに後ろから太もものあたりを両手に抱え持ち上げる。やべ。いい匂いだ。龍珠がみつ子にぶつからないように気をつけないとな。


「おお、よく見えますよ。省吾隊長!」

「王様は見えますか?」

「まだ護衛の騎士が入ってきただけ、あっ。とても豪華な獣車が見えます」

「おおお。来たかあ」


 獣車は次第にこっちに近づいてくる。数台の獣車は皆豪華絢爛に飾られており見るからに偉い人の物だと分かるものだ。引いてる騎獣もあまり見たことがないような騎獣だ。そして獣車は屋根が開くようで屋根から顔を出して手をふる……公爵の姿が見えた。


 愛される領主なのだろう、「おかえりなさい」なんて声が飛ぶ。


 うん、でもこの獣車はどうでもいいな。



 その後ろからやってきる獣車はすぐに国王の乗る物だと分かった。恐らく防御魔法が張られているのだろう。ぶっとい魔力に覆われた獣車が公爵の何台か後ろからやってくる。



 あれかあ。


 流れるような金髪にキリリとした20台後半くらいの好青年が、その獣車の屋根から顔を出し民衆に向かって手を振っていた。


 手をふる国王と思われる青年に向かって女性たちの「エリプス様~」なんて歓声もあがる。民衆も我先にと必死に手を振っていて、電気的パレード的な様相を呈していた。国王が向いた方角の女性から黄色い歓声があがったりする。まあ確かにイケメンだわな。



 国王が通り過ぎると後から、護衛の騎士たちが通り。その後から見たこと有る青年が、獣車の中で青白い顔をしてキョドっているのが見えた……ウーノ村のナルダンだ。


 うわあ……たしかナルダンも公爵の直属の貴族だったかも。こういうの慣れてなさすぎで哀れ感半端ないな。




「え? パンテールさん?」


 その時、一番うしろからついてきている冒険者らしき集団を見てみつ子が呟く。パンテール???


「パンテールさんって、アルストロメリアの?」

「うん、国王の護衛で雇われたのかな?」

「へえ……あそこの女性たちか」


 見るとたしかに4人の女性の冒険者が居る。パンテールはどれだ? みつ子に教わったその人は……うん。おばちゃんかな? 鎧着ていなければ普通の肝っ玉母ちゃんみたいな感じだけど。アマゾネスみたいなのをイメージしていただけに意外だわ。横の女性冒険者の方がキリリとしてて……。


「げっ」

「ん? どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」


 パンテールの横にはスス村で<剛力>を探しに来ていたアルストロメリアのパーティーの1人がいた。たしかアレってパシャとか言うタンクじゃなかったっけ。末端の構成員みたいに言っちまったけど。ここに入れるレベルの人間だったのか。ていうかみつ子と会うのかな? ボロクソ言っちまったからなあ、やべえかな?


 さり気なく話題をずらす。


「他にも居るのって王都の冒険者?」

「うん、もう1つのパーティーも王都のAランクパーティーだね」

「ほほう。ていうかこの世界Sランクって居ないのか?」

「ああ。そう言えばAまでだよね」



 ちょうどパンテール達が横に来た時にみつ子が大声で叫んだ。


「パンテールさ~ん!!!」


 パンテールはすぐに気が付きこっちを見る。みつ子の顔を確認すると嬉しそうに笑顔を向けて手を振ってくれる。「パンテール? あれが?」周りでみつ子の叫びを聞いた人々がザワザワとする。


 パンテールと一緒に居るパーティーのメンバーもみつ子の顔を見て手を振っている。


 ……


 パシャ以外は。


 パシャは俺にすぐに気がついたのか、すごい目でこっちを見ている。ヤバい。


「あれ? パシャさんなんか機嫌がよろしくないのかな?」

「え? どっどの人?」

「ほら、あそこの盾を持ってるキレイな人。アルストロメリアのナンバー1タンカーなのよ。ん? なんか省吾君の事睨んでない?」

「え? 睨んでる? かも? ……みつ子をアルストロメリアから奪った人って思ってるのかな」

「うーん。まあ少し気難しい人ではあるんだけどねえ」



「後でギルドに伝言伝えるっ!」


 パンテールはみつ子に大声で一言だけ伝えてパレードとともに通り過ぎていった。


 


 パレードが通り過ぎ規制が解かれた場所から、通りの両脇に固まっていた民衆が中央通りの真ん中の方に流れ、領主の館の有る方に集まっていく。中央通りの貴族街の門の手前にある公園には高台が設置してあり、そこで国王が民衆に話をするという話だ。


 やがて司会的な貴族が、国王からお言葉を頂戴する旨を拡声器の魔道具で民衆に知らせる。


 国王はゆっくりと、設置してある高台に登っていく。後ろには公爵と伯爵の姿も見える。


 国王からの言葉を聞き逃さまいと、民衆は口を閉ざし静かに見守っていた。

 程よい間を空け、国王が口を開く。



「パテック王国国王の冠を預かることになったエリプス4世だ」

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