第185話 貴族街へ


 堂々と胸を張り、国王は話し始める。コレは拡声器じゃなく<ラウドボイス>か?


「予は、幼少の時分に5年ほどここゲネブで暮らしていたことは知っているものも多いだろう。その時にカマス公とピケ伯に様々なことを教わり今の予がいる。これから予が行う政治の基礎もここで学んだ。……まあ公爵には悪いことも沢山教わったがな」


 クスクスと笑い声が広がる。上手いな。


「予にとってはゲネブは第2の故郷と言っても過言ではない。ゲネブは王国でも屈指の大都市だ。だがこれからまだまだ栄えてもらうつもりだ。その為には国も出来る限りの援助をしていくつもりだ」


 ゲネブの繁栄を約束するかのようなその演説に民衆は期待を込めた顔で国王を見つめる。


「戴冠の儀に参列してくれた他国の使節達とも、龍脈や神樹以外に魔物を産み出す魔素を払う技術がないかという共同研究の約束も取り付けた。この広い大陸で人々が安心して住める場所を広げるため、予は出来る限りのことをしていくつもりだ」


 ふむ。そんな物が有るのか。まあ国が発展していくには龍脈沿いに細々と暮らしていくだけでは限界がある。それに関しては他国も同じなのだろう。それにしても国王って言ったって見た感じまだ20代だろ? 苦労するなあ。


 その後、ゲネブの街の良さを褒め称えたり、国のために力を貸してくれと呼びかけたり。国王と言うよりなんとなく政治家の演説っぽいなあなんてところも有りつつ。演説は締めくくられる。


 民衆も国王の名前を連呼し、ヒートアップする。国王もそれに手を振り応え。そして貴族街へと消えていった。




「演説上手だったなあ」

「うん、ウィットに富んでるっていうの? ガッチリ民衆の心を掴んだって感じ」

「伯爵が原稿書いてそうで怖いけどな」

「なんか、省吾君の話聞いていると伯爵ってほんと凄そうだねえ」

「凄いと思うよ。けっこうビビったもん」



 パレードが終わると、一度事務所に戻り3人は警備係の待ち合わせ場所に向かった。俺は適当に昼飯を食べ。家に帰り館に行く準備をする。次元鞄など持ち込めないため、みつ子から借りた布で風呂敷のように礼服と割烹着を包み、通行書代わりの書状をすぐ取り出せるように上に挟んで貴族街に向かった。



 パレード時には正門が開いていたが今は横の通用門から入るらしい。話的にここの門番は第一警備団なのだろうか。装備の型は同じだが紋章の色が違う。門に近づいていくだけでこちらを警戒するような反応をする。


「ここから先は貴族街だ。許可のない者は入れないぞ」

「はい、一応コレを……」


 書状を見せればすんなり入れてくれるのかと思ったが、何やら俺の頭上の龍珠を気にして許可を出すか悩んでいる。ううむ。確か龍珠に関しては大丈夫だって書いてもらってる筈だが……。


 門の脇にある詰め所の様なところに通され、そこで解析の魔道具で名前を確認させられる。


「ううむ。有ってるか。この印も間違いないようだ」

「一応オーティス様には、いつでも訪ねてこいとは言われてるんですよ。まあ今日は仕事でですが」

「オーティス様が? ……わかった。通っていいぞ」

「ありがとうございます」



 おおおお。


 貴族街はオシャレだな。外の中央通りほど広くないが、それなりに幅のある通りが館まで続いている。館も屋根のあたりしか見えなかったが4階建てくらいはあるのか? ほぼ城と言っても良い気がする。通りの両側にはやはり店が立ち並んでいるが、市民街の中央通りにある高級店街と比べても更にセレブリティの感じが漂う店が立ち並ぶ。


 通りの両脇にはキレイに植樹などもされており、花壇もある。流石に中心は馬車などが通るためになにもないが、石畳のブロックは幾何学的な模様に配置されていて一般市街のただ石を並べただけの通りとはまるで違う。

 

 なんとなく、街を歩く貴族たちから変なものを見るような視線を感じるが貴族街のセレブたちとなるべく目を合さないように館を目指す。何気なしに両脇の店などを覗いてしまうのだが、一般市街と比べ店舗区画が限られているのだろうか、メイン通りにも食材のお店なども見られる。やはりというが見慣れぬ果物などもあり、時間があったらみつ子にお土産でもと思ってしまう。



 ジロー屋のオヤジに言われたように館の正面口でなく、右の裏の方に回ったところにある従業員口の様なところから入っていく。


「何者だっ!」


 やはり国王の滞在というのもあるのだろうか、変な珠を浮かべた黒目黒髪の男が近寄れば館の衛兵は緊張した面持ちで声をかけてくる。


「料理人の助っ人で呼ばれてきました。書状もあります」


 流石に領主の館の衛兵は警備団とはまた別の組織なのだろうか。装備がまた高級感を漂わす。こちらは完全に兵隊といった感じか。


 先ほどと同じ様な解析の魔道具で再び身元を確認される。


「中に入るのは初めてだな?」

「はい」

「ちょっと待ってろ」


 そう言うと衛兵は壁に付いている金属のラッパのような物の蓋を空け何やら話をしてる。おおおお。これって館の中にチューブが繋がってて会話が出来るやつじゃね? ファンタジー感あふれるギミックじゃねえか。ちょっとうれしいな。


 やがて1人のメイドさんがやってきた。


「助っ人で呼ばれたようだ。料理場まで案内してくれ」

「かしこまりました」


 メイドさんは俺の方に「それでは付いてきて下さい」と言いスタスタと歩き出す。なんか楽しくて壁とか屋根の作りなど見ていた俺は慌ててメイドさんの後を追った。


「すごいですねえ。天井もあんな高い……」

「ここは領主の館として300年以上の歴史のある建物ですので。初めての方は皆驚かれます」

「大聖堂も凄かったですが、負けてないですね」

「ゲネブ大聖堂はこの館とほぼ同じ時期に建てられたと聞きます。当時の流行が同じ様に取り入れられていますので、似ている所も多いですね」

「ほほう……」


 静かな館の中をカツカツと言う足音が響く。たまに奥の方に貴族の人らしき姿などは見えるが通っている道は従業員の使う場所のようですれ違うのは掃除人やメイドさんのような人達くらいだ。


 従業員口から中に入り、奥のにある階段を登った2階に上がるとガチャガチャと料理をする音が聞こえてくる。


「おい、もっと長さと太さを揃えろ。味だけ良ければ良いってもんじゃねえんだ!」


 おお? なんかオヤジの偉そうな声が聞こえる。なんとなく後を任せた後輩の粗を探す先輩みたいだなあ。嫌われるぜ、こういうの。


「それでは、ここでよろしいですね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「それでは」


 料理場に付くとメイドさんはまたもと来た方へ帰っていった。料理場は夕食の準備を始めているのか料理人達が忙しく動き回り、既に戦場のような状態になっていた。


「おう。ショーゴ。来たか」

「おう、ちゃんとやってるか?」

「何を偉そうに」

「いや、なんか負けられないかなって」

「何にだよ!」


 まあ、ほら。ねえ?


 初めての場所で、初めて会う人達。ちょっと気をはらないとね。

 怖いじゃん?

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