第244話 王都に向けて 6
街に入ると俺達はまず宿を取る。冒険者の多い街のため宿はかなり多いのだが、貴族の泊まるような高級ホテルはあまりない。それでもこの街にもラモーンズグループのホテルが有ったため、すぐに決める。
「道中全部高級ホテルって贅沢だよなあ。しかも宿泊代全部無料とか」
「そこら辺は依頼を受けてよかったのかもね」
「ううん……まあそうだね」
俺にとっては初めての街で外に出たい気持ちもあったが、また外で食べるとか言うとリル様が付いてきて護衛騎士達が困りそうだしな。我慢をする。
走って汗だくだったのもあり、俺達は先に風呂に入ってからホテルの食堂に向かう。
ホテルの食事も一応地元の食材などを使っているようで、ゲネブではあまり見ない料理がちらほらある。うんうん。それなりに楽しめそうだ。
リル様と別のテーブルで俺達サクラ商事の面々は大皿の料理を何個か頼み、いろんな料理を少しずつ味わうことにした。
「ふうん。騎士たちは大皿で私達と一緒に取り合うのを嫌がるから色々な料理を味見できないのよ」
気がつくと俺達のテーブルにリル様もやってきて、大皿が並ぶテーブルを羨ましそうに眺めている。ここの支払いもリル様がしてくれることを考えると断れないし、店員に頼んで席を一つ増やしてもらう。
「じいさんはもうハーレーの背中は慣れたのか?」
この頃になると、もうエロジジイに丁寧語などは使わなくなっている。
「そうじゃの。多少揺れるけど。フルリエさんが支えてくれるから大丈夫じゃぞ」
「フルリエ、あまりじいさんを甘やかすなよ」
「あら。ショーゴさん。嫉妬かしら? ふふふ。ミツコさんに怒られますよ」
「そっそんなんじゃないって」
「へえ。省吾君、おじいちゃんに嫉妬しちゃってるの?」
「だからそんなんじゃないって」
うう。くそう。いつまで経っても女性にマンウントを取られるとどうしてもタジタジになってしまうじゃないか。俺は困ったように仲間を求め周りに目を泳がす。
ん?
話を聞いていたミドーが、意を決したような顔でフルリエに話しかける。
「フルリエ姉さん。お、俺もちょっと嫉妬しちゃいます!」
「あら? ふふふ。じゃあ。今日は一緒に寝てあげようかしら?」
「マジっすか!!!」
「いやいやいやいや。駄目! 駄目よ。無垢な子をたぶらかしちゃ」
「いやねえ。たぶらかしてなんて……ねえ?」
「は、はい! たぶらかしてください!」
うわあ。ミドーも女性免疫少なそうだしなあ。けっこういい年なんだけど。ほら見ろよ、リル様が興味深そうに俺たちのやり取りを見てるじゃないか。
その時、突然モーザが立ち上がる。
「ん? モーザ……お前もかよ」
「は? いやちげえよ……ハーレーが冒険者に襲われてる」
「へ? 今、か?」
「かなりの使い手のようだ。助けを求めてきてる。ちょっと行ってくる」
流石に食堂に長い槍を持ち込んでいないため、部屋に取りに行こうとするが、ハーレーから助けを呼ばれているのだろうか。すぐに思いとどまりホテルから出ていく。
「省吾君、どうする?」
「一応俺も行く、皆は待っててくれ」
「大丈夫? 私も行こうか?」
「俺とモーザが居て、問題は無いと思う。じゃあ行ってくる」
俺もすぐにモーザを追いかけようとすると、ゾディアックが「儂も行くぞ」そう言って俺の背中におぶさってくる。
「お、おい。じいさんはホテルでゆっくりしててくれ」
「なあに。気にするな。もしもの時は儂が助けてやる」
「ちょっと。ふざけている場合じゃないから」
「遠慮はするんじゃないぞ。若いんだから」
うわ……何だこのジジイ。子泣き爺か? ぎゅっと俺の背中で首元にしがみつく。取ろうにも全力を出せば腕がもげかねない。モーザが出てしばらく経つ。あまり遅れると見つけられなくなるかもしれない。
しょうがない。
俺はゾディアックを背負ったままホテルから出て、街の出口を目指して走り出した。
くっそ。モーザは全力で走っているようだ。もう姿が見えない。たしか、ハーレーは西の森の中に入っていったな。とりあえずそっちの方面に向けて走っていく。
ドゴォォォオオオ!
「なっ!」
街の門を抜けた所で、西の方で真っ赤な火柱が立つ。門番のおっさんが慌てたように門の外に出てきて、遠くに立つ火柱を呆然と眺めていた。
マジか……あれはブレスじゃないか? そこまでの敵かよっ。
しかしブレスのお陰でハーレーの位置はなんとなく掴めた。
「じいさん、振り落とされるなよ?」
「ふぉっふぉっふぉ。全然問題ないわ」
首に巻き付いた手がギュッとしまり、両足も俺のお腹の辺りをぐっと抑える。割とぎっちりつかめるな。これなら……。
俺は<剛力>も発動させ、全力で走り出した。「ひょっほ~」背中でゾディアックが声を漏らす。だが怖がってる感じでは無いな。だいぶ暗くなってきているの俺は<適視>も発動させる。
モーザも全力でハーレーの元に走っているのだろう。走っていくものの姿が見えない。だが日もだいぶ沈み、暗くなり始めている森の中では、完全なトップスピードには持っていけないはずだ。
発動させた<適視>はアクティブスキルなのだが、暗い場所や逆に明るすぎる場所、更には水の中……様々な環境に合わせて見えるようになるというお役立ちスキルだ。今は暗闇対策としての使用だが、背中には老人も居る。木々にぶつからないように、足元を滑らせないように急ぎながらも慎重に進んでいく。
やがて、先の方に人の争う気配がしてくる。魔力のモヤもかなりの量だ。近づいていくとゾディアックが「さて、ここで降りるぞ」と手を離す。一瞬俺も焦るが、感知でゾディアックが転ぶこと無くちゃんと着地したのを確認し、すぐさまモーザの方に意識を向ける。
「モーザ!」
走っていく先で、モーザが1人の男と戦っていた。男は真っ黒な服に身を包み、服をはためかせながら、ギラギラした剣でモーザの突きを尽く弾いていた。
「ショーゴ! こいつやべえぞっ!」
モーザは俺に気がつくと、槍を引いて男との間を取ろうとする。モーザの手には次元鞄に入るサイズの短槍が握られており、その穂先は男の方を向いていた。
「……仲間か」
男は俺の姿に挟撃を警戒するのか、一気にモーザにしかけていく。長めの剣で縦横無尽にモーザを攻め立てる。振りの速さもさることながらその剣にまとう魔力もかつて見たこと無い程濃厚にまとわりついている。そしてその動き。無駄らしい無駄のない流麗な剣さばきに一瞬見とれそうになる。
「やばいっ!」
ついに男の攻撃を避けきれずに、モーザは<マジックシールド>を展開して防ぐ。
「ほう……」
しかし男はそのまま剣をマジックシールドに叩きつける。「フン!」剣に魔力が集中したその瞬間。マジックシールドが叩き割られた。
モーザはマジックシールドが破られるなんて想定してなかったのだろう、槍を突こうとしたところを横から斬撃を受け、穂先部分がたたき斬られる。
「やべっ!」
モーザは必死に後ろに飛び下がる。男の剣は切り落としからすでにモーザに向けて切り上げに変わってる。すでに走り出していた俺は、切り上がる剣になんとか自分の剣を叩きつける。
ガキィイン!
更に追撃しようとする男の剣を力いっぱい弾きながら、男の正面に入る。
「俺の剣を止めるか……面白いな。お前ら」
男の顔に笑みが浮かんだ。
※年末年始の更新が少し不安でございます。
さあ、皆さんは今年いい一年を過ごせましたでしょうか。
オイラは、仕事と育児と合間に執筆。
激動の1年でございましたね。
はい。年賀状もまだ書いておらず。
子供たちは家の中を走り回り。
正月休みを無事に乗り越えられるのか。
はたまた……
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