第243話 王都に向けて 5

 ブントの街の北門で本人確認を済ますと、エドワールが同行を許可する。


「ショーゴさん。一応ゾディアック老もサクラ商事の所属ということにしてもらおうかな?」

「え? マジっすか。……いやでも……正直初めてあった人だし」

「従業員という事なら、食事代も宿代もゲネブ公から出せる。サクラ商事の代表がここに居るんです。問題ないですよね」

「はぁ、まあそうっすね。爺さんもそれで良いです?」

「おお~。儂に任せておけ。どんな悪漢も儂にかかればギッタギタじゃよ」

「まあ、無理しないでいいからね」


 ゾディアックは同行を認められて嬉しそうにハーレーに乗ろうとする。ハーレーの騎乗用の獣具から垂れ下がったロープを掴んで老人のわりに小器用によじ登っていく。上に行くと、前に居たフルリエに「一番前で景色を眺めたいんじゃ」とフルリエの前に座らせてもらっていた。


 すったもんだ有ったがようやく出発だ。


 サクラ商事の旗をなびかせ、今日はハーレーは先頭に立ち進んでいく。護衛騎士の騎獣達も大分ハーレーに慣れてきているのも有る。それ以上に隊の先頭に居たほうがドラゴンの威を借りるには丁度いいというもある。


 二股に分かれる道は1つは北門から海沿いの龍脈。もう1つは山の方を回っていく龍脈。王都へは山側の龍脈沿いに有る。当然俺たちは山側を進む。


「おお。若いなあ。走るか。そうじゃの若い男は努力をすべきじゃな。なあフルリエさん」

「そうね、走る男の子の汗も嫌いじゃないわあ」

「ふぉっふぉっふぉ。他にはどんな汗が好きなのじゃ?」


 ……ゾディアックは横を走る俺たちを嬉しそうに見下ろしている。


 それはそうだ。後ろからフルリエが心配そうに体を支えるものだから、ちょうどゾディアックの後頭部がヘッドレストのようにフルリエの大きな胸に沈み込んでいる。このジジイは完全にエロジジイ枠に収まる。けしからん感じだ。


 そんなエロジジイをミドーがチラチラとその様を羨ましそうに見ている。気持ちは解るが。危険だぞそれ!




 ゲネブから2週間近く毎日走りっぱなしだ。特にジンはかなり疲れも貯まってブントに着く頃にはいっぱいいっぱいな感じだった。たまにみつ子から回復魔法は飛んでいたんだがな。

 それでも昨日1日ゆっくり休んだのか少し元気を取り戻している。若いからな。


「まあ、ジンはまた厳しくなってきたら言ってくれ」

「はいありがとうございます。昨日見たら<体力増加>が付いていたんです。大分楽になってきましたよ」

「おお、マジか。……じゃあ後でブランクオーブにそれを入れようか」

「へ? はい? ななんで?」


 せっかく生えたスキルだ。突然ブランクで吸っちゃおうなんて言われれば戸惑うだろう。解る。解るが一応色々考えては居るんだ。


「体力はさ、レベルが上がれば自然にある程度付くから<体力増加>は無理に取らないで良いんだよ。限られた器で無駄なスキルはあまり持たないのが正解なのよ」

「だ、だけど……」

「それより、走り込みで発生する<俊敏>とかの方が実際の戦闘で役に立つし、追い込んでから<逆境>とか生えたらもっと役に立つんだよ」

「せっかく楽になったのに……」

「俺だって<体力増加>は持ってないよ。まあジンももっとレベル上げをさせてあげたいけどまあ、今は追い込んでレアなスキルを発生させたほうが後々使えるから」

「は、はい……」


 ジンは生まれたときから水魔法を持って生まれただけあって、加護に近いものが有ると思う。だからスキル枠はそれなりにあるのだが、<体力増加>で体が楽になって他のスキルの発生を邪魔することになったら勿体ない。お昼の休憩時にはブランクオーブに移すことにした。


「ほお。ショーゴ。面白い考えをするのじゃな」

「ん? まあ持論ですけどね。スキルで強さが左右される世界だから。スキルの発生もコントロールできれば良いかな? って」

「スキルのう……」


 話を聞いていたゾディアックが興味深そうに聞いてきた。

 まあ、こんなやり方をしてるのなんて、サクラ商事位だと思うからな。人間より大分長寿のハーフドワーフのじいさんでも聞いたことは無いだろうな。



 昼飯の休憩時に起きてきたリル様にゾディアックの同行を確認する。リル様はどうでも良さそうに、「エドワールが良いと言うなら私に許可なんて取らないでいいわよ」と昼飯をかき込んでいた。


 流石にリル様にはゾディアックも反応をしないのか、エリーにそっくりだとかは言うことは無かった。




 その後も特に山賊などに襲われる等無く、旅は順調に進んでいく。

 ゾディアックも妻を探しているのは本当なのかもしれない。途中の村につくたびに冒険者ギルドなどを訪れ、迷い人や、探し人の情報などを聞いて回っていた。


 ブントの街からしばらくは村が続く。それでも龍脈溜りが少し多めなのか、野営をすること無く1日1つづつ村を進む感じで進んでいく。



「おお、久しぶりに街っぽい城壁だ……」


 ブントから5日目。俺達はシーダの街へたどり着いた。大きさはシュワの街と同じくらいの規模の街だが、ここは東側に王国最大と言われるダンジョンがあるため城壁の高さもゲネブの城壁に近い高さがあり、街は多くの冒険者達が集まり活気に溢れていた。


 シーダの街に近づくと、今までと同じ様に知らない住民たちを驚かせないようにとハーレーを小さくさせようとする。


「モーザ。おで、そろそろお腹が減っただ。森の中に喰いに行ってええか?」


 ハーレーは普段はおやつ代わりに果物を食べさせているが、食事とは別になっている。腹が空くと、よくゲネブの周りの森に入っていき適当に魔物を捕まえては食べているのだが。ここの森の中にはどんな魔物が居るのだろうか。まあ、フォレストウルフや、フォレストボアは王国ならどこでも居るとは言うが。


「おう、そうか……。森で狩りとか薬草の採取している人たちが居たら近づくなよ。って俺も行ったほうが良いか?」

「だいじょうぶだで。おで1人で食事できるだわ。腹一杯になったら連絡すればいいだで?」

「うん。1人で街に入ってくるなよ、それから街に近づいたら小さくなれよ」

「分かってるで、モーザは心配性だなあ。どーんとだ」

「じゃあ。気をつけていってこいよ」


 ほんと、モーザは過保護だよな。幼生とはいえドラゴンに気をつけろとか。まあ人を食わないように気をつけろっていうのはわかるんだけどな。

 モーザとハーレーはスキルのようなもので繋がっているらしく、離れていてもテレパシーの様に意思を伝えられる。もしかしたら俺の<龍珠後見>もそのうち似たような事が出来るのだろうか。


 ハーレーは、俺達を下ろすと待ちきれないとばかりに龍脈沿いの森の中に飛び込んでいく。まあ、西の山脈側だからダンジョンとは逆側だ。人もそんな多くないだろうし。良いんだろう。


 そして、俺達はシーダの街へ入っていった。

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