第245話 王都に向けて 7
改めて目の前の男を見る。
男は瀟洒な黒い服に身を包み、身長程もある長い剣を手にしていた。年齢は壮年といったところか、裕也と同じくらいだろう。髪を無造作に後ろに縛り耳にはいくつかのリングが連なっている。不良中年と言った感じにも見える。凡庸中年だった俺にはちょっとうらやましく感じる。強そうじゃねえかよ。
モーザに撃とうとした一撃を俺に防がれた割に、口元はニヤリと笑い余裕の表情を消さない。
「お前も俺の狩りの邪魔をするつもりか? どいつもこいつも横取りしようとしやがって……」
「狩りって、そこのドラゴンだろ? アレは俺たちの騎獣だっ! 野生の魔物じゃねえんだよ」
「騎獣だと?」
男はスッと目線をハーレーに向ける。ちょうどハーレーが「モーザぁ」と駆け寄ろうとしているところだった。
「来るなハーレー!」
俺の一言で動きを止めたハーレーを見て、男が目を細める。
「なるほど。竜騎士の噂はほんとうだったか。ゲネブまで行く手間が省けたな」
「……竜騎士を知っているなら剣を収めろ。戦う必要は無いだろ?」
「戦う必要? 噂が本当なら尚の事ここでお前を始末するだけだ」
「はっ!? わっけわかんねえよ! 何だよお前!」
男の殺気がどす黒く渦巻く。こんなエゲツない魔力を持った男は初めて見る。何者だ?
「別に俺が誰だって良いだろ? 暗い森の中でひっそりと死んでいくんだ」
「……ムカつくなあ、お前」
「解るか? 竜騎士などという国のバランスを壊すような存在はあってはならなっいっ」
無拍子というやつか、男は予備動作もなく喋りながらも斬りつけてくる。なんとか対応はできるが……やりにくい。
「国のバランス……だと? 何様だよっ」
「伸びる芽は切らんとな。その怪しい珠も危険な気がする」
国のバランス。確かに竜騎士の存在は軍としての存在価値はデカイのはわかるが。国家間のバランス。アメリカ的な大国主義……もしかしたら。
「帝国か?」
俺のつぶやきに男は眉を寄せる。チクショウ、正解かよ。それが気に入らなかったのだろう、男の雰囲気が少し変わる。そして一瞬腰を落としたかと思うと、そのまま薙ぎ払ってくる。
よし、見え――。は?
ズシャ!
男の剣は、俺の剣に当たる瞬間にくにゃりと起動を変え、剣をすり抜けるように俺の腹に向かう。俺は必死に後ろに飛ぶも、胸のあたりがザックリと斬られた。
「なっ」
浅いとはいえ、思ったより斬られたか。今のは……なんだ? 考える間を与えずに更に追撃が来る。くっそ。
ザッシュ!
マジか、防げねえ。再び剣は不可思議な軌道を描き、受けの剣をかいくぐってくる。剣で防ぐより避けたほうが目はあるか。幸い傷はそこまで深くない。このくらいの傷なら程なく治癒をしていくから問題は無いのだが。
こいつの斬撃は何だ? めちゃくちゃ受けにくい。
……。
攻めの手に持っていきたい俺は、こいつの剣を受けながら色々試す。どうやらノイズも効かなそうだ。有効な手が見つからないまま傷はどんどん増えていく。
くっそ。あまり手をこまねいているとジリ貧か。
それなら……攻撃系はどうだ? 俺は、周りに少しづつ水球を作り始める。ウォーターボールだ。1個2個……。
「ん? 魔法も使うのか……これはこれは……」
男はすぐに水球に気がつくが、様子を見ようというのか、そのまま普通に斬りつけてくる。
10個……15個……水球の数が増えてくると脳がパニックに起こしそうになる。なんとか15個のウォーターボール必死で維持しながら魔力を込めていく。当然その間も男の攻撃は止まらない。傷を受けながらもなんとか……こいつに水球の雨を降らせてやる。
「ほう。さすがは竜騎士と言われるだけはある、これだけのウォーターボールを制御しようというのか。面白い」
男は、増えていくウォーターボールを見ると驚いたように後ろに下がる。竜騎士と間違えられているっぽいが、今はそれで良いだろう。
それにしても誘ってるのか? 危険を感じたのか? いずれにしても男が一歩下がったこのタイミングは頂く。暴れる犬のリードを外すように、指向性を持たせながらウォーターボールたちを男に向かわせる。これは手加減出来ねえよ。
一気に男を襲う水球の雨。
されど男は表情を変えずに一呼吸。剣を青眼に構えたまま、吸い込んだ息をぐっと腹に溜めた。そして裂帛の気合と共に吐き出した。
「はぁぁあああ!」
男の全身から放射状に魔力の塊が放出され、次々とウォーターボールに衝突していく。手数は俺のウォーターボールより多い。あぶれた魔力の塊が俺の方まで飛んでくる。
「なっ!!! なんじゃこれ。魔弾……か?」
「そんなもんだ。この程度の魔法なら問題ない」
「くっ……」
マジかよ。ホントに魔弾かよ。
……厳しいな。こんなやつが居るなんて。6年もこの世界に居て、俺だってレベルも50を超えてきて。スキルも集めた……。
ははっ。上には上がいるって話か。
「ショーゴ。予備の剣を貸せ。俺も一緒に戦う」
後ろで立ち上がるモーザも覚悟を決めたように言う。
「モーザは、そこらへんにじいさんが転がってるから、連れて帰ってくれ。こいつは竜騎士に用があるらしい。俺だけで十分だろう」
「またそうやって……? じいさん?」
「ああ、気配察知を……あれ?」
ん? ジジイ……とっくに逃げたか? 俺の感知にも引っかからない。特に俺の感知はレベルも3まで上がり、感知範囲もだいぶ広いのだが……。
「茶番はやめろ。当然。1人も帰すつもりは無い」
確かにこいつほどの実力があれば、逃がすつもりなんて無いだろうな。
まあ、逃げるけど。いや。こいつを殺すほうがむしろ楽かもしれない。俺も少し試したい気分もあるし。
次元鞄から予備の剣を出しモーザに放る。後ろで鞘から抜く音が聞こえた。
「じゃあこのまま俺が前やるから。モーザは後ろから嫌がらせしてくれ」
「嫌がらせは、お前のほうが得意だけどな」
「え? モーザは俺のことそんな風に見てたのか?」
「違うのか?」
「心外だなっっとぉ。危ねえ!」
男の剣が襲いかかる。だが、こちらが2人になることで意識も分断出来る。俺とモーザはなるべく挟撃になる位置を取ろうとする。距離としては剣の交わる距離に俺が詰め、気持ち離れたところからモーザがスキを伺う。
「あんま突っ込むなよ!」
「分かってる。魔弾で少しずつ削ってこう」
体感ではこいつはパンテールなどより強い。この世界に転生してきて恐らく最強の気もする。一気に2人で掛かっていくのも良いが、俺たちはそういった連携が慣れているわけでもない。俺もモーザも基本的に対魔物ばかりやっている。対人戦での連携もそこまでわかるわけでもない。
そうなると。こんな感じでダンジョンボスを削りながら倒すように、こいつの集中を削っていくのが良いのかもしれない。結局モーザは魔法攻撃系を取っていないが、<魔弾>はすでに取っている。詰めなくとも遠距離でチクチクは行けるんだ。
男もやはり挟撃されるのは嫌なのだろう。モーザの動きに合わせて、俺への斬り込んでくる。一気に行きたいのだろうが、させはしない。
俺は無茶をせずにギリギリで凶刃から逃れていく。
「チッ……」
ふふふ。自信が有りすぎるのも問題だが。それが上手くいかなければだんだんイライラが募るだろう。男の顔から笑みが消えていく。
※あけましておめでとうございます。
ちょっと年末年始のバタバタから、家族ぐるみでの胃腸炎に発展し大変なことになっておりましたw ゆっくりと再開していきますので、ゆるくお待ち下さい。
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