第246話 王都に向けて 8

 何度目かの攻勢をしのぎ切る。相変わらず綱渡りをしているような斬り合いだが、一撃で命を刈り取られるような事が無ければ、俺の<強回復>もありなんとかなる。ただ、実際に色んな所が切り刻まれる。痛えんだよな。


「モーザ。そろそろ前を交換するか?」

「いや。痛そうだから良いわ」

「ぅおい!」


 少しずつだが、男の攻めきれる自信を削れていれば良いのだが。


 何度か明らかに武器破壊を狙った攻撃もしてくる。ただ俺の今のメイン武器は裕也の本気の剣だ。魔石、ミスリル、オリハルコン。いろんな素材をマジックバッグの重ね入れによる圧縮で次元的に高圧縮させた素材だ。その分長剣の様な長い得物を一枚素材で作ることは出来ないが。普通にやって折れたりすることはまずありえない。


 長さの短い分、相手との間合いに差ができるが、俺はもう1本刃の厚いナイフを左手に逆手に持ち盾の代わりにする。こいつで男の剣を掻い潜って中に入れれば……とずっとやっているが上手く行かない。


 手を変え品を変え、俺は攻撃の間に<光矢>を混ぜ始める。モーザの<魔弾>も混ぜていく。それでも男は異常な動きを見せ、躱し、弾き、その上攻撃まで切り出す。


 俺達としても打つ手が無いかとじれ始めてきたが、次第にモーザとの連携も合ってくる。少しずつ男の体にも<光矢>が当たりだす。いや、掠るくらいの感じだが。ぶっとい魔力の靄に囲まれている男には大したダメージを与えられていないようにも思うが、少しずつ俺たちにも攻撃の目が出て来ているのだろうか。


 そしてまた、俺の<光矢>が男の体を掠る。ボワッと一瞬その部分の魔力の靄が散るだけなのだが。



 ……ん? なんだ?


 ふと戦っている男の動きが少しブレる様に感じた。……なんといえばいいのか、バグった様な何かが二重投影されたような微妙な違和感を感じる。一瞬だけだったが、何かヤバい予感がする。


「何か仕掛けてきそうだ。気をつけろ」

「ホントかよっ」


 俺の叫びを聞き男の顔がゆがむ。


「気をつけたくらいで、なんとかなると思うなよ」

「はっ! 相変わらず自信満々だなっ!」


 男の上からの斬り込みに対して、体をずらしながらいなす。これを受けようとすると俺の剣を避けて中に入ってくる。戦いながら適切な対応を体に……刻まれて来た?


 上から男が切り込んで来るのと同時に男の体から真っ黒な人影が滲み出てくる。


「なっ!!!」


 真っ黒な影から伸びた2本の腕には、これまた真っ黒な剣が握られている。そしてそのまま影の剣が突き出される。とっさに俺は後ろに飛び下がるが剣の突きはそのスピードを超えてくる。左のナイフで剣先を弾こうとするが、男の斬撃と同じく影の剣がナイフを避けるように俺の体の中に潜り込んでくる。


「うぐっ!」

「ショーゴ!!!」


 やられた……。


 モーザが叫びながら男に斬りかかる。だが、男はそれに見向きもせずに血を吐く俺を見つめていた。男の体から出た人影が、そのままモーザと斬り合い始める。影もこの男並に強い。何だ……これ。


「ぶ……分身かよ……」

「分身? 何だそれは。……それにしてもその傷で膝を付かぬか。大したものだな」

「クソッタレ……ぶん殴るぞ」

「面白いな。パテック王国にも色々居るんだな」


 男はこれで終わったとばかりに、モーザの方を向く。



 トクン……


 お…………久しぶり過ぎて、ホントに来るのかちょっと心配だったぜ。


 胸を刺されたが、恐らく微妙に心臓は避けたつもりだ。血は多いからどっか動脈傷ついて居そうで怖いが、まだ意識がある。気が狂いそうな痛みもどんどん気にならなくなってくる。意識が広く深くなっていく。身体中を全能感が駆け巡っていく。


 ――極限集中が発動する。


 男はモーザの前に俺にトドメを刺そうと思ったのだろ。再び俺の方を向き剣を上げる。男と目があった瞬間に、俺は男に向かって軽くウィンクをした。


 それを見た男が剣を振り上げたまま訪ねてくる。


「……このまま帝国に来るつもりは無いか?」

「しね。クソ野郎」

「……そうか」


 剣が振り下ろされる瞬間。俺は頭の中でラインを繋げる。油断したこいつの剣を受け、その切り返しで首を跳ねる。簡単だ。身体能力もぶっちぎっている。こいつの想定以上のスピードで一瞬だ。よし――。



 キィイン!


 あれ?


 しかし男の剣は振り下ろされること無かった。


 なんだ? 何処からか飛んできた礫が剣を弾く。キィン!キィン! とそれから2度続けて男の剣が弾かれる。男も何処から礫が飛んでくるのか分からずに顔に焦りが浮く。


 なんだ??? 突然のことに戸惑いながらも俺は体を動かしていく。礫で弾かれ男の剣が浮く。がら空きの胴に向けて斬撃を繰り出した。



 ズシャッ!


 くっそ。全然浅い! 男は弾けるように後ろに飛び俺の斬撃をギリギリで避けていく、それに合わせ人影が俺に斬りつけてくる。こいつを潰すなら今しか無いのだが、モーザも手傷を負い、かなり押し込まれていたのかすぐに戻れない。


 分身じゃねえんだよな。分離した影? ならきっと。


 ありったけの魔力を込めて、<光源>を発動させる。こいつに効かなくても目くらましになれば。


 レベル4まで育った俺の光源はもはやフラッシュと言っても良い程の光を上げる。人影は光を浴びると動きが鈍り、徐々に周りが溶けていくような反応を見せる。うっし。これは効いている。


「くっ」


 初めて男の顔に苦しげな表情が浮かぶ。


 キィン!


 男が剣を振り上げようとした瞬間。再び何処からか礫が男の剣を弾いた。俺はそのスキを逃さず男に攻撃を加えていく。訳も分からずだろうが、モーザも起き上がり機をみて一気に詰めていく。


 身体中の魔力が一気に消費していくのがわかる。<強回復>全開時の反応だ。驚いた顔の男に一気に詰め寄り斬りつける。男は後ろに下がりながら、弾かれた剣をなんとか引き戻す。


 だが、今の俺はスーパーで、ウルトラで、スペシャルなんだぜ。<勇者>と<剛力>で増された筋力が、<逆境>で極限まで引き上げられる。


 まさに力は正義。


 男の剣を弾き飛ばし。そのままの勢いで斬り上げる。


「ぐぅ!」


 まだだ。まだ浅い。男は体勢を崩されながらも俺の剣に魔弾をぶつけ、体を捻り攻撃の芯をずらしてくる。それどころか斬られながらも魔弾を次々と飛ばしてくる。


 しかしこれ、本当に魔弾か?


 俺もモーザも便利に魔弾を使っているが、明らかに威力が違う。魔弾は使用者の魔力の質によって多少色味が変わるが、基本無色な感じだ。そのため当然日が沈み暗くなってきている今はあまり感じが解らないのだが……。これ、黒いのが飛んできてるんじゃねえか?


 ……さっきの影の攻撃と言い。もしかしたらこいつは。


「こいつ。闇魔法を使ってるかもしれねえ! 魔弾じゃねえかも」

「闇魔法だと? そうかさっきのももしかしたら<シャドー>とか言うのか!? まさかこいつ魔族なのか?」

「いや、何処かで闇魔法のスクロールを手に入れた口かもしれん」

「……こいつさっき、帝国とか言ってたな。国ぐるみか? ていうかお前大丈夫なのか?」


 胸からの出血は恐らく……止まってると思うのだが。なんにしろ血は出すぎている。モーザから見てもその出血量に不安はあるだろう。実際に傷を治すために魔力もどんどんと使い込まれている。ただ、今の俺の魔力量なら使い切ることはねえと思うが。集中している間に始末はしたい。


 今は何処からか礫を飛ばしてくる未確認老生物は無視だな。いや。むしろサポートを期待しての詰み路を進むか。


「ああ。問題ない。こいつを始末するくらいは持ちそうだ」

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