第247話 王都に向けて 9
俺の言葉に、男は憎々しげに睨みつけてくる。
「ここまで馬鹿にされたのは初めてだ……森に何を潜ませている?」
確かに俺の感知にも森の中に居るのは感知できて居ない。モーザにも察知できてない。こいつが感知系か察知系を持っていたとしても同じだろう。恐らくジジイの仕業だとは思うが。あのジジイ、隠密系なのだろうか。
……まさか忍者?
「鋼弾か? ……まさかな」
鋼弾? 手裏剣じゃなかったか……。音的に金属っぽかったが。
男の傷は、すでに血は止まっている。もしかしたら俺と同じ様な<強回復>を持っていたりするのかもしれない。だとしたらあまり回復をさせるのは得策じゃねえな。
向かう俺に対して、再び男は斬りかかってくる。礫を意識しているのか、俺が与えた傷が効いているのか、モーザの牽制も効いているのだろう。先程までの斬撃と比べると少し力がないように感じられる。そんな中。男は同じ様に俺の守りの剣をすり抜けるような技を使って来ていた。
分かる。
<極限集中>の効果だろう。男の肩から腕、肘、手首、そして腰の動き、精緻な動きが手に取るように把握できてくる。もはや芸術レベルの妙技に感動すら覚える。
なるほど。こうか?
「むっ」
うん。確かにこれは防ぎにくくなるのかもしれない。男も俺の剣の軌道が変わりだしたことに気がついたのか。顔に驚きの表情が浮く。だが流石に自分の技だ。無難に防いでくる。さらに防ぎながらも切り返し反撃をしてくる。
お?
この手は……始めてか? 男にも焦りがあるのだろう。己の全てを余すこと無く出し始める。技がどんどん広がっていく。
ただの薙ぎ払いの様だが、その度に微妙に振り方が変わる。体中の関節の動きから重心の取り方、柄の位置から剣の傾き、その全てを調節し、俺の距離感、タイミング、スピード、荷重。を狂わせるような動きを見せる。
すげえ……俺。
全部解る。
「モーザもちょっと手を出すな。もうちょいだ」
「はっ? 何を言ってるんだ」
「頼む。掴めそうだ」
「……」
<極限集中>が効いている中。男の細やかな技術の奥深さが見える。こんな技術。パンテールにだって無い。まじか。ここでこう来るのか……。すげえ。
その一つ一つを俺は忘れないように見極めていく。
やべえ。
超楽しい。
こんなの教えてくれるやつなんて居なかった。
俺は無我夢中で男の技を吸収していく。種々の技を取り込み、男へ返していく。
元々技術では到底かなわない相手だったが、なんとかスキル等での能力差でついていけた。それが技術的に追いついていけば、当然流れが変わっていく。
いつしか、男は防戦一方となり。俺は少しずつ男を追い詰めていった。
……
……
……ん? 極限集中が切れた???
ふと、痛みがぶり返し、視界が狭くなってくる。だがそのまま俺は男の剣に対応出来、男の使っていた剣をそのまま再現を続けられた。
そして、俺の剣は男の心臓を貫いていた。
「お前……名前は……」
「名乗らねえ男に、名乗るつもりはねえよ」
「……そうか……俺はチュードル……チュードル・ローレンツだ……がはっ」
「……省吾だ。サクラ商事の省吾だ」
「ショー……ゴ……」
俺の名を呟きながら、崩れ落ちるチュードルをしばらく見下ろしていた。結構戦ってたよな。俺の胸に空いた穴ももう完全に塞がってる。流石に魔力が殆ど残ってねえや。
「マジかよ……チュードル……だと?」
後ろでモーザが青い顔で呟く。軽いレベルアップ酔にふらつきながら尋ねる。
「え? モーザ知ってるのか?」
「知ってるも何も……剣聖だぞ! いや。確かに強さは半端なかったが……」
「剣聖か……本物かな?」
すると今度は草むらからジジイが顔を出す。やっぱり居やがったか。
「本物じゃよ。まさかお前さんが剣聖を落とすとわな」
「ジジイもモーザも居たからだろ? 1対3で負けてたらそれこそ救いがねえよ。てかジジイだって何者だ? 俺の感知にだって、剣聖にだって気配が掴ませねえってよ。しかもあれは魔法か?」
「魔法じゃよ。ストーンバレットの一種じゃな。石じゃなくて鉄だがの」
「怖えな。うちの護衛対象狙ってるとか言うなよ」
「じゃから、婆さんを探してるだけじゃ。なんの心配もいらんじゃろうが」
で、どうするよ。ジジイやモーザが言うには剣聖は帝国に在る選定委員会のようなもので指定される称号らしい。そのため剣聖は帝国のために生き、殺し、死んでいく。
……これって面倒くさい気がするんだけど。
「あー。大事にしたくないからさ。埋めちゃおう。で。みんなには内緒で」
「は? ……いや……まあ。それが良いのか?」
「うんうん。帝国が竜騎士を殺そうと動いていたとか、帝国の最高戦力を殺しちまったとか、ぜったい一般庶民の俺たちが触れていい問題じゃないよな」
「そっそうだな。うん。埋めるか」
剣聖を埋めると決めたもの。少し下賤な気持ちが湧く。
「金目のものは漁っとく? 剣とかこれかなりの業物だぜ?」
「それこそこんなの持ってたら一発でバレるんじゃね?」
「……そうか。そうだよな」
それにしても……こいつ闇魔法使ってたよな。死ぬ直前にブランクスクロールに……。いや。済んだことは忘れよう。
もしかしたら帝国には闇魔法が残ってたりするのかもしれないな。
「そのまま埋めるのは駄目じゃぞ。燃やさんと」
穴を掘っていると、ゾディアックが言ってくる。ん? ジジイは防疫の概念でも持ってるのか? どうやって燃やそうかと思案していると、みつ子がやってくる。
「ちょっと。いつまでも戻ってこないと思ったら。もしかして殺しちゃったの?」
「あ、みっちゃん、良いところに来た」
「良いところって何よ」
「この死体を燃やしてほしいんだ。ほれ。バーナーで。シュバーって」
「……なんか犯罪の証拠隠滅をやらされるみたいで嫌ね」
チュードルの死体を処分しながら、今までの流れを説明する。剣聖の名前にみつ子は驚くものの、証拠隠滅作戦には賛成してくれる。当然。サクラ商事は面倒なことは無しがモットーだ。中々その通りに行ってないが。
そして、事後処理を終え、ようやく俺たちは夜を迎えることが出来た。
※年末年始色々ありすぎてごめんなさい。ちょっと子供が入院しちゃったりで。また少し休み入ってしまいます。あ、子供はそんな重い感じじゃなく、胃腸炎で食べれず栄養状態が悪いのと脱水で、連休宿泊させてもらう感じです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます