第125話 オーク討伐 2

 2日目、3日目と何事もなく行軍は進んでいく。流石に少しづつ疲れ始める感じはあるが、警備団の年配達は森の中でも普通に朝、髭を剃りながら軽口を叩いたりと余裕が見られる。付いてきている冒険者達もCランク以上ということも有りまだまだ余裕だ。

 まあザンギ達は少しづつオークの集落に近づいているだろうからと、野営時もこれ以降の飲酒はやめろと注意されていたが。


「大丈夫か。モーザ」

「問題ない。このくらいの行軍はオヤジに何度もさせられてるからな」

「オヤジさんはモーザを冒険者にしたかったのか?」

「さあな、ただ冒険者じゃなくとも鍛えておけば護衛隊の仕事でもなんでも出来るだろうと考えてたと思うが」


 まあ前回はここまで走ってきたことを考えれば、歩きの行軍なら余裕はあるもんな。それに夜もじっくり寝れるし。



 4人組の冒険者は何か俺の間違った噂を聞いているのか初めのうちは警戒してるようだったが、ザンギたちと普通にやり取りしているのを見て段々と警戒が解けてきてるようだ。


「いやー、止めてくださいよ。そんな荒くれ者じゃ無いっすから」

「そうか? 辺り構わず喧嘩を売るって話だったからさ、アジルや狂犬もそれで始末されたってもっぱらの噂だぜ」

「マジっすか、どっちも自己防衛でたまたま運良く反撃出来ただけですよ。実際そんな性格ならザンギなんてもう3回くらい殺してますよ」

「おい! ひでぇなっ!」

「ぎゃははは。それな!」


 4人はもともとシュワの街で冒険者をしていたらしいがリーダーのザワシュの都会志向が強めらしくゲネブに来たという。魔法使いのルードは商家のお坊ちゃんで、4男坊と言う事ではじめから家を出るつもりで子供の頃に買ってもらって付与した魔法をひたすら磨いてきたという。


 しかし冒険者達が談笑していてもアトルとイペルは見向きもしない。2人でたまにボソッとやり取りはある様だが、一体何を考えてるのか。



 3日目の晩にそれぞれのパーティーのリーダーが呼ばれ襲撃の打ち合わせをした。警備団は2隊に分け冒険者隊とで3つのグループを作り、3方向から攻めるという。俺とモーザは支援要員の団員達とやや後方に待機するように言われる。すると説明を聞いていたアトルが俺を見ながら聞いてきた。


「そいつは戦えると聞いたが」


 ん? こいつ俺のこと知ってるのか? ザンギも追従して俺は前線でこき使った方が良いぜなんて言ってる。なるほどこいつがベラベラ話してるんか。団長は支援要員にもオークたちの攻撃が及ぶ危険はあるから、別に戦闘に関わらないわけじゃないと言う。支援要員も一応戦闘の心得はあるがそこまで戦闘向きじゃないから戦えるのが付いていた方が良いらしい。




 4日目の昼過ぎに、撤退時にオーク2匹と戦ったと思われる場所まで到着する。オークの死体などは見当たらなかったが、チェイサーの団員が周辺をチェックし、オーク達が死体を回収していっただろうと推測していた。


 団長らが相談をしている。このまま集落を強襲するか、少し下がった場所で一晩休息して朝に集落を攻めるか。それが主な議題。意外と慎重なんだな。しばらくの相談の後、これから強襲をかけることになった。 


 隊長の号令とともに集落に向けて歩みを進める。それまでの空気が一変し緊張した空気が張り詰める。俺とモーザは部隊の支援要員とともに後ろの方から付いてくるように言われた。


 索敵をしていると思われる隊員が、足を止め合図をした。どうやらこの先のようだ。あらかじめ分けられた隊が森伝いに左右に別れ、集落を囲み始める。真ん中に団長率いる本体。左に警備団の分隊、右側を冒険者の部隊が進んでいく。


 俺はモーザと共に本体の後ろ側で成り行きを見守る。集落のほうからは特に俺達に気が付いたような物音は聞こえてこない。自分達の枯れ木等を踏む足音がやけに大きく感じる。モーザが俺の横にやって来た。


「支援魔法はかけた方がいいのか?」

「あ、それ考えてなかったな。ただバフが切れた瞬間の混乱を考えると今回は辞めておいた方がいいかも。ずっとかけ続けは出来ないだろうし」

「そうだな。ショーゴにだけかけておく」


 そういうと、俺にバフがかかった。何度か試してはみたがこの知覚が拡大していく感覚は面白い。集落に居るオークたちの声まで聞こえてきそうだ。



 先のほうで追跡を専門にする団員が何かに気が付き合図をする。集落の開けた土地の周りの木にそって1本の細いロープが木から木に張られていた。他の魔物が入り込むのを防ぐためのものだろうか。前のほうから伝言ゲームのように指示が伝わる。


「ロープは切らずにまたいで行くように。伝令員は直ぐに両側に伝えに行け」


 ロープを切ることでなんらかの警報が発するのだろうか、二人の伝令がそれぞれ右左の分隊に伝えに走った。


 その時。


 集落がザワザワと騒ぎ出し、オークたちが小屋を飛び出し左側の警備団で編成された分隊に向かって走っていく。半分ほどのオークが残って周りを警戒し始めた。


「くっそ。ロープを切りやがったか」


 隊長がすぐに突撃を命じる。魔法使いが合図代わりにファイヤーボールを空に打ち上げ、3人の団員に左側の分隊に支援に走らせる。と同時に突撃を開始した。




 伝令員の2人が両側に行ったため、5人になった俺達は回復魔法を使える団員に指示を仰ぐ。とりあえず彼が一番階級が高そうだ。


「ここで怪我人の受け入れをしていく。左翼が恐らくダメージを受けてると思う、ショーゴ君怪我人が居たら連れてきてもらえるか?」

「分かりました、それじゃモーザ頼む」

「気をつけろよ」


 調理を担当していた団員はマジックバッグから大きめの盾を取り出し下の尖ってる部分を地面に突き立てる。なるほどここで陣地を構築するのか。



 すぐさま次元鞄から弓矢を取り出し、いつでも打てるように番いながら左側の分隊の方に走った。走っていると先の方で魔力の高まりが何度か起こる。オークたちの唸り声や兵士の怒声も聞こえる。激しくやっているようだ。


 やがて戦う姿が見えてくる。警備団は完全に押されているようで森の中に下がりながら何とかしのいでいる。苦戦しているようだ。1匹こちらに背を向け戦闘をしてるオークを見つけ走りながら弓を引く。



 <上魔質>のスキルが入り、魔力の濃さが上がってる。粘性にも思える魔力なら矢にも纏えるんじゃないか。


 <直感>も行けるという。矢に魔力を這わす。粘りを感じる魔力が矢を覆っていく。


 <剛力>と共に墨樹の弓がいっぱいに反らされる



 ブン。


 低音の弦の響きとともに、矢が放たれる。

 纏った魔力は剥がれること無く、矢はオークの後頭部に突き刺さった。戦っていた団員は突然頭から矢を生やし倒れ込むオークに呆気にとられていたが、次の矢をつがえながら走り寄る俺を見て直ぐに他の団員の戦闘に混じっていく。


 次は。


 現場に近づくにつれ、戦況が芳しくないのが分かる。魔力を込めながらだとまだ連射が効かないが、2人の団員と戦うオークを横から射る。


 ブン。


 オークの側頭部から矢が命を刈る。イケる。


 地面には倒れたオークと共に頭が兜ごとひしゃげた団員の死体が横たわる。くっそ。巨体から繰り出される棍棒の一撃を受ければ、大抵の人間は一瞬で肉塊に変わる。団員たちはお揃いのラウンドシールドを持つが、受け方を誤れば一発で手がいかれるのだろう。


 3匹目のオークに狙いをつけた瞬間、<直感>に襲われた。一匹のオークがこちらに向かってくるのを感知した。撃つ間はある。萎縮する体を強制的に黙らせそのまま矢を射った。


『人間ガアァッ!』


 酷い唸声と高く跳ねたオークが頭上から棍棒を振り下ろしてきた。3匹目のオークに矢が突き刺さるのを横目で確認しながら必死に避ける。


 ドゴォォン!


 土煙とともに俺のいた場所に小さなクレーターが出来る。


「ちょっちょっちょっ、やべえってそれ!」


 土煙の向こうで、真っ赤に見開いた目がこちらを見ていた。

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