第123話 ゲネブの裕也 4

 何となくフワフワした感じで、事務所まで向かう。


 そうだな。とりあえず合鍵つくらねえといけねえか。常に一番に職場に行って鍵を開けなくちゃいけないもんな。今度、合鍵作っていいかジローの親父に聞いてみるか。



 事務所に行くとフォルとスティーブ、それとリンクが先に来ていて階段に座って話をしてた。3人とも革鎧に身を包み、荷物も少し多い。そうか。今日から訓練に出るんだったか。


「おはよ。悪いなちょっと寝坊したか?」

「おはようございます。僕等も来たばかりですので」

「兄貴おはよーッス」

「兄ちゃんよろしくな」


 すぐに鍵を開けて中に入る。やっぱコンロの魔道具を買いたいな。コーヒーがあるか分からんが、朝出勤してお茶くらいは淹れてまったりしたい。



 モーザはそれからしばらくしてやってきた。2人でやってくるから途中で裕也と一緒になったのか? なんて思っていたら、ボーンズさんだった。


「これは。ボーンズさん。覚えていらっしゃいますか?」

「おう。きっちり覚えてるぞ。領主からの通達とはいえ、息子をよろしく頼むな」

「こちらこそ、モーザさんは優秀で助かっております」

「……」

「ん? なにか?」

「いや。見た目と違って、若者っぽくない喋りだなと」

「ははは」


 ボーンズさんは、以前にアジルとやり合った時にお世話になった人物だ。面倒見の良い人らしく警備団の若手からも慕われているようだ。息子がスパズと言う事で、黒目黒髪の俺によけい世話を焼いてくれたのだが。あの時は初めて人を殺した後で精神的にきつかったからな、かなり心強かった。


 とりあえずソファーに座ってもらう。俺も……少し悩んだが向かいのソファーだ。


 そのボーンズさんだが、息子の職場を一目見たくて来たのかとばかり思っていたら、オークの集落までの案内を正式に依頼に来たのが本命だった。それと同時に、オークの集落の発見の謝礼も確認出来次第出ると言う。


 オークやゴブリンのような集落や巣を作り繁殖して勢力を拡大するタイプの魔物は、常時依頼としてその集落の発見報告に謝礼が出されると言う。場所まで案内するだけでそこそこのお金は貰えそうなのでラッキーだ。


 ただ、話によると最近森の中を散策する冒険者は減少しているためか、冒険者からの報告は少なく、定期的に警備団で見回り等をして発見することの方が多いらしい。

 ゴブリンなどのように森の浅いところに巣を作り人里を狙ってくるタイプと違い、オークは森の深部に集落を作るため発見が遅れ、討伐に多大な犠牲を伴うことも多いという。


 今回は、冒険者ギルドにもCランク以上で3パーティー程募集をかけるという。以前ゲネブ公が言っていたが、ゲネブのダンジョン。正確にはゲネブから1日南に下ったところにあるヤギ村のダンジョンだが、そこの魔物が少しきな臭くなっているため第3警備団の本体はそちらの警戒から動かせないようだ。そのため通常のオークの討伐隊よりやや少な目の編成になってしまうらしい。


「という事は、僕達もある程度戦力として付いて行く気持ちで居た方が良いんですね」

「ああ、そうなる。モーザから他の子達は訓練でゲネブを離れると聞いたが。まだ未成年なんだろ? その方が良いな」

「モーザも付いてきてもらう予定ですが、それはよろしいですか?」

「ああ、まだモーザもまだ未熟だがある程度は鍛えているつもりだ。それに魔法までつけて貰って感謝してもしきれん。存分に使ってくれ」



 話をしていると裕也もやって来る。手には何やら渋い色合いのポールハンガーを持っている。それを入口付近で勝手に場所を考えながら置いている。いや。確かにこういうの雰囲気的に合うかもしれないが、温暖なゲネブじゃ誰もコート着てないぞ?


 しばらくすると配置に納得したのか、俺の椅子に座って話を聞いている。我が物顔だ。


 なんとなくボーンズさんも裕也が気になるのかチラチラ見てる。しょうがない。


「ああ、ボーンズさん。そこの座ってるのは友達の裕也です。裕也、モーザの父親のボーンズさんで、第3警備団の所属なんだ」


 2人を紹介するとお互いに挨拶をする。ボーンズさんはどうやら裕也の事はモーザから聞いて知っているようで少しファン的な感じだ。裕也は剣を作るのがほとんどなので、そのうち槍も作ってくださいなんて言ってる。裕也も満更でもない顔で、任せてくださいなんて答えている。



 オークの討伐隊は3日後の鐘のなる時間に北門に集合ということだった。食事に関しては朝と夕方は配給があるらしい。警備団の食事の用意のついでに出るそうだ。昼食や間食分は各自持参するように言われる。


 そうだ。


「あと1つ話しておきたいことが有るんです。モーザの黒目黒髪についてです」


 以前、ドラゴンから聞いた、黒目黒髪は「龍」の加護がある。と言う話をした。実際全部かは解らないが、おそらくモーザも「龍」の加護を持っているだろうと。その話にボーンズさんもモーザも半信半疑ながら何か自信を持ったような気がする。


「なるほど、俺はモーザが産まれた時、スパズと言われる黒目黒髪の子が産まれて出産時の鑑定を受けさせなかったんだ。まあ黒目黒髪に鑑定を受けさせると言う話は聞いたことが無いし、受ける意味もないと思っていたが……」

「出生時の鑑定?」


 どうやら出産して1月ほどの間はまだ赤ん坊は魔力を持ってない為、自分の魔力抵抗も無く、その間だけは祝福や加護まで鑑定できると言うことだった。当然そこまでやるのは貴族だったり金を持った商家だったり限られたレベルの家だけらしいが、なるほど加護の存在が分かるやり方というのもあったのか。


 因みに、裕也とエリシアさんの息子であるハヤトもその時期に鑑定して確認したのだという。




 説明も終わると、ボーンズさんは出兵の準備があるからと帰っていった。気が付けばお昼近くになったので皆で下のジロー屋に行きジローをすすることにした。


「合鍵か? いいぞ。好きに作れ」


 ジローのオヤジに合鍵を作る許可を貰い、店も教えてもらう。食事も終わると裕也がそろそろ出発すると言う。


「んじゃ、フォルにスティーブ、あとリンクも気をつけろよ。裕也はかなりスパルタだからなキツイかも知れんが付いていけば必ず強くしてくれるから」


 各々に決意をした顔で頷いている。何から何まで裕也に任せちまって悪い気はするが、何気に裕也が楽しそうだから良いのかもしれない。1ヶ月ちょっとしたらハヤトが受験の為に王都に向かうと言うのでそれまでと言う事だが。それだけあれば充分身につくだろう。最後の缶詰でハヤトもチソットさんの家に居るためウーノ村で滞在するのも良いタイミングらしい。


 裕也が言うにはハヤトの受験と共に王都で下宿先を探し、その後入学するまでしばらく王都に居る予定らしい。何となくハヤトが学院で学生をする3年間、家族みんなで一緒に過ごすのかと思ったが、そこまで過保護じゃねえよと言われた。


 4人を北門まで行って見送った後、俺は<操体>を求めてボディーコントロールの訓練。モーザは座禅を中心に<魔力操作>を求めて訓練を続けることにした。


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