第122話 ゲネブの裕也 3

 フォルもスティーブも初めての大聖堂に目をキラキラさせて見上げている。裕也がなにやら領主から貰った手紙を見せると、スクロール売り場の司祭さんは奥から目録のようなものを見せてくれた。


「お、あるじゃねえか<発芽>。フォルはこれな」


 リストを見ると、やはりレアなのが載っている。攻撃魔法とかは高すぎるが基本形のものなら行けそうだ。


「よし、じゃあ、俺<ファイア>行こうかな。この前<放電>覚えられなかったからな。攻撃魔法を育てたいんだ。スティーブとモーザはどうする?」

「ちょっ。ちょっとお待ちください。大量に買われてしまうと貴族様の要望に答えられなくなってしまいますので……半年もあれば補充は可能ですので、今回は2つまででお願いします」

「まじかあ、でも言われてみればそうか。買占め良くないな」


 しょうがない俺は我慢するか。子供達優先だな。


 ジックリとリストを見ていると支援魔法っぽいのがある。聞いてみると知覚を増大するものらしい。動体視力とかそういうのだ。支援魔法には、筋力を増大させるもの、打たれ強さを増大させるもの、魔力を増大させるもの、魔法防御を増大させるもの、知覚を増大するものがあるらしい。上位魔法で複数カバーするものもあるにはあるらしいが十年に1本スクロールが出るか出ないかのレア物らしく、売り場の人も見たことが無いらしい。ただ、支援魔法自体が聖職者が好んで利用するので回復魔法と同じく市場に出回ることは少ないと言う。


 決まりだな。かなり高いがこういうのはある時に抑える。

 これは……モーザに覚えさせよう。


 悩んでいると、裕也がフォルの適性を見てもらっていた。羅針盤のような円盤の真ん中に魔導石のようなものがあり、そこに手を置いて魔力を流すようだ。しばらくフォルが魔力を流すとそれを司祭さんが確認する。


「確かに、木魔法に特化して適性が強いですね。やはり<発芽>はおススメですよ」


 多分俺とモーザは満遍なく可でも不可でもない適性が出るのだろうが、スティーブはどうなんだろう。金髪だからやっぱ光とかかね?


 しかし、スティーブはあまり魔法の適性自体が強くないようだった。それでも光属性にはそれなりに適性があるようだが、基礎魔法から育てるようなレベルでは無いらしい。


「気にするな、お前の父ちゃんも魔法は使えなくても強い冒険者だったぞ。金が溜まったら<光矢>でも覚えれば補助的な攻撃手段に使えるから今は良いだろう」

「はい、大丈夫です。元々剣1本で行くつもりでしたし」


 時に<ノイズ>のスクロールも2本残ってるようだったので、沢山買うからと交渉し、<ノイズ>2本。<ラウドボイス>1本を1つ分の値段で購入した。裕也の奴、俺の複合魔法の話を聞いてまたパクったな。


「あ、<ファイヤ>が一般販売にもあるんで、これなら販売できますよ?」


 おおお。今回は俺はパスかなと思っていたら。なんと<ファイア>が買えた。


 今回の購入した中では、モーザに覚えさせる予定の<センシティブ>が異様に高い。これ1本で他の全部の2倍くらいだ。20万も下ろしてきたのに。全然足りない……裕也様。ごちになります。まあ、一応3人には支払いを見せないようにしておく。気にしそうだからな。


「なんだかんだで裕也の財布に頼ってしまった……」

「気にするな、俺も楽しんでやってる」

「悪い。いつか必ず返すから」


 借金王が言いそうな言葉だが、一応言っておく。


「返さなくても良いが。俺が事務所に行ったときはあの机と椅子のセットには俺が座るからな」

「なっ!!!」




 皆問題なくスキルを覚えていく。<ノイズ>はとりあえずモーザとスティーブに覚えさせた。スティーブに魔法を覚えさせないのも可哀想だしな。


「兄貴。俺っ。俺っ。神を感じましたっ!」


 いつだかと同じような偉いっぽい司祭の説法に俺は笑いを堪えるのが大変だと言うのに、フォルはめちゃくちゃ啓蒙されちゃってる。空気に流される奴だな。こいつは。



「――汝ショーゴ。神の奇跡である魔法を受け取りなさい」


 期待に心を躍らせつつ、一抹の不安と共にスクロールに魔力を流す。スクロールが仄かに光、体に魔法が入り込むのを……あれ? え? また?


「ん? どうなさりました?」

「え? いや。なんでもないです。ありがとうございます」


 ……やべえ。入ってねえぞ。なんか。二度目になると恥ずかしくて言えなくなる。



 お礼を言って皆で教会を後にする。しばらく歩いていると裕也が聞いてきた。


「またダメだったのか?」

「ああ。なんだろう」

「分からん。どんなに適性が無くても覚えられないって話は聞いた事が無い。威力がしょぼくても覚えられるはずだからな」

「ううむ。しょうがねえんだけど。自信なくなるなあ」


 俺もあの羅針盤で一度適性を見てもらえばよかったかもしれない。裕也的に(おそらくだが)祝福持ちは適性の値がかなりの物が出てしまうので、あまり知らない人の前でああいったので測るのはおすすめできないと言われるが……まあ、今のままでも戦えてるからやはり光魔法を重点的に育てるしか無いのかもしれないな。



 裕也の提案で帰りに適当に植物の種を買いまくり、一粒フォルに持たせて<発芽>をさせてみる。


「んんん! んんん!」


 なんか糞するような唸り声を上げながらフォルが魔法を使う。手のひらに魔力が集まってきたと思うと、ニョキニョキと芽が出る。


「おおおお」


 見ていた皆が驚きの声を上げる……が。それだけか? いや。これからか。<発芽>は畑仕事をする上で苗を作るのに重宝されると言う。もちろん普通に種を植えて育てる農家が殆どだが、大手農園では<発芽>使いを雇うと言うし。食いっぱぐれねえだろう。


 まあ。これから木魔法もレベルも上げて行くと発展していくんだろう。裕也が家に帰っても魔力切れギリギリまでどんどん発芽させろと指示をしてる。





 その日の夜。



 ――トクン



 夢を見た。似たような夢をいつだか見たような気がする。

 何時だっただろうか。

 おぼろげで、良くわからない夢。


 夢中夢のような。

 あれ……なんだっけ。この夢。

 ……






 ガバッ!


 ベットの上で上半身だけ起こし考え込む。

 この夢……たしか、前に教会で雷魔法のスクロールで失敗した時、夜に見た夢に似てねえか? ……なんだ?


 ……目を閉じ、頭の中のスキルを確認する。相変わらず魔法やスキルの奥に意味不明な塊がある。以前と同じだ。ううむ。感じが変わってる雰囲気はねえな。でも可能性としてはこいつが魔法を吸っちゃってるんじゃね? 神の技術であるスクロールが失敗することはありえないと言うし。何か原因があるとしたらコイツが怪しいんだが。


 くそ。なんだろう。スキルの腫瘍的な奴じゃなければいいが……色々考え出すとちょっと怖いんですが。


 ううむ。


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