第121話 ゲネブの裕也 2

「これだな」

「ああ……他の選択肢は考えられない」

「値段を聞いてみるか」

「……そうだな」


 家具屋で机を前に男二人で佇む。


「そうですね、この椅子とセットですと24万モルズになります」

「!!!」


 うお。マジか。えっと日本円換算にすると15倍位で…小型車買えるじゃねえか。ううむ。どうするか。月賦とかも出来るのか? いや。払えない額じゃない。うん。だが。ぬう……。


「じゃあ、それで良い」

「分かりました。お届け先はどちらに?」

「い、いや。裕也出すぞ自分で」

「まあまあ、気にするな」

「いやいや、気にするぜ」

「まあまあまあまあ」

「いやいやいやいや」


 裕也と揉めていると、店の置くからランゲ爺さんが顔を出した。


「お? ショーゴ君じゃないかどうしたんだ?」

「あれ? ランゲさん居たんですか?」

「この店の上の階にワシの仕事場があるからな、と言ってもほぼ遊び部屋じゃがの。ほっほっほ」


 なるほど。以前この店でナターシャさんと会ったのもそのせいなのか。

 事務所を開業したので、そこに置く机を買いに来たことを話す。するとランゲさんが店員さんに言う。


「ショーゴ君はいつでも従業員割引で売ってあげなさい。ロッカーシステムも彼の発案なんじゃぞ。ランゲファミリーの一員として扱うべきじゃ」

「は、はい。かしこまりました。それでは。2割引の19万2000モルズで――」

「10万で良いじゃろ。ワシからの開業祝いの割引じゃ」


 うおおお、突然半額以下じゃねえか。


「いやいや。ランゲさんまずいっすよ」

「なんのなんの。ロッカーが大分好評でな。儲けさせてもらって居るぞ」


 ……ううむ、これは。甘える一択ですかな。


「すいません。ありがとうございます」

「気にするでない。ビールとやらも実験をはじめておるぞ」

「おおお」



 ともかくだ。念願の机とテーブルは手に入った。明日には届けてくれるという。ランゲさんにはお世話になりっぱなしだなあ。護衛任務とかあれば格安で対応してあげたいな。残りも裕也が出すと言って聞かなかったが、とりあえず半々で5万ずつ負担することにした。




 夕方が近くなると、再びリンク達の家に行く。途中裕也と商店街等により、酒なども手土産に購入してだ。


「おお! 久しぶりだなユーヤ。最近はお前の剣が中々手に入らないレア物になって大評判じゃねえか。うん、それからショーゴ君。息子を頼むぜ」


 何気に家主のエドさんは始めて会う。いや、厳密にはギルドで見かけた様な気はするんだが、こうして話すのは始めてだ。大柄でガチムチな如何にも冒険者然としたおっさんだ。以前食事を頂いたテーブルに二つほど木箱を椅子代わりにして何とか全員座る。


「そうか、ファーブルの息子さんだったか」

「ああ。リーダーに似て才能は有ると思うんだ」

「なるほどな」


 裕也の信頼度は半端なかった。それに連れられ俺の信用度もそれなりに上がってくれると思うんだが。裕也が1ヶ月ほど修行させる話もすんなりと通る。するとリンクが我慢できなくなり裕也に直訴を始める。


「なあ、ユーヤさん。俺も一緒に連れてってくれよ」

「ん? まあ1人くらいなら増えても問題ないが。良いのか? エド」


 声をかけられたエドはしばし考え込む。リンクも父ちゃん頼むよと必死にすがる。


「おまえ、ちゃんとやれるか?」

「おう、スティーブが強いのは分かるぜ、でも俺だって負けてられねえよ」

「……そうか。じゃあユーヤ頼むわ。掛かった宿代とかは後でちゃんと請求してくれ」

「いいぜ」



 その後は昔を懐かしむ裕也たちの会話をまったりと聞きながら食事を終え、帰宅した。前回のがあったからか俺はあまり酒を飲ませてもらえなかったが。十分楽しめた。




 次の日、3人が事務所にやってくると皆で家具の位置取りを調整する。やがて机が搬入される。完璧すぎる。うっとりしながら机に座る。完璧すぎる。我が城が出来上がってきた。


 裕也は領主の館に行っているが、一応モーザに聞くとやはり俺と一緒にオークの集落の方へ行くという。モーザはそれなりに出来上がってるからそれでいい気はする。1ヶ月という期間があるのでその間にダンジョンの許可証が出たら2人でトライしても良いかもしれないな。


 昼には戻って来た裕也も一段と素敵になった事務所に嫉妬しているようだ。昼飯をジロー屋ですませ明日からの修行の打ち合わせをする。


「一応、お前らの今の実力を知っておきたいから解析をしたいんだが良いか?」


 <解析>や<鑑定>は他人に勝手に行うのはマナー違反らしく、ちゃんと子供たちにも断って行う。紳士じゃねえか。


 スティーブはスキルが有ると聞いていたが、<操体>が付いていた。俺が欲しくてたまらないやつだ。良いなあ。フォルは何もなし。モーザは<動作予測>と<俊敏>の2つが付いている。


「動作予測? なんかカッコいいじゃねえか」

「ああ、でも未来予知とかとは違うぞ。相手の予備動作とかからなんとなく動きが予測出来るってかんじだ。予備動作が無いやつだとそこまで有効に生きねえしな」

「それでも相手の動きが予測できるのは良いな」


 ふむ。ボクシングで言う所のテレフォンパンチみたいなのを簡単に見破れるようになるんだろうな。感覚で反応出来るのはやはり強いだろう。



 スキルの話など盛り上がっていると、ふとフォルがしょぼくれた顔をしてるのに気が付く。


「まあ、フォルはしょうがないさ。これから頑張れば良いんだから」

「大丈夫ッスかね? なんか俺ビビリだし」

「裕也は割りとスパルタだからな。そんなこと言ってられねえかもよ」


 そんなやり取りを見ていた裕也が突然立ち上がる。


「よし、教会行くか」

「は? なんで? あ。ノイズ?」

「いや、フォルはこの三人の中で一番魔力が大きいからな。なんか良いのあったらつけてもらおう」

「まじ?」

「まじだ。その為に鑑定したんだ。特性に合った育て方をした方がいいだろ?」


 魔法か。まあ初期投資だな。裕也が言うにはフォルは目も髪も同じような濃い緑なので恐らく木魔法が適性があるだろうという。教会で金を払えば特性をある程度識別してくれるらしいのだが、目と髪の色特性が合致するのは意外にもそこまで多くなく、かなり適性は高いんじゃないかと。


 イメージ的に戦闘にはあまり向かないかもしれないが、木系の魔法があれば農家などでも重宝されやすいと言う事で取って損は無いだろうと思うんだが。あるのか?


 そこら辺が気になって聞くと。暁天の剣の報酬として、数百万モルズを得たらしい。それとは別に教会の魔法のスクロールを上位貴族枠で保持しているものまで買う権利も貰えないかと頼んだと言う。これは以前雷魔法の取得に失敗した俺の為に、他の魔法を購入しやすいようにと言う心遣いだが。

 俺、愛されてるな。


 教会も王国の貴族などとは上手くやらなければいけないため、魔法のスクロールを全て一般の窓口で売っている訳ではなく、上位貴族などの為に直ぐ用意できる分もある程度保持しているらしい。いつだかの回復魔法も、そういったルートからの流れだった。


 そうか、じゃあこの前無かった基礎魔法も買えるかもしれないな。俺も貯金下ろしていこう。

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