第120話 ゲネブの裕也 1

 目を覚ます。差し込む日の感じから言うと、もう昼頃か。夜通し走ってだいぶ疲れたからなあ。しょうがない。あいつらはもう起きたのか???


 !!!


「ゆ、裕也???」

「おう、起きたか? こんな時間まで寝て何してたんだ? あっちにも2人熟睡しているが」


 テーブルセットの椅子に座り、裕也が優雅にサンドイッチのような物を食べていた。お茶も自分で淹れたのか、俺のコップから湯気が上がっているのが見える。


「あれ? 鍵は?」

「また開いていたぞ? 鍵をかける習慣は付けるべきだな」

「あ、ああ。俺のもあるのか?」

「ん?」

「いや、そのサンドイッチだよ」

「あるぜ。顔出したら寝てるから、暇つぶしに買ってきたんだ。寝室の2人分もあるぜ」


 おおお。やっぱり裕也は出来る男だ。


 んぐぐ。流石にサクラと言えども、長時間ソファーでの熟睡は身体が固まる。立ち上がり軽く体を伸ばす。うん、疲れはほぼ取れてそうだな。


 やかんの中を見ると、あまりお湯が残ってなかったので水筒から水を出し魔道具のコンロで沸かし直す。お湯が湧くのを待ちながら、昨日までの森での訓練の話を裕也にする。オークの集落の話をすると、裕也が「ほう」と興味深そうに聞いてくる。


「じゃあ、警備団から道案内を頼まれるかもしれねえな」

「やっぱりそうか? たまにはガッツリ戦闘したいから良いけどな」

「良いけど気をつけろよ。その年老いたやつはシャーマンじゃねえのかな? そういうのが1人いるだけで厄介度が跳ね上がるからな」

「ああ、そう言えば……」


 オークの最期の呟きが理解できた話をした。裕也が言うには知性がある程度ある魔物ならちゃんとした言語を持ってたりするから理解は出来るという。ゴブリンでも分かるのか?と聞くと、ゴブリンはたまに意味のある単語のようなのを口にするだけだから微妙だなと言われる。


「そういえば、暁天の剣は出来たのか?」

「ああ、バッチリだ。明日領主にアポイント取ったから納品してくる」

「俺のは?」

「ちゃんとしたのは待て。前と同じレベルのは作ったから持ってきたぞ。まあこれでも十分といえば十分なんだがな」


 そう言うと、1本の剣を渡された。鞘から抜くとなるほど、以前貰ったミスリル混じりと同じ様な剣だ。やっぱ普通の鋼の剣よりなんていうか、雰囲気が違うな。


 お湯が沸きお茶を3つ入れる。そろそろあいつらも起こさないとな。寝室に行き2人を起こす。寝すぎて頭がぼんやりしてる2人に朝飯あるぞと声をかける。リビングに戻ると何故か裕也がサクラに移動してる。くっ……剣を貰っただけに文句を言えねえ。ん。貰ったんだよな? 請求されねえと思うことにしよう。


「へ? 誰っすかその人」


 リビングにやって来たフォルが裕也を見て尋ねる。寝癖で頭がボサボサだ。なんか可愛い。


「よう。裕也だ。よろしくな」

「フォ、フォルっす。よろしく? お願いします」

「省吾のダチだ。師匠でもあるんだぜ」

「ま、マジっすか? 兄貴の師匠かあ。すげえ」


 フォルが答えると、くっくっ。と笑いながら俺を見る。


「おいおい、省吾。お前兄貴なんて呼ばせてるのか?」

「ち、ちげえよ。勝手に呼んでるんだよ」


 うわあ。確かに突っ込まれると微妙に恥ずかしいな。


 フォルとスティーブに裕也が買ってきたサンドイッチとお茶を渡し食べるように言う。テーブルに2脚しか椅子が無いので俺は立ちっぱだ。サクラも占領されてしまったし。


「それで、裕也はこれで体空いたんだろ? コイツラの修行頼んでもいいか?」

「んあ? 良いけどお前の剣の出来上がりがまた遅れるぞ?」

「時にこの剣が有れば大丈夫だ。あともう1人居るんだけど、そいつはどうするかな。ちょっと実力的には上なんだ」

「なんだ、3人も居るのか。1ヶ月ほどで随分賑やかになったな」


 裕也と別れて、ギルドをすぐに辞めた話。暗殺されそうになって牢屋に入った話、事務所を開いた話、そこら辺を裕也に話す。裕也は楽しそうに笑って聞いてる。特に投獄された辺りは大爆笑だ。失礼だよな。


 裕也が事務所を見たいと言うが、とりあえず2人を家に返しがてら裕也が修行に連れてっていいか親に聞いて来ようという話になる。




 フォルの母親は、訓練合宿も二回目なのでそこまで心配していた感じではなかった。クレイジーミートは問題なく務められてる様で良い感じだ。例の朝礼モドキはいまも続いているという。


「それでですね。2日後くらいに僕の師匠の所に修行に行ってもらおうと思っているんですが、今までの合宿と違ってちょっと長めに成っちゃうんですが宜しいでしょうか」

「はあ、この子の将来の為になるなら何でもやっていただいて構いませんので」


 一応、付いてきているし裕也も挨拶をする。


「任せてください。若いうちのほうが伸びやすいんです。少なくとも将来食いっぱぐれる事は無く成るくらいには育てますよ。ただ、1ヶ月位は帰ってこれないかもしれないのでよろしくおねがいします」

「は。はい。こちらこそ……」


 ん? なんか裕也の顔をみて、ポッと顔を赤らめてねえか。奥さん。

 まあ、渋い系なんだろうな、コイツは。

 長居は危険な香りがするので、スティーブの家に向かう。





「まあ、おかえりなさい……え?」


 スティーブの家に行き、ノックをするとすぐにカーラが出てきた。元気そうなスティーブを見て嬉しそうな顔をするが、裕也の顔を見て驚きの表情に変わる。なに? またなのか?


「カーラか、久しぶりだな」

「ユーヤも元気そうね……」


 え? ドンファン?


「ユーヤはまだ現役でやっているの?」

「いや……ジラールが亡くなってな、パーティーは解散した。今は鍛冶屋一本だ」

「ジラールさんが? そう……皆若い時は無茶しちゃうのね」


 ……おいおいおい。何? この空気。


「えーっと……」

「おう、すまん、カーラは昔の知り合いでな」

「昔エドと私のパーティーが壊滅した時に、ユーヤのパーティーに助けてもらったのよ」

「しかしあの時は……」

「私達は生き残れた。それで十分でしょ?」

「……そうだな」


 うん。話は読めたが。やはり入りにくい空気だ。


「夕方にはエドも帰ってくるから、もし良かったら夕飯一緒にどうかしら?」

「ん、そうだな。寄らせてもらおうか、ちょっとこの後用事があるから夕方また来る」

「ショーゴ君も良かったらどうぞ」

「あ、はい」


 やべえ。ついでだ俺。確実にモブっぽかった。俺。




 事務所に向かいながら、気になっていたことを裕也に聞く。たしか、カーラさん達はゲネブのダンジョン深層で壊滅したと聞くが、裕也は冒険者ギルドに入っていないはずだ。


「ああ、ダンジョンに入りたくてな、エリシアとチソットが冒険者登録したんだ。魔法を使えるエルフも回復魔法を使える元聖職者も貴重だからな。今は解らないが最初からE……いやDだったかな? から登録できたんだ。パーティーの雇った護衛だったり荷物持ち名義でギルド員じゃない俺も一緒に入れたんだ。ナルダンは貴族だからフリーパスだしな」

「なるほど。そういう入り方もあったのか」



 用事があると言っても、事務所を見たいという話くらいだ。ジロー屋の2階に有ることを知ると少し羨ましそうにしていたが、事務所をみて度合いが増す。


「おお~。良いじゃねえか、良い事務所だな。後はデカイ所長用のテーブルと椅子が欲しいよな」

「お、分かってるねえ。そうなんだよ、ソファーは中古屋で良いのが見つかって良かったんだけど、なかなかいい掘り出し物が無くてなあ。新品の店はまだ見てないけど家の家具を買うときに一度覗いたら結構ヤバイ値段だったからな」

「ちょっと家具屋行ってみようか」

「まあ、良いけど。別に買ってくれなくても良いぞ? あんま大盤振る舞いするとエリシアさんに怒られるだろうし」

「ん? ううむ。まあ開業祝いもしたいしな。とりあえず見るだけでも行ってみようぜ」


 まあ、おれもどんなものがあるか見てみたかったからな。夕方まで時間もあるし行ってみるか。



 以前に見に行った家具屋に行ってみる。ランゲ商会の店だ。

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