第119話 森での訓練 3
ここで、うずうずと悪い虫が囁いてくる。――ちょっとオークの集落見てみたいな
「あー、ちょっと君たち先に行ってて貰っていいかな?」
「ちょっ、兄貴まさか」
「ほら、本当にオークが居るのか確認しないとちゃんと報告もできないだろ?」
一応すぐに追うからと、先に来た道を戻り始めて貰う。
伐採箇所から集落が離れているはずは無い。茂み伝いに暫く進むと広めの開いた場所があり奥の方に丸木で掘っ立て小屋の様なものが何軒か建てられている。建物の脇の広場の中央あたりでキャンプファイヤーの様な大きな焚き火が焚かれており、そこで肉を焼いているようだ。
少しづつ暗くなってきているのでちゃんとは解らないが、明らかに人間とは違う緑がかった肌色。衣服は軽く布を巻いたくらいの適当な感じだ。オスもメスも居る。大きさは……人間よりだいぶデカイ気がするみな2mは超えている。腕の太さもヤバい。殴られたらすげー飛びそう。そんなのが視界に入るだけで20匹位いる。
やべえな……
見ていると、一際大きめの小屋から年老いたオークが出てくる。なんだろう。風格もあるなあ。族長的なやつかな? 知的な民族なら話し合いとか出来そうな気がするが。
すると、老オークがなんとなしにこちらの方を向く。慌てて俺は息を潜めて後ろに下がる。察知系か?
警戒しながら距離を取り離れていくが、特に集団に動きは見られない。……大丈夫か。
ある程度距離を取ったあとに3人の方向に向かい走り出す。
しばらく走っていくと、向かってる方角から争うような気配がする。ん? 何か魔物とエンカウントしちまったのか? 更に急ぐ。
モーザ達が視界に入った瞬間、渡しておいた盾を構えたフォルが棍棒を持ったオークの一撃で盾ごと吹っ飛んでいくのが見えた。2匹のオークがモーザ達3人に襲いかかっていた。
地面に転がった松明が何とかオークの姿を照らしていたがこの暗さでの戦いは厳しいだろう。モーザとスティーブがそれぞれ1匹ずつと向かい合って居るが形勢が明らかに悪い。声をかけて意識をこちらに向けさせるか? ……いや。強襲したほうがいいか。走りながら<ノイズ><ラウドボイス>を掛ける。失神までは期待しないが手がゆるめば……。
スティーブは意外とよくやっていた。追い詰められてギリギリではあるがしっかりとオークの動きを見て捌いてる。<ノイズ>で一瞬オークの集中が切れたと見るや攻めに転じる。ダメージは薄そうだが、いいセンスだ。一方モーザの方も素早い突きをチクチクと重ねることでオークの動きを牽制している。
俺はスティーブとやり合ってるオークの後ろに走りそのまま斬りつける。致命傷とまではいかないがかなりの深手を負わせる。
ぐぉぉお!
苦悶のうめきを上げるオーク。
「スティーブ、止めを! 胸を刺せ!」
そのままオークの胸のあたりに軽く<魔弾>を当てる。レッドベアに<魔弾>を当てた時、その部分に纏っていた魔力が弾けたのを見て思いついたやり方だ。胸に<魔弾>があたったオークも、胸のあたりに纏われていた魔力が一瞬弾けるのが分かる。そこにスティーブの渾身の突きが突き刺さる。よしっ!
そのまま振り返り、モーザが戦うオークにも<魔弾>を撃つ。
「モーザ! 胸だ!」
モーザも魔力を込めた一撃を胸に突き立てる。
『クソッ。脆弱ナ、人間ゴトキニ……』
オークが倒れたのを確認してすぐにフォルの所に駆けつける。意識は有ったが、盾を持っていた右手の手首がどうやら折れているようだ。次元鞄からポーションを取り出し飲ませる。
「悪い、少し遅れた」
「大丈夫っす。めちゃくちゃ怖かったすが」
「うん、よく耐えてくれた」
モーザが簡単に説明してくれた。道を戻っていく途中で狩りから戻ってきたらしいオークと鉢合わせをしたらしい。暗闇だったので松明を付けたのも失敗だったと謝られたが、暗闇を走るのなんてほぼ無理だからな。うん。何よりみんな無事で良かった。とりあえず魔石の回収もせずに、駆け足でゲネブを目指す。
空が白み始めた頃、ここまで離れれば良いかと仮眠を取らせる。皆ヘトヘトだったので俺は寝ずに番をすることにした。
……結局、相手にダメージを与えられないと森の深部での訓練は厳しいかもしれない。モーザとスティーブはそれなりに魔力を集めながら攻撃しているが、Cランク相当の敵には致命傷を与えるのが難しいようだ。
その後、2時間ほどで再び走り出す。途中何度か休憩ははさむが寝ないでゲネブまでたどり着いた。
思ったより北にズレていて、到着した門は北の正門だった。深夜だったため門は閉ざされており、横の通用門をノックする。すぐに門番が出てきた。
「ん? こんな夜更けにどうしたんだ?」
「はい、森の深くで特訓がてら狩りをしていましたら、オークの集落を見つけたので慌てて帰ってきたんです」
「なに? オークの集落だと? 近いのか?」
「必死に走って2日ほどの距離でしたので、そこまで近いわけじゃないのですが」
話を聞いていた他の警備団も色めき立つ。
すぐに第三警備団の本部に伝えるように言われ、中に通された。
こんな夜更けだ。流石にスティーブとフォルを警備団の報告まで付き合わせるのは可愛そうなので、俺の家まで連れて行く。
「シャワーを浴びてから寝ろよ。ベッドは1つしか無いけど2人でとりあえず寝ててくれ。モーザはどうする?」
「第3に行くなら俺も居たほうがいいだろ、報告に付き合うぜ」
「分かった。頼むわ。おい、駄目だ駄目だ! サクラに座るなら必ずシャワー浴びて、着替えてからにしろよ。そこのシャツとか洗ってあるから適当に使っていいから」
「サクラ?」
大事なことを言い含めて、すぐにモーザと家を出た。
第三警備団の詰め所は、深夜でもちゃんと夜勤の団員が対応をしてくれる。
「モーザじゃねえか、どうした? こんな遅くに」
モーザの父親のボーンズは第三警備団の所属だ。黒目黒髪の為、警備団に成ることは出来ないが警備団の面々に顔を覚えてもらうのは将来役に立つと色んな所に連れて行かれたらしい。黒目黒髪が産まれるとそれを「恥」と感じ隠す家も多いと聞く中、やはりボーンズさんは良い人なんだなあと改めて思う。
北門の門番に言ったように、再びオークが集落を作っているのを見かけた話をした。レッドベアと浅い所でエンカウントした話をすると、「流石ボーンズさんに鍛えられてるだけは有る」と頷いている。レッドベアとやり合えるだけで冒険者としても中級クラスの扱いになる。モーザが自分じゃなく……とでも言おうとするのでそれは制しておいた。
集落が有るということで、早々に襲ってくる等の話ではないため明日、というより今日か。朝団長が出勤したら対応の会議を開くという。
一応なにか他に有ればと、事務所の場所を教え。詰め所を後にした。
「まあ、今日は帰って寝よう」
「ああ、そろそろ倒れそうだ」
モーザと別れて家に帰る。ぐったりだ。
フォルとスティーブはベッドで気持ちよさそうに寝ている。シャワーを浴びて今日はサクラで寝ることにした。
ふう。
……オークの言葉。理解できちまったな。
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