第118話 森での訓練 2
木々を集め焚き火を起こし。ドロッパーを燃やしていく。これが正解かは解らないが腐って酷い状態になるよりはマシな気がする。順番に仮眠を取りながら魔石を抜いたドロッパーを火に突っ込んでいく。
匂いに釣られたのだろう。ガサゴソと草をかき分け一匹の……熊が現れた。
2mをゆうに超え、3mもあろうかと言う巨体を揺らしながらそいつはやって来た。
「レッ、レッドベア!?」
モーザが唸る。お、一泊目でもうお目当ての魔物が出てきたのか?
俺は置いておいた盾を取りレッドベアと向かい合う。レッドベアは立ち上がり威嚇するように両手を開き吼えた。
ぐぉぉぉぉおおおお!
仮眠を取っていたスティーブも起こされレッドベアを見上げる。
「よし、俺があいつの攻撃全部防ぐから俺の後ろからでも横からでも奴を攻撃してくれ」
俺は両手で盾を持ち盾に魔力を込める。両手に持つと横長のになるため明らかに盾の持ち方じゃないような気がしてしまうが、棍で相手の攻撃を捌く要領だ。面で有るため相手の姿が全く見えないが<気配感知>を持っている今の俺には問題はない。この距離だと盾越しにレッドベアの動きがほぼ分かる。
レッドベアは、左右の腕をぐわんぐわん振るい攻撃してくる。俺はそれを両手盾で防いでいく。1枚の板なので繋がっては居るが、感覚的にボクシングのミット打ちの要領で対応する。まともにぶつかれば吹き飛びそうだが微妙に角度を調整することで力を流す。うん。問題なさそう。
やはりすぐに攻撃に移れるのはモーザだ。フォルとスティーブはレッドベアの巨体にビビリまくってる。
俺の右後ろからモーザは少しづつ槍で突くがイマイチダメージが与えられている感じではない。レッドベアの纏う魔力と比べ槍に込める魔力が劣っている。
「モーザ! もう少しゆっくりで良いから魔力を槍に集めていけ。向こうの魔力の方が強い」
「わかったよ!」
言われる通りに、槍に魔力を込めながら一撃一撃を丁寧に変えていく。しだいにレッドベアもモーザの攻撃を無視できなくなり、ターゲットをモーザに変えようとする。
「させねえよ!」
レッドベアの動きにあわせ直ぐにモーザとの間に割り込み、さらにレッドベアの攻撃を抑えていく。モーザも俺の動きに合わせ、直ぐに位置取りを左側に移し攻撃を重ねていく。
このまま行けば問題ないか。
そんなフラグを立てたせいなのだろうか。
「兄貴!!! 後ろからもベアが!!!」
げ。
後ろで俺とモーザの戦いを見てたスティーブとフォルに向かってもう1匹のレッドベアが突っ込んできた。
とっさに、<ノイズ><ラウドボイス>をかける。
ぐぉぉおおおおおお!
<ノイズ>に嫌がるそぶりを見せるが、レッドベアは意識を失わない。だめか。それなら……。
<魔弾>
一瞬盾から片手を離し、後ろから来るレッドベアに手をむけ<魔弾>を発生させる。
グゥアン!
魔力の弾丸がレッドベアの顔面を直撃する。レッドベアは顔を仰け反らす。だが弱いか。直ぐに体勢を立て直し再びこちらを向く。血走った目で俺を睨み付けて唸る。どうするよ。
いや決まってるか。1匹間引けばいいだけか。
目の前のレッドベアが振るってきた右腕を受けずにそのまま流し、体勢の崩れたところを顔面に思いっきり盾で殴りつける。
そのまま盾を手放し、後ろのレッドベアに向かい走り出す。<剛力>で脚力を挙げスピードを増し。全力で魔力を込めながら剣を抜き放つ。後ろでは体勢の崩れたレッドベアにモーザが全力で槍を突き立てるのが解る。
レッドベアは強靭な腕力が危険な魔物のようだ。だがそれだけの魔物だ。関節の稼動域も人間ほど広くは無い。結果。攻撃は単調になる。幾らすばやい腕の振りでも攻撃のラインがわかれば……。
ズシャァァアア!
腕をかいくぐり上半身と下半身を分離させるだけだ。
そしてそのまま剣を地面に突き刺し。次元鞄から弓矢を取り出す。
番えて射る。
ドゴォン!
3匹目のレッドベアが草むらから顔を出したところで眉間に矢が突き刺さ……らずに跳ね返る。しかし衝撃はかなり有ったようで首をのけぞらして痛そうにしている。
もしかして……
レッドベアが呻きながらようやく首をこちらに向けた瞬間に同じ場所に<魔弾>をぶつける。再びのけぞる。そして俺の魔力視には<魔弾>の当たった部分の魔力の層が一瞬吹き飛ぶのが見える。
魔力の薄くなった眉間に再び矢を射る。
ズバン!
今度は弾かれず、矢が頭蓋骨に突き刺さる。
見るとこちらは少し小さめの固体。もしかしたら親子なのだろうか。そこに久しぶりの目眩が襲う。
「とっとっと。レベルアップ酔い来たー!!」
「来たじゃねえよっ!」
モーザの方も無事にレッドベアを仕留め終わっていた。
かなり焦ったのかモーザがいささか不機嫌だ。
まあまあ。
それにしても。
レッドベアクラスになると、モーザは良いがスティーブとフォルはまだ早かったか。いやスティーブは恐らく実力的には行けるのかもしれないが、精神的に難しいのかもしれない。動きが単調と言えど一発受ければ終わりそうな相手とガチで戦うにはまだ早いのか。やっぱりウーノ村のダンジョンとかの方が良いのだろうか。
地図を見ながら、モーザに話しかける。
「レッドベアが出るのってあと1泊くらいの予定だったんだけど、随分早いよな」
「早すぎる気がする。こんな浅いところで出現してたら狩人が何人もやられるだろ」
「ふうむ。なんかあるのかな? ちょっと様子だけでも見てみるか?」
「あんまおススメしねえけど、やばかったら直ぐ戻るぞ?」
「分かってる」
そこから、さらに奥へと入っていく。
奥に行くほど魔素が濃くなっていくようで、出てくる魔物も強くなってきている。しかし朝のレッドベアと比べれば脅威が少なめなのかフォルもスティーブも何とか付いていけてた。あのレッドベアはたまたまなのか? そんな事を考え始める。
日も傾き始め、そろそろ今日は此処らへんで野営をしようかとモーザと話していると、突然森の開けている場所に出た。
いや。木が生えていないわけではない。所々に切り株が見える。
「ん? なんだ?」
「伐採した跡があるな」
確かに、もとから木が無かったわけではなく伐採したような感じだ。周りを見ていたスティーブが俺を呼ぶ。
「ショーゴさん、ここを」
指された場所を見ると何かの足跡のようなものがある。俺にはよくわからないが少なくとも人間の足跡じゃない事は分かる。人間にしては大きすぎるのだ。それを見たモーザが考え込む。
「オークかもしれない」
「オーク?」
ゴブリンと並んでよく聞く名前の魔物だ。ゴブリンよりは確実に強いんだろう。ううむ。これだけ伐採している跡があるという事は、集落でも作っているのかもしれない。
「レッドベアが移動したのは、オークのせいか?」
「考えられるな。オーク単体ではレッドベアに勝てないと思うが、これだけ伐採しているのを見ると数が多いのかもしれない。上位種もいる可能性もある」
「潮時か……」
「そうだな」
「……これは警備団に報告した方が良いのか?」
「もちろんだ。数を増やしたオークは脅威になる。レッドベアなどの奥の魔物がゲネブ付近にまで逃れているとなると、被害者もでるだろ」
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