第117話 森での訓練 1

 朝、三人が事務所に集まると軽くお互いに自己紹介をして、早速出発する。

 以前アジルを殺った時に得た3つの次元鞄の内、アジルの使っていた派手なやつはピートに渡してしまったが今は1つを自分で使ってもう1つが余っていた。それと水の魔道具の水筒をフォルに渡す。

 視線を感じて振り返るとスティーブが羨ましそうに見ていたので、使っていたもう1つの次元鞄と水筒をスティーブにも渡した。とりあえず1つ次元鞄を背負っているのでなんとかなりそうだしな。荷物も分担すれば良いし。


 モーザは完璧な装備で来ている。手に槍を持ち革鎧に身を包み腰にはちゃんと次元鞄も付けてる。現在は3人ともちゃんと革鎧を付けている。スティーブはリンクたちのお下がりなのか年季の入っている物を。フォルは俺の買ってやった新品なものなだけに初心者臭がぷんぷんだ。



 予定では、まっすぐに西の森を突き進んでいく予定だ。ただ、今回はカポの集落の寄合い小屋などは使わない方向で、気持ち北側に進んでいく。例の地図によると奥の方に行くとレッドベアなどのCランク相当の魔物など出るようだ。エルフの集落への護衛の際にレッドベアと戦ったがおそらく問題は無いと思う。


 始めから駆け足でいく。おそらくフォル辺りがきついと思われるが以前少しレベル上げをしたのである程度ついていけると思うんだ。



「ハァ。ハァ。ハァ」


 ちょうどスティーブがフォルと同じ13歳と言うことで、フォルはライバル心をむき出しについていく。この中では、やはりモーザが年齢の分体力はありそうだな。


 裕也の真似をして、殺した獲物は無駄にしないという考えでやって来たが流石にこういう時はそうも言ってられない。フォレストウルフは軽く埋めて行く。順番にフォレストウルフの対応をしてもらったが3人とも問題は無さそうだ。


 おそらくモーザは龍の加護があるはずだ。そう考えるとよりスキルも覚えやすいんじゃないかと思ってる。話によるとスティーブも<操体>のスキルを持ってるということで加護があるかまでは解らないが才能はありそうだ。


 それにしても……


「背中の盾が風の抵抗受けて重いんだけどっ!」

「そりゃあ。そうだろ。ショーゴはタンクなのか?」

「いや、違うんだけど。お前らの練習するのにタンク役居たほうが良いと思ってさ」

「そんな簡単に出来るほどタンクは単純じゃねえと思うぜ」


 うん。なんかタメ語で会話ができるモーザがありがてえ。


 フォルの体力に合わせちょこちょこと休憩を取りつつ奥に進んでいく。基本は走りだ。体力のある無しでイザという時の生存率も変わるだろうし。スキルが生えるなら生やしたい。始めは余裕の有ったモーザも流石に苦しそうになってくる。




 少しづつ日が傾きだした頃、野営の出来そうな場所を探し準備をする。今回はテントは無しだ。一応タープっぽいのは買ってきたが、雨がふらないのであればそのまま敷物だけ引いて寝転がるだけだ。


 俺、モーザ、スティーブとフォル。の3班で夜番を回すことにする。出てくる魔物は少し強くなってる感じはするが、まだここら辺ならそんな心配ないだろう。

 フェニード狩りの時にルベントが燃やしていたあの木を教わっておけば良かったなあと思う。帰ったらピートの家に行ってみるか。


 龍脈沿いの街道での野営とかではないので、干し肉やパン、ドライフルーツなどで食事も簡易的に取る。



 深夜。寝ているとフォルに起こされた。


「兄貴、なんかバタバタとなにか居るみたいなんだ」


 何でも良いから、気になったら起こせと言っておいたので、ちょこちょこと起こされる。スティーブも平静そうな顔をしているが、緊張しているのが分かる。今度はなんだ?


 ギリギリ感知の圏外だが、鳥系の魔物らしきのが少し離れた木の上に居るようだ。魔力のモヤを見る限りそこまで大した魔物では無さそうだが……数が多いな。こちらの様子を探っているようにも見える。モーザも起こしておくか。



「お前……本当に大丈夫か? ドロッパーも知らないのか?」

「ドロッパー?」


 話を聞く限り、吸血コウモリの一種のようだ。鳥ではなく獣系の魔物で、森の中で野営をしている時に警戒すべき対象の1つだという。1匹1匹は大した強さでは無いが集団で襲い牙に弱めだが麻痺性の毒が有るため油断をすると痛い目にあうという。


「暗闇でも獲物を認識するんだ。魔力を感知してるんじゃないかって話だ」

「じゃあ、明るくしても大丈夫か?」

「そうだな、こっちから見えないと一方的にやられそうだな」


 モーザが自分の次元鞄をゴソゴソと探り懐中電灯の様な魔道具を取り出して付けた。


「それじゃあ、暗いなあ。光源つけるぞ」


 少し強めに<光源>を発生させる。


「おいおい。光魔法有るなら先に言ってくれよ」

「ああ、悪い」



 周りから少しづつ魔物が集まってきているのが分かる。モーザが言うにはこちらの人数が多いと仲間を集め数的有利を確立してから襲ってくるらしい。

 弓を取り出し、ちょうど頭上を飛んでいた一匹をしとめる。落ちてきたドロッパーを確認するとやっぱりだ。見るからに蝙蝠の魔物だ。多分魔力を感知している訳じゃないだろうな。エコーロケーションだろう。この世界じゃ超音波なんて認知されて無さそうだしな。


 ということは。ノイズが使えそうだ。


「いいか。動き出したら相手の知覚を狂わすフィールドを張るから、後は適当に切りまくって経験値を稼いでくれ」

「何をするつもりだ?」

「半額セールで買った<ノイズ>を使うんだ。半径15m位まで広げられるから、中にはいって方向感覚が狂ってるドロッパーを仕留めるだけでいい」

「おいおい、そんなのでどうにかなるのかよっ!」

「ちょっと耳鳴りするかもしれないが我慢してくれ。来るぞっ!」

「お、おい!」


 バサバサバサ!

 バサバサバサ!

 バサバサバサ!


 気持ち悪いくらいに数を増やしたドロッパーが一斉に木から飛び立ちこちらに向かってくる。同時に俺もノイズを広範囲になるように纏う。



 いけるか?


 範囲内に入ってきたドロッパーは突然感覚が狂っているのが分かる。あれだけの密集でぶつからず飛んでいたのが急にお互いに衝突をしたり、木に突っ込んで行ったりする。


 ……よしっ! 


 モーザ達もあっけに取られながら必死にドロッパーに切りつけていく。範囲内に入ったドロッパーは完全に俺たちを見失うようで攻撃をされることも無い。光源でドロッパーも確実に視認できる。



 後は作業だ。



 お互いの剣が当たらないように適度に距離をとり、処理していく。槍使いのモーザはこういう時やり難いかと思ったが小器用に仕留めていく、連撃もかなりのスピードがある。腕に自信が有るだけに警備団に入れないのが悔しいんだろうな。きっと。


 ドロッパーは、<ノイズ>のフィールドに入るまで確実にこちらの位置を認知しているため不用意に飛んでくる。おそらく周りにいるヤツらは何が起こっているのか解らないだろう。そのためどんどん入り込んでくる。


 途中、フォルとスティーブがレベルアップ酔でふらついていたが、15分もするとあらかた片付き、残りのドロッパー達は何処かに逃げていった。15分と言っても全力で動き続ける15分は結構きつい。


「ふう。どうだ? 行けただろ」

「……お前なんなんだ? おかしいだろこれ?」

「そうか? まあ、気にするな」


 1匹捌いて魔石を取り出してみると、思ったよりちゃんとした魔石だったので皆で必死に魔石の取り出しをする。100匹は余裕で超えている量だ。しんどい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る