第124話 オーク討伐 1

 集合の日。

 今回は俺とモーザは案内役だ。実際は、そこまでちゃんとマッピング等が出来ている訳ではないので、大体の感じになってしまう。それでも方角や目印になりそうな箇所は何箇所か覚えているため何とかなるんじゃないかと。


 一応、警備団にもそこまで正確な位置がわかってるわけじゃない事は伝えてある。警備団のほうも追跡の専門家を用意してフォローしてくれるようだ。



 北門には、警備団の面々がすでに整列していた。森の中を突っ切るため騎獣は居ない。戦闘人員は20名。その中に魔法使いが3名混じっていた。後は支援隊員として食事などの用意をする隊員2名と怪我人を治療する衛生兵的な団員が1名、もしもの時にゲネブまで連絡をする伝令係の様な団員が2名。


 冒険者は絡んだことは無いが何度かギルドで見かけた気がする4人パーティーの冒険者と、少し離れたところにいる2人組みたいなのが恐らくそうだろう。2人組の方は見たことが無い。痩せ型の長身の2人で似ているといえば似ているな。神経質そうな顔でなんだかアサシン系の陰鬱な空気を醸し出している。


 その4人のパーティーは何やら気になるのか遠巻きにチラチラとその2人組の男達を見ている。2人組の方は見られているのを解っていそうだが、全く気にするそぶりを見せない。大物っぽいな。


 ボーンズさんは3組募集と言っていたが、2パーティーしか集まらなかったのかな? なんて思ってると聞いたことのある声が聞こえる。


「悪い悪い、西門かと思って集合場所間違えちまってさ。本当はちゃんと時間通り来たんだぜ俺は。本当さ」


 ……まさか。


「おお! ショーゴじゃねえか。奇遇だな。お前も来てたのか。よろしくなっ!」


 間違いない。このデカイ声。


「うわ。またザンギかよ」

「おいおい。連れねえな。今回もヨロシクな」


 いけしゃあしゃあと遅刻してくるこの感じ。全く進歩してねえよこのオヤジ。まあ、知った顔はそれなりにホッとはするが。ザンギじゃなくても良かったよな。


「ん? 何でアイツラがいるんだ?」


 ザンギが、例の2人組を見てつぶやく。


「知ってるの?」

「ああ? アトルとイペルの兄弟って言えば普通知ってるだろ?」

「いや、知らんけど」


 アトルとイペルは文字通り兄弟の冒険者で、通称「人斬り兄弟」と言われているらしい。随分安易な通り名だが、盗賊狩りで名前を上げ、Bランクまで上り詰めた冒険者だった。対人戦に特化した冒険者らしく魔物退治などはやらないと言う事で、せいぜい護衛などを受ける程度で魔物に対しての仕事は受けないという話だった。噂では他国の内戦に傭兵として出向いていたと言う話でしばらく姿が見えなかったと言うが。


「オークなら、亜人っぽいし。レベル上げとか兼ねて参加したんじゃね?」

「ああ、まあ言われてみればそうなのかもな」


 でもなんか、どこかネジが外れているような人間なんだろうな。因みに4人組はCランクパーティーで1人魔法使いが居る、それなりに優秀なパーティーと言うことだった。


「ジョグもよろしくな。期待してるよ」

「ん」


 とりあえずジョグに挨拶をして立ち去ろうとすると、ザックが何で俺に声掛け無いのかなあと、グレている。ザンギの甥だけにお前も面倒くさいんだよ。



 今回の討伐隊のリーダーは第3警備団の副団長だ。因みに第3警備団は4部隊の編成で団長と副団長3名がそれぞれの部隊長を務めている。


 第1から第3まで警備団があると言うが、領兵的な呼び方をしないのを見ると、王国内で領主が過度な戦力を持つことはあまり良くないのだろうか。自衛隊が軍か否かの論争を思い出してしまうな。


 見ると参加する団員の半分くらいは若い団員のような気がする。経験を積ませたいのか、そもそも騎士の練度が高いのかは正直わからない。


 オークの強さはかなり上下のバラツキがあるらしく、ハイオークと呼ばれる上位種にもなると1匹辺りCランク上位相当の強さが有るという。俺たちの知識ではどういったオークかは解らないが、撤退時に交戦したオークに関してはおそらく普通のオークだろうとモーザは言っていた。


 やがて人数が揃ったのを確認すると出発する。


「モーザ、オヤジさんは来てないのか?」

「ああ、部隊が違うからな、一応俺の父親と言うことで伝令を買って出たらしいけど。もういい年だからな。どちらかと言うと若者の教育係の方をメインでやってるようだ」

「なるほど。父ちゃんに良いところ見せたかったのにな」

「ふざけたことを」




 道中は、俺たちがやっていた訓練の時と違って歩きで向かう。そのため、倍くらいの時間がかかりそうな気がする。特にあの時は帰りはかなり必死に走ったからな。ペース的にはそこそこだったと思う。


 あれからもう何日か経っているが、俺達4人で走った形跡は残っているらしい。俺たちには良くわからないが警備団のチェイサーの様な団員がちょくちょく折れた木の枝等を確認して方向が合っているのを確認してくれる。


「そういうのって足跡を見るスキルがあるんですか?」

「ああ、<察視>と言うのがある。まあ追跡に特化した<跡追い>と言うスキルを持ってるのも居るが、俺は持ってない。まあ<跡追い>は、こう何日かたった跡までは追えないというから良し悪しだけどな」

「この仕事を続けてれば、<跡追い>のスキルが発生したりするんですか?」

「そう聞いているが、まあ今のままでも十分だと思ってる」


 <察視>は観察力が増加するようなスキルらしい。微妙な魔物等の痕跡等も見逃しにくく、それと共に培った経験で痕跡の原因等を見抜くと言う。ただ、やり手の相手の場合は自分の痕跡を消すのも上手いらしく万能じゃねえよということだった。


 知らない職業のプロフェッショナルの話を聞くのはなかなか面白い。モーザの事も知ってるらしく気軽に話を聞いてくれるので色んなことも教えてくれる。スキルは持って無いがモーザもある程度の追跡の基礎は教わってるらしい。



 走って2日ほどと言う事で、4日程でオークの集落に付けば良いかなという行程だった。これだけ人数も居ると、魔物もビビるのか特に襲われる事無く日程は過ぎていく。夜番に関しては警備団で回すので冒険者はゆっくり休んで良いようだ。それも助かる。


 何となくアトルとイペルの兄弟も気になってたまに様子は見ていたが、特に怪しいところも無く普通に付いてくる。人斬り兄弟とか言ったか。そういうタイプの人間は知性のある生き物が怯えるようなリアクションを取ったりするのが快感だったりしそうだよな。こないだオークの言語が聞こえてしまっただけに、オークが知性のある生き物だと言うのは分かった。



 食事に関しては、これがなかなか旨い。行軍中で汗もかくことを想定しているのかやや濃いめの味付けだ。流石貴族で構成される警備団の食事だと感心する。ただ、この食事は三日目くらいまでで、集落に近づくとそのまま調理済みの加工食に変えていくという。


 1日目の野営。今回も龍脈からずれた森の中と言う事で裕也が作ったテントは持ってきていない。警備団のそばでタープを張り朝まで寝ることが出来る。それだけでも森の中の野営としてはかなり贅沢だ。


 森の中は違和感を感じるほど虫の鳴き声の聞こえない。木々の葉スレの音を子守唄代わりにぐっすり眠った。

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