第17話 今日もダンジョン

 宿に帰ったが、まだ神経が緊張しているのか寝れそうな感じがしない。

 そこで、昨日覚えた魔法をまた少し試してみることにした。


 まずは光源。


 相変わらず不思議だ。なぜ光ってるかが全くもって謎。今度は光色を変えてみることにした。一度魔法を切り、電球色のようなオレンジの光をイメージして発動してみる。


 おおー。


 裸電球のようなオレンジ色の光が発動する。


 役に立つか解らないけど、光色も発動時のイメージで変えられるようだ。色々試してみる。虹の様な多色の物は出来ないが、ある程度イメージ通りの色が出せることを知り満足した。


 うん……後は<ノイズ>か。

 今度裕也にでもやってみるか……雑音聞かせて魔物追い払う魔法だしな。きっと危険じゃないに違いない。うん、そうに違いない。


 ……。


 自分にかけてみるって出来るのかな?

 意外と<魔法耐性>みたいなスキル覚えちゃったり(笑)


 ふふふ。


 ……。


「ノイズ」


 キィィィィィィィ!!!!


 とたんに強烈な耳鳴りが響き渡る。体中がブルブルする。


 あれ、ちょっとやばくね……うおお……やばいやばいやばい……ぐおおおおおおお





 カラン♪ カラン♪ カラン♪


 今日も教会の鐘の音で目を覚ます。

 なんとなくだるいな……ベットの上でウダウダしてると、ハヤトが呼びに来た。


「アホなんですか? 君は」


 話をすると開口一番裕也が言った。飛び切りの呆れ顔で。


 以前<解析>魔法の話で、他人に<解析>を掛ける場合、人間に元から備わる魔法抵抗で減衰して自分で自分に<解析>をかけるより情報が少なくなるという話があったが、あれはすべての魔法に同じ現象が起る。裕也が俺の為に回復魔法を村長に強請ったのも、他人の回復魔法では手を付けられないようなダメージを負っていても、自己回復で自分の魔法抵抗を無視して掛ければ大抵の傷が治ってしまうからだ。デバフであるノイズでも同じ現象は起こるのだ。


 つまり、高レベルの<ノイズ>を他人から掛けられたような物なのか……。


「気をつけます……」


 まあ、そう言うしかない。

 そう言わざるをえない。



 食事が済むと、昨日と同じように二人と別れてダンジョンに向かう。

 ハヤトが近寄ってきてのど飴をねだってきた。小動物に餌付けしてる気分になってくるな。

 でも可愛いので1つあげる。



 ダンジョンの料金を支払い、ノートに名前を書こうとすると、今日の日付の所に先に3人の他の名前が書いてあるのに気がつく。


「あれ? やつらも来てるんだ?」

「ああ、もう2時間も前にダンジョンに入って行ったぞ」


 ダンジョン守の爺さんに言われる。寝ていたくせに2時間と言う時間が何故解るのか疑問だったが、あえてツッコミはしない。

 どうやら村のドワーフ達が鉄を補充しに来ているようだった。


「そういえば、この村ドワーフ居るのになんで裕也が農具打ってるんだ?」

「この村のドワーフは無駄にプライドが高いからな、剣や防具しか作る気が無いんだよ」

「なんか解るなあ……」


 ダンジョンを2層に向けて歩いていると、進行方向からガンガンとやかましい音が聞こえてくる。そのまま歩いていると先でストーンドールと戦うドワーフ達がいた。


 ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ。


 でっかいハンマーを持った三人のドワーフ達がストーンドールを囲んでぶっ叩いている。まさにタコ殴りだ。叩くたびに周りの岩がどんどん砕け、ストーンドールがみるみる小さくなっていきやがてサラサラと崩れていく。


 なんというパワープレーだ……。


「やつらああやって、1層をひたすら蹂躙し続けるんだ」

「すげー迫力あるな」

「やかましいだけだ。美しくない」


 すると、ストーンドールを始末したドワーフがどなりつけてきた。


「裕也かっ。その面で美しさを語るんじゃねえ!」


 見ると、恐らくいつもあの酒場で出会うドワーフの爺さん(?)だった。いや、動き的に実は意外と若いのかもしれない。

 裕也とそのドワーフがなにやら舌戦を繰り広げているが、どちらも案外楽しんでいそうで険悪には程遠い。そして2層に行くからとドワーフ達と別れ、階段を下りていった。



「いいか、俺たちは美しく行く。華麗にだ」

「おーい。張り合うなよ」


 妙に肩に力の入ってる裕也がどんどん進めと指示する。まったくもって暑苦しい。

 狩り自体は昨日とはあまり変わらない。だが奥に進むにつれ複数体の出現が多くなってきている気がする。きつい。


 ロックリザードの何がきついって、まず気が付きにくい、あと割とすばしっこい。で、何気に一番厄介なのがその小ささ。ストーンドールのようにでかでかと立ってて普通に切れば問題ないのだが、それと違って小さくて地面をウロチョロ這うもんだから斬りつけると地面に剣先があたっちゃってとてもやりづらいのだ。飛び跳ねて噛み付いてくる時はむしろ良いカモなんだけどなあ。地面に向けて斬りつけるのも体勢的にもゴルフのスイングみたいになったりしてあんましっくりこない。


 ガコッ


「ぐぉ、またダフった……」


 こうなってしまう事しばしば。


「もうちょい剣の間合いを掴めないとな。自分の腕の延長位の感覚でやってみろ」

「それが出来たら苦労しねえよ。うわっ。チクショーすげーやりにきー」

「達人ってのはな、額に付けた米粒だけをシュパッと斬るらしいぞ」

「よし。今度裕也でやってみるわ!」


 そう、戦闘中ひたすら裕也が話しかけてくる。こちとら必死に戦闘してるんだ。ジェントルな俺でさえ荒くれ者の冒険者の様な口をきいてしまう。


「ひぃ。これで低レベルのダンジョンなんだもんなあ」

「この世界じゃソロで狩りをするやつは少ないからな。ダンジョンの難易度はパーティー単位で考えるから、そうなるとここはやっぱ簡単なダンジョンになるんだ」

「むう、異世界転生物は主人公がソロでやってるの多いからな、あ、そういえばさ」

「ん?」

「フォレストウルフもそうだけど、敵ってみんな俺の方に来るよな?」

「そうだな。」

「あれって、やっぱ裕也と比べて弱いオーラ出てるって事か?」

「俺がずっと<気配遮断>使ってるからじゃね?」

「……なるほど」


 やがて2層の最奥までたどり着く。いよいよストーンゴーレムとの対面!!……かと思ったのだが奥の広間にストーンゴーレムの姿はない。


 ……


「道間違えたんじゃね?」

「分かれ道なんて無かったろ?」

「うーん。この階段の下とか?」

「階段?」


 広間の隅に岩の割れ目があり、そこを覗くと下に続く階段があった。


「ダンジョンが成長したんだな」

「ダンジョンって成長するんだ」


 実はダンジョンの成長はそこまで珍しいものでは無いらしい。このダンジョンも百年以上前の資料を見ると1層だけのダンジョンだったと言う話で、何かのタイミングで層が増えたりする。ただこのダンジョンは村営であるため本来村に報告する義務があるのだが……事後報告で良いんじゃないか? 村長ナルダンだし。

 しかも新層のボスを始めて倒すと高確率で割とレアものがドロップと聞いちゃえば……滾るな。


「行くしかねえっしょ」

「しかしなあ、ポップする敵の情報も無いからなあ」

「普通のダンジョンだったら3層でも低層扱いになりそうじゃね?」

「いやまあそうなんだがな」

「おいおい、あのカミソリ裕也も年取って守りに入ったか?」

「誰がカミソリ裕也だっ」


 そうして渋々裕也が3層に降りるのを許可を出す。まずは階段付近で出現する魔物を見てから奥に行くか決めるという制限付きでだが。

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