第83話 フェニードハント 9

 次の日の朝、ギルドで依頼料を受け取りそのまま帰路につく。同じ様にゲネブに戻る冒険者パーティーも何組か居た。ドラゴンの目撃情報で山は危険と見るものも多いのだろう。逆にドラゴンなんて居ねえよとライバルが減ってラッキー位に捉えてる冒険者たちも居るようだ。


 うちらの他にフェニードの捕獲に成功したパーティーは居ないようで、ルベントに俺らがフェニードを持っているのを悟られないようにと言い含められる。帰路で襲われる危険もあるからだ。


 再び帰路はランニングになる。フェニードは氷室の中で凍っているから良いのだが魔石の消費もあるし、他の冒険者が何処までフェニードの捕獲に成功したのかわからない以上急ぐに越したことはない。他の帰宅組の冒険者も俺達と同じ様に捕れなかった様な顔をしている可能性もある。


 <強回復>がレベルアップした俺は、多分行きよりスタミナに余裕が出る。時に背負う当番を買って出た。


 ハッ。ハッ。ハッ。


 ペーストしては割と良い感じだと思う。ルル村までは下り坂に成るので自然とスピードも上がる。それでも道中に一泊野営はしたが良い感じでルル村までたどり着き。日替わり定食を食う。今回は適量だ。




 午後のまだ明るい時間にゲネブに到着する。皆疲れてはいたが気分的にテンションは高い。ただパンクは慣れない長物を持って走っていたせいで少ししんどそうだ。ゲネブの外周の塀が見えてくると心は緩む。


 今回も無事に帰ってこれた。


 ギルドでフェニードを見せると、周りの冒険者達も、おお! とどよめく。ちょいとばかり鼻が高いぜ。うちらは3番目と言うことで無事に依頼の達成を受諾してもらえた。クロア達以外にももう一組居たのか。驚いたな。


「やるじゃねえか、ショーゴ。まあ俺達はトップだったけどな」

「お、クロア久しぶりだなあ。まあ俺達はちょっとスタートが遅かったからな。同時だったらどうなったか分からないよね」

「お、言うねえ。だいぶ冒険者らしい面になってきたじゃねえか、もうEランクなのか?」

「う……まだGだよ」

「は? 何で?」

「う~ん。ギルド長が曲者なんだよなあ」


 何となくクロアは察したようだ。


「俺達はこれで、Bランクの基準に達したから王都に試験に行くんだ。Bランクになれば少しは発言権が強くなるからな、ガツンと言ってやるぜ」

「お、マジか? すげえ。いよいよBランカーかあ。頑張れよ!」


 そうか、クロアたちBランクかあ。やるなあ。

 俺もそろそろちゃんと考えるか。


 クロア達と話している間に、手続きを終え報酬を受け取ったピート達と合流する。夕飯がてら報酬分けようという話になる。ピートたちが行きつけの居酒屋があるということで連れてってもらった。


 店はスラムにあり、店自体は小さいが、隣の空き地までテーブルが並べられており適当にタープで屋根が付いてる。空き地の周りには瓦礫が積まれていて勝手に敷地を使ってる感が半端無い。小汚い居酒屋だったが新橋のガード下のような雰囲気がちょっと良い感じだ。良く考えるとスラムに来るのは初日の教会に来たとき以来かもしれない。


 スス村での滞在依頼費も含め全て均等に分けて貰える。かなり美味しい仕事だったなあ。また何かあれば一緒に行こうぜとパンクたちに言われる。まあピートは積極的に誘う雰囲気を出してないがきっと奴はツンデレだからな。用があれば普通に誘ってくるだろう。


「時にドラゴンの話と黒目黒髪が龍の加護だって話は、俺達からは誰にも言わないぞ?」

「ああ、それで良いよ。証明できるものも無いからな。ゆっくりとスパズの地位向上の作戦を練るわ」

「スパズだからって家を追い出されたりで落ちてきたのがスラムには何人か居るんだ。だからスラムの人間にはあんまり差別意識持ってるのいねえし、ばあちゃんも今じゃ白髪だけど、若い頃は黒髪だったって言ってたし」

「特に問題なのは貴族かね。まあ人間ってのは自分の下に人を置きたがるのが多いからな、そればっかりは心の弱さだからしょうがねえよ」


 一週間以上一緒に旅をしてきた仲間だ。帰ってきたその日だから皆疲れてはいるが、大いに盛り上がる。肴はまあ可もなく不可もなくといった感じだが、気取らない雰囲気でかなりくつろげるのが良い。


 あまり遅くまでやってると眠くて動けなくなりそうだからな。適当なところで切り上げる。「楽しかったぜ」そんな言葉がじんわりと心に染み込んでくる。いい感じじゃないか。数ヶ月だが、だんだんゲネブが自分の生活基盤になっていくのを感じた。


 振り向くと、パンクとデーブがいつまでも手を振っててちょっと恥ずかしい。




 4人に別れを告げ、自宅に向かう。久々に自分のベットで眠れることを考えるとほっとする。やっぱ旅行帰りの決まり文句は「我が家が一番」だぜ。


「あれ?」


 家の鍵を開け、ドアを開けると床に一通の手紙があった。ドアの下の隙間から入れたのだろうか。特に封筒等に入っておらず、半分に畳まれたその紙を開くと、懐かしい文字が並んでいた。日本語だ。


 ――省吾へ 何日かゲネブのラモーンズホテルに滞在している。フロントには通してあるから、聞いてみてくれ。滞在中に間に合えば飯でも食おう(^^)/ 裕也


 おおおおお。


 なんてタイミングが良いやつだ。折れた剣もあるから顔を出そうと思っていたんだよな。みつ子がちゃんと裕也の小屋までたどり着いたかも気になってたし。


 ていうかなんだよ、この顔文字。気持ち悪い。なにかのジョークか?



 ちょっと眠いが、どうせ明日は1日まったりサクラに座って過ごそうと思っていたんだ。寝過ごして、早朝に裕也が出発してたりしたら逢えなくなるしな、とりあえずホテルに行ってみるか。


 まずは鎧を脱ぎ、シャワーを浴びてさっぱりしてから向かうことにした。


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