第82話 フェニードハント 8
当然と言えば当然なのだが、何事も無く日々が過ぎていく。夜は屋台に出向き。昼間はまったり温泉三昧。言うこと無しだな。
村には武器屋まであり、パンクとデーブとで覗いてみた。2人の武器は正直ボロボロの武器で話を聞くとピートとルベントのお下がりを使っているとそうだ。スス村は鍛冶師が多くゲネブで売っている武器もこの村で仕入れたものもかなりあると言う。エルフの集落ほどの行程では無いが商人が数日かけて仕入れをすると考えれば、この村で直接買えれば格安で買えるというわけだ。
今回はフェニードも手に入れたし、手数料を考えればなかなかの物だ。しかも、五人で一部屋だと1泊500モルズ程度の安めの宿賃でゆっくり遊びながら、1日1000モルズ入る。良い武器があれば買っちゃいたいだろう。
「2人はどんな戦い方がしたいとかあるのか? そもそもこの4人パーティー全員剣で戦ってるよな?」
色んな武器が並ぶ棚を眺めながら聞いてみた。するとパンクが目をキラキラさせながら答える。
「俺さ。目立つ武器が良いんだよね。剣ってなんか普通じゃん?」
「うーん、だとすると槍とかか? あとパーティーにタンク役がいなくね?」
「タンクかあ、あまりガタイが良いのが居ないからなあ。しいて言えばデーブか?」
「ん? おれか? 別にいいけど盾なんて使ったこと無いぞ?」
まあ他人のパーティーの構成などを考えても余計なお世話なんだが、4人が4人剣を持って戦うには正直バランスが悪い気がしてしまう。三人はそれぞれ思い思いの武器を手に取りその握り心地などを試していた。
無骨なククリナイフみたいなのがちょっと気になるが、裕也が他の鍛冶屋の武器を持ってるのを見たら嫉妬しそうだからな。そう言えば俺もミスリル混じりの剣が折れたんだったなあ。帰ったら一度裕也のところにでも行こうかな。
パンクが何やらハルバードっぽい武器を嬉しそうに、「どうかな?」なんて聞いてくるが正直良くわからない。後で俺とピート達で氷室番を交代する時にでもパーティーメンバーで相談してみたらと言っておいた。冒険者にとって武器は命に直結するからあまり適当なことは言えないだろう。
帰りに屋台でピート達の昼飯も一緒に買い、宿に戻ることにした。
4日目になるとそろそろ飽き始める。あの後4人で武器屋に行って来て、ルベントが刃渡り40cm位の刃厚の短剣を2本購入していた。腰に向かい合いで平行に鞘が取り付けられたベルトをして両手で同時に抜ける感じらしい。二刀流を想定しているようだ。財布の紐が一番硬そうなルベントが案外消費家だったりするのか。
部屋で2本の短剣を抜いたり構えたりとニヤニヤしながらシミュレーションをしているのをパンクが羨ましそうに眺めている。「左手は逆手に持ったほうが相手の攻撃をさばきやすいかな?」なんて聞いてくるもんだから俺も一緒になってシミュレーションに参加したりした。
その後昼飯の買い出しにルベントとデーブが出かける。
「ルベさんは、ピートさんが新しい剣を貰ったから対抗してるんすよ。何気にあの2人対抗意識が強いんだよなあ」
「なるほどなあ、で、パンクはあのハルバード諦めたのか?」
「いやあ……う~ん……予算オーバーなんだよね。ショーゴ見ててちょっといい弓買うのもありかなとか考え始めてる」
色々とシミュレーションに参加したりするうちにピートが魔力斬教えろと言い始める。一応感覚を教えたりするのだがそんな簡単に使えるようには成らないもので、ひたすら魔力を込める感覚を繰り返すしかないようだ。どうせだったら暇なんだしスス村の鉱山ダンジョンとか連れてっても良かったのかもと今更思う。
「警備団が着いたみたいだぞ。それもクルト直々だ、第三警備団の精鋭部隊引き連れてきてる」
「クルト?」
「第3警備団長だ。強えって話だぞ」
「ああ、口髭の? やっぱ強いんだ」
「若い頃に1人でワイバーン殺ったって話だぞ?」
「まじかあ……」
ううむ、だいぶ……というかかなり大事じゃねえか。一応クルトさんは面識あるしちょっと話したほうが良いのかも。
その事を話すとルベントがしばらく悩んでいたが、それを言ってしまうと滞在費の依頼料が消えるどころか、他の冒険者への依頼料まで払わされる恐れがあるという。ううむ。黙っておくか。そうするか。致し方ない。
結局パンクは、ハルバードは諦めて槍を買っていた。
エルフの集落に護衛依頼を受けた時に居たロンドさんの持ってた槍と比べ、金属部分が割と小さめのシンプルなやつだ。武器屋のオヤジに聞いたら初めて買うなら安いやつで良いと言われたらしい。それでも安い槍の中からちょっとだけ見た目がカッコいいのを選んだと言っていたが。まあそこら辺は主観的なものだからな。ナイフに長い柄が付いてるみたいだが、言ったら可哀想だから言わないが。
「なんか、棒にナイフがついてるみたいだな」
「ちょっ! ピートさん止めてくださいよ。これが入門にはベターな形なんですっ!」
おう、ピート言っちまった。やるなあ。
「しかし、使い方分かるのか? 周りに槍使いってあんま居ねえぞ? ショーゴ分かるか?」
む。槍かあ。昔小学生の頃持ってた少年漫画で李書文の伝記的な漫画を読んだことがあるぞ。神槍って言われてたんだよな。確か練習風景もあったの覚えている。よし。行ける。
「しょうがねえな、パンク、それちょっと貸してみろ」
パンクから槍を借りると右前に構える。中国の槍術だから合ってるか知らんが。なんとなくこの世界で戦闘を重ねたせいか、槍を持った時の感覚がちょっと分かる気がする。
「基本の動きは3種類だ。ピート剣を構えてこっち向いてくれ」
ピートが構えるとそこに槍を合わす。
「欄、拿……ちゃ、ちゃん? だっけ? んと。型の名前は良いや」
「いいのか?」
「名前なんてどうでも良いんだ。形さえ覚えれば。まずは払う動作……」
そう言うと槍先をくるっと回してピートの剣を払う。お。上手く行った。
「で、そのまますぐに反対側に槍を回して元の形に戻す。で、戻った瞬間に突く……」
「おおお! 危ねえ。すげえ伸びたな」
ロンドさんらの使い方と違って最後に突くときは、前側の手を滑らせて両手は重なるようになる。そのためかなり遠くまで突ける。良い感じじゃねえか。
しかしピートはちょっと不満げだ。
「そんな突き方してるの見たことねえぞ?」
「お? そ、そうか?」
「しかも今の動き、どちらかと言うと対人じゃね?」
「うっ。ま、まあ。基本だ基本。俺の田舎の」
ちょっと訝しげるピートと違って、パンクは目をキラキラさせてる。
「ヤッベ! カッコいいじゃねえかショーゴ。払って、戻して、突く。だな」
「あ、ああ。これを一呼吸で出来るように毎日身体が勝手に動くまで練習するんだ」
「分かった! やってみるわ!」
うん……多分大丈夫だと思う。きっと未来の神槍だ。
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