第81話 フェニードハント 7

  予想外な事はあったが、フェニードを手に入れた俺達の足取りは軽い。下り坂の足の速さと言うのもあるが、フェニードを探しながらの行程じゃないと言うのもあるだろう。次の日の夜には何とかスス村までたどり着いた。


 山側の門までたどり着くと、門番の兵士が近寄ってくる。こういう時の対応は大抵ルベントが行うようだ。


「おお、無事だったか、よかった」

「ん? どうしました?」

「お前たちは見なかったか? 昨日ドラゴンを山で見かけた冒険者が何人か居て、皆村まで避難しているんだ」

「ドラゴンすか?」


 やべえ。なんか大事になってるのか? チラッとルベントがこっちを見る。多分「どうする?」って聞いてきてる気がする。あれ……あんま言わないほうが良いのか? どうして良いか分からずピートの方を見ると、ピートも困ったような顔をする。


「いやあ、見ていないっすね。ワイバーンとかっすか?」

「うーん、見た連中は口を揃えてあれはドラゴンだと言うんだよな、まあ何にしろ何もなくてよかった」

「ドラゴンだったらやべえっすよね。でもドラゴンの目撃なんてここ何年も聞いたこと無いっすよ。人が襲われたような話なんてもっと聞きませんよね」

「まあな。ああ、お前たちはもう街に戻る予定か? 一応ゲネブの本部に連絡は送ったが部隊が来るまであと数日はかかると思うんだ、それまでの間冒険者達に滞在してもらっていざという時の戦力として期待させてもらう話を村のギルドと交わしている。悪いがギルドに寄って話を聞いてもらっていいか?」


 まじか。超大事じゃねえか。

 俺らが悪いわけじゃないが、更に言いにくくなってる……



 時間もだいぶ遅いため一度宿で部屋を取ってからギルドへ向かう。村のギルドと言うことでそこまで大きいわけじゃないが、そこそこの村だからな、ちゃんとギルドの体をなしていた。


「Dランクの方でも、今は頼らせていただきます。あ、ただEランクからしか滞在依頼費が出ないのですいませんがGランクの方は……」


 うわ……またかよ。


「悪いが、俺達はパーティーで来ている。パーティーの人数分の依頼費が出ないならゲネブに帰らせてもらう」


 お。おおお。ピートさんカッコいいじゃないか。惚れちまうぜ。

 言われたギルドの受付嬢は慌てて、少しお待ち下さい、と奥の方に居る責任者らしき職員の方に走っていった。しばらく相談していたがやがて戻ってくる。


「分かりました。パーティーでの依頼と言うことで5人分出させていただきます。それでよろしいでしょうか」

「ああ、それで良い」


 村の滞在は一日あたり1人1000モルズ出ると言う。ただ実際にドラゴンに村が襲われたりした場合には魔物のランクによって追加費用が出るらしい。


 まあ、ロッソと戦うとしたらAランクが束になってやっと相手になるレベルじゃないのか? フェニードハントに熱くなるランクの冒険者達じゃ何人居ても太刀打ちできなそうな気がする。


 ただ。来ないけどな。ロッソ。

 温泉にゆっくり浸かりながら休暇気分を満喫させてもらうぜ。




「おっふ……生き返るぅ」


 行きの時とは違ってゆっくりと温泉に浸かる。これはたまらん。硫黄泉の匂いが温泉感をまた際立たせる。目を閉じて全身で味わう。


 ……あれ?


 おおおおお


 これ、新しい魔法じゃないのか???


 目を閉じて、まったりと温泉を楽しんでいると、頭の中に今まで無かった物に気が付く。そうか。一度頭の中で構築された方程式的な物が魔法として刷り込まれたのかもしれない。


<光束>だ。


 きっとこれ、レーザーの事だよな。何となくまだレーザーポインター的な光線が出そうな気がするが、壁に穴あけたらやばいからな、後で外で試してみるか。<思考加速>状態じゃなきゃあの光の処理は出来そうもないもんな。


 ふんふん、なかなか楽しくなってきたじゃない。なんか他に変化は無いのかと頭の中を探っていく。


 お。


 <頑丈>が大きくなってるねえ。レベル2くらいに? それと……<強回復>がもっと大きい。レベル3とかになってるんか? <強回復>の上り方がやべえな。ドラゴンの血で回復したのとか関係あるのか? まあ分からんが嬉しいかも。良く考えると、山から下りてくる道中はかなりスタミナが楽だったもんな。スタミナが上昇するスキルが無い代わりになるのかもしれない。


 ふふふふ。


「気持ち悪いなあ。何笑ってるんだ?」


 その時、パンクとデーブが浴場に入ってきた。


「おう、ちょっとな。ん? ピートとルベントは?」

「そりゃ、氷室の番するのが居ないとまずいだろ?」


 なるほど、そういう世界だなあ。落とした財布なんて戻ることなんて無いんだろうな。

 そんな事を考えていると二人はおもむろに風呂に入ろうとする。


「お、おい! 湯船に入る前にちゃんと体洗えよっ!」

「なんでだよ」

「湯船は皆で浸かるもんだろ? 汚れがみんな入っちゃうじゃねえか。綺麗に使うのは大事だぞ」

「ショーゴは意外と神経質なんだなあ……」


 ブツブツいいながらも、二人はちゃんと体を洗ってから湯船にやってきた。


「そういえば、2人もマズル団とかいうやつなの?」

「ん? 俺もデーブも元々は入ってたけど、今は違うぞ?」


 マズル団は、ギャング団的なイメージでいたのだが話を聞いているとちょっと違うらしい。スラムではクソッタレな大人が多く、働かないで弱い子供とかから金を奪ったりするような奴が多い。それの対抗するために子供達が自衛の為に作った集まりだった。ただ、やはり荒っぽい一面があるようだが。


 一応15歳になると卒業的な形にはなるらしい。OBが威張って現役たちから金をせびるような事も過去にはあったようで、大人と言われる年齢になると基本は完全に抜けることになる。それでも10代くらいの若いうちはある程度頼られることもあるのだが。そんな中ピートとルベントは先輩のアジルにだいぶ可愛がられたということで、懐いていたようだ。パンクとデーブは逆に殆ど絡みはなかったと言うが。


 まあ、この話はピートには触れ難いからな。ちょっとこいつらに聞けて良かったかも。


 だいぶ茹って来たので俺は先に上ることにした。

 ピートたちと交代して、あいつ等も風呂に入らせてやろう。


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