第80話 フェニードハント 6
ぬぐぐぐぐぐ。
レーザー発生には成功したが、出力を上げるのはどうりゃ良いんだ??? 波長を変える? 細かく。いや大きくか??? ええい! ……おや?
……おや?
「あれ?」
『どうした?』
「言葉喋ってます?」
『そりゃ喋るぞ。やはり理解できてたか』
「そう言えば、さっきからなんか話してたかも」
『ふん。パニックになりおって。そんなんでよく我を倒さんと挑んできたものだ』
「いや。殺されると思って」
『大方、ドラゴンスレイヤーとやらに憧れてやって来たんだろ?』
「いや、違いますって。ドラゴンなんて居るとは思わなかったし」
『何? じゃあ何しにここまで来た』
「フェニードって言う鳥の魔物を探して……」
あれ、なんかこのドラゴンそんな危険じゃ無さそうか? と。気が抜けた途端体中が痛みを訴え始める。うん。やっぱ死ぬかも。
おおおおお。痛い痛い痛い痛い。
悶絶していると、突然顔に液体がブチまけられた。
「うぎゃあ! なんだコレ! まじい。ぺっ! ぺっ!」
『馬鹿者! 我の血は人の回復を助長させるものだぞ。吐き出さず飲め』
「え? あれ? そう言えば少し楽に、いやでもまだ痛い。もうちょいくれ、下さい」
『しょうがないな、ほれ』
そう言うとドラゴンは右手(右前足?)の爪で左手(左前足?)の指をひっかく。再び顔に血が落ちてくる。ごぼっ。うが。ごくん。ドラゴンの傷はすぐにふさがって行くのが見えた。化け物め。
今度はしっかりドラゴンの血を飲むと、いつだかのポーションを飲んだときと同じ様に体中がむず痒く、治癒が急激に進むのがわかる。そうだ、剣を。と腹に刺さった剣も抜き取る。お、手はだいぶ動く。激痛だが抜いたそばから傷口がふさがっていく。すげえ。
「おおおお。ドラゴンの血かあ。助かったあ」
『二度も我に血を流させおって』
「ふふふ。ありがとう。でもお前人間の言葉をしゃべれるなんて、かなり凄いやつだな」
『ん? 我は一言も人間の言葉なんぞ話してないぞ』
「へ? だって今もしゃべってるじゃないか」
『我は竜の言葉で喋ってるだけだ。恐らくお前が黒目黒髪だからだろ?』
「黒目黒髪が?」
そして、俺は衝撃の事実を知ることとなる。
黒目黒髪は、精霊じゃなく龍の加護や守護を貰ったものに現れる特徴だと。それが本当なら、差別されるスパズの定義がまるで変わる。が、龍の加護があることが何に繋がるかは皆目見当が付かないのだが。
少なくともその存在は許されるはずだ。
「だけど、俺はちょっと違うと思う」
『違うとは?』
「俺は異世界からの転生者なんだ。俺の世界では黒目黒髪が当たり前のように居る。その姿のままこの世界に転生させられたんだ。むしろ転生してくるときに女神から与えられたと思う<言語理解>のスキルが働いているだけの気がするなあ」
ドラゴンは転生者というのに驚いてはいたが、そういうのがあることは知っていたようだ。素直に受け入れていた。
「お前は元々ここに住んでいたのか? こんなところにドラゴンが居るという情報はなかったんだけど」
『たまたま数ヶ月前にここに着たばかりだからな。山の向こうでの戦いの傷を癒そうと火山浴に寄っただけだ。しかし、人の住む所から少し近すぎたようだな』
「山の向こう? 戦い?」
『そうか、転生者なら知らないか。あの向こうの山脈の向こうでは邪神が作り出した巨人達と、我等龍の眷属達が日々戦いを繰り広げてるんだぞ』
「まじか……」
神話の時代、創造神の力を奪った邪神が世界滅ぼそうと巨人族を生み出し。神々がそれを抑えるために山脈で壁を作り、巨人への対抗として五体の龍が生み出された。眷属である竜と共に数千年の年月。巨人達と戦っていると言う話だった。龍も今では2体しか残っていないという。途方も無い話だ。こんなの誰も信じないだろうな。
「2体ってそれやべえんじゃないか?」
『いや、原始の巨人もだいぶ減ってるからな。それに新たな龍がそのうち現れると聞く』
ふむ。良くわからんが大丈夫らしい。
「そっか、まあいいや。だけど結局お前が居たからここら辺に魔物が全く居なかったのかね、フェニードもここらには居なそうだなあ。参ったな」
『我のせいだと言いたいのか?』
お、ちょっとこのドラゴン不満げだ。キレたらやべえか?
「いや、そういうことじゃないっすよ。ただ。仕事が滞るかなと」
『ふむ。フェニードか……ちょっと待ってろ』
そう言うとドラゴンは飛んでいった。
お、探してくれるのか? なんかあいつ、すげえ良いやつじゃね?
ドラゴンが飛び立ってしばらくすると、ピートたちの意識が戻り始める。レベル差の問題もあるのかピートとルベントが先に動き出す。全身血だらけの俺の姿を見てぎょっとしていたが、これはドラゴンの血だと言うと、更に驚愕している。
「いやいやいや。俺はボッコボコにされたよ」
「は? どういう事だ?」
「その後、アイツが俺に自分の血をぶっかけて回復させてくれたんだよ」
「は??? あのドラゴンがか?」
「おう、なんか意外と良いやつだぞ。フェニード探しに来たっていったら今探しに行ってくれてる」
「はあ???」
どうやら、俺が何言ってるか彼らは理解しにくいようだ。まあ、当然か。あ、そう言えばドラゴンの名前を聞いていなかったな。お前お前言ってたが、ちょっと馴れ馴れしいか。帰ってきたら名前を聞いてあげよう。
やがてピート達がド緊張している中、ドラゴンが口にフェニードを咥えたまま音もなく降りてきた。ドラゴンはそのままフェニードを地面に置く。
「おおおお。ありがとう。さすがだなあよし、ふむ……よし、牙もたててないな」
『うむ……しかしお前、なんかだんだん図々しさが増してくるな』
「お。まあ、気にするな。俺の名前は省吾っていうんだ。お前は?」
ドラゴンは勿体ぶった感じで自分の名前を告げる。だが正直ドラゴンの名前はなんとも発音しにくい変な名前だった。まあ種族が違えばそんなもんなんだろう。
「ろ、ろっどぃすわするす……ううん。ちょっと人間には厳しい発音だな……そうだな。ロッソ。うん、ロッソと呼ぼう。赤だし。どうだ?」
『む。ロッソか。ううむ。しょうがない。それでいいだろう。うむ。ロッソか』
お、意外とこいつ嬉しそうじゃないか?
ちょっと怯えながらピート達はフェニードの血抜きを始めている。ロッソには目を合わせようとしない。言語理解も無いから、何言ってるかもわからないんだろうし。
「よし、とりあえず俺達の目的は達成できた。ありがとうな」
『我も、そろそろまた向こうに行く。人間の寿命を考えるとまた逢うことは無いかもしれんがな。ショーゴと言ったか。達者で暮らせよ』
「おう、頑張るさ。ロッソも死ぬなよ」
音もなく飛び去るロッソを眺めていると、ふと視線を感じる。
「ショーゴ。お前あのドラゴンの言葉が分かるのか?」
「ん? ……」
そうだな、周りから少しづつ広めていこうか。
まあ、嘘も混じるが。
「おう。実はな、あのドラゴンに聞いたんだが。黒目黒髪って精霊たちの守護が無いってなってるだろ? 実はそれって精霊じゃなく龍の加護を貰っているらしいんだ。だから多分、スパズはドラゴンとの意思の疎通が出来るんじゃないかって話だぞ」
「マジか???」
「これが広まればスパズの差別とかも無くなると思うんだけどなあ、だけど……そもそもドラゴンに遭った事すら信じてもらえそうもない気がする」
「ううむ。しかもドラゴンと遭って生きて帰ってきたとか、絶対信じてもらえないな」
「だなあ、そんないきなりは好転しないか」
まあそれでも、フェニードは手に入れた。
今回はそれだけでもよしとしよう。
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