第84話 裕也とホテルで……

 ラモーンズホテルは、裕也が社長と知り合いと言うことで裕也がよく使うホテルで、俺もゲネブに来たばかりの時は一緒に泊まった事がある。若干値段が高めなのでそんなに使える立場じゃ無いが、おれ自身も気に入っているホテルだ。

 ちなみに裕也の住む小屋の近くのウーノ村にもラモーンズホテルはあり、そこの風呂は裕也がデザインした日本の古きよき銭湯をモチーフにしていて転生者にはたまらない郷愁に浸れる。


 フロントで名前を名乗り、裕也が居るか尋ねる。身分証があればと言われ、ギルドの会員証よりインパクトがあるかな? とラモーンズホテルのVIPカードを見せると、裕也の部屋番号を教えてもらった。

 とりあえずまだ居るようだった。良かった。


 教えられた階は、以前裕也が泊まってたスィートより下の階だった。あれ? 今回は3人で来たわけじゃないのかな?


トントントン


 ノックをするとしばらくしてドアが開く。バスローブを羽織り、ちょっとセレブリティを匂わせる裕也が出てきた。俺の顔を見るととたんに破顔する。


「おお! 帰ってきたかあ。今回は会えねえんじゃないかと思ってたわ」

「久しぶりだなあ。このご時勢だ、領主に会いに来たのか?」

「まあ、そんなところだ、立ち話もあれだから中に入れ」


 中はシングルのベットが1つと、ちょっとしたテーブルセットがあり以前俺が泊まった部屋よりは少しグレードが高そうだ。テーブルの上にはテイクアウトしてきたと思われる料理が置いてあり、酒を飲みながらまったりしてた感じだ。


「あれ? 今回はエリシアさんとハヤトは来てないのか?」

「今ハヤトが受験に向けて合宿中だからな、そっちに行ってる」


久しぶりということもあり、長々と話し込んでしまう。ゲネブでの冒険者生活から、ロッカーでの予想外の収入。ランゲ商会のご隠居の話し。最近ちょっと冒険者ギルドを見限ろうかと悩んでる話をすると、分かる分かるとうなずいている。


 裕也の方はあまり代わり映え無く過ごしてるようだが、ハヤトは王都の王立学院の受験をすることをほぼ決定して割とマメにチソットさんの所に行っているようだ。


 エルフの集落に行った話をすると、それはみつ子に聞いているぞと言われる。


「おおう。みつ子はどうだった? なんか剣を作ってもらいたい様なこと言ってたが」

「ああ、ただ滞在中には間に合わそうになかったからな、ハヤトが王都に受験に行くときにでも届けると言っておいた」

「まあ、ゲネブに顔出す時間も無さそうだったもんな」

「しかしお互いの存在は認知しあったからな、幸い同じ国だ、いつでも会おうと思えばあえるさ。うん。あの子は良い子だな」

「まあ。良い子だな。こんな世界でも楽しんでそうだし」


 兎にも角にも、転生同期の3人が判明したんだ。何となくお互いホッとするよな。


「ああ、そういえばみつ子ちゃんの事で1つお前に謝らないといけない事があるんだ」

「ん? なんか俺の変な話したのか?」

「いや、以前回復魔法のスクロールをナルダンに頼んだろ?」


 ああ、そんな話あったな。ナルダンは裕也の小屋の近くにあるウーノ村の村長だ。裕也とは若かりし頃に一緒にパーティーを組んでいた関係で仲が良さそうなんだ。ゴブリンの巣の掃除をしたときに謝礼を出すというので回復魔法のスクロールを頼んでいたんだ。実際はナルダンじゃなくてメイドの子が入手してきたらしいが。


 魔法は、どんな魔法でも他人に掛けると相手の魔法抵抗が発生する。だから回復魔法も他人に回復してもらうより、自分で回復魔法を覚えて使った方がより効果が大きくなる。そういうことで自分で回復魔法を使えるようにした方がいざと言うときに生き残る確立が大きくなると考え、裕也が俺の為に頼んでくれたんだ。


「うん、でそのスクロールがどうした?」

「みつ子ちゃんに、使わせてしまったんだ。また頼んでみるが今度はもう少し時間がかかるかもしれない」

「ああ、それは正解だよ。俺でもそうするさ。それにな。俺のスキル見てみろよ」

「ん? なんかあるのか?」


 裕也が俺に<解析>をかける。


 ……


「おお! <強回復>かあ。しかもレベル3あるじゃねえか。ていうか他にも色々増えてるな」

「ふっふっふっ。だろ? まあ回復魔法ほどの効果は無いかもしれないが、多分色々とこれでいける気がするんだ」

「確か、その上位に<超回復>みたいなのがあった気がする。昔そんな資料を読んだぞ」

「まじか、上位スキルがあるのか。それを手に入れたらますます死にぞこなうな」

「そうか、代わりに明日教会で良さげなスクロール買ってやろうと思ってたけど別にいいな」

「な、何??? いや。それとこれは話が違うな、行こう明日」

「え~」


 うん、<光束>はまだ実戦レベルじゃないしな。対ドラゴン戦で、魔法攻撃が1つくらい無いとヤバイなって思ったんだ。これは是非買って頂かなくては。


「あ、そう言えば俺も謝らなくちゃいけないことがあったんだ」

「ん? なんだ?」


 次元鞄から折れたミスリル混じりの剣を出す。

 裕也は剣を受け取るとしばらく渋い顔で折れ口などを見ている。やがてそれをテーブルに置くとこっちを訝しげに見る。


「この剣は、芯の部分にオリハルコンを混ぜた金属を使っているんだぞ? なにがあった?」

「こないださ、フェリードを捕獲しに行った時にドラゴンに会ってさ」


 ブッ


 裕也が酒を口にした途端吐き出す。


「ど、ドラゴンだと???」

「おう、ドラゴンだ」

「ワイバーンとかじゃなく?」

「普通の、真っ赤なドラゴンだ。噴火口で溶岩浴を楽しんでいたらしい」

「いやいやいや。ていうか、なんでお前生きてるの?」


 ドラゴンの言葉が、恐らく俺達の<言語理解>で会話を出来たので、それで事なきを得た話をする。話せばわかるんだよな。やっぱ。


「そうだ。そういえば黒目黒髪の秘密に一歩近づいたぞ」

「なんだ? 秘密って」


 それからロッソから聞いた、龍の加護の話をする。

 裕也はしばらく黙って聞いていたが、山脈の向こうでの龍と巨人の話になると驚きを隠せない感じだ。裕也もその話は、教会での説教などで神話を聞いて知っていたが、流石に本当にある話だとは思っていなかったようだ。


「じゃあ何か? 黒目黒髪で龍の加護を貰った奴はなんらかしらその戦いに実は関係有ったりするのか?」

「それは分からねえな。ただ、加護や守護はその魂に対して合う物を、死と再生の女神が適当に振り分けてるだけみたいな話をしてたから、龍の意思では無いと思うんだ」

「そんなもんなんだな。でも黒目黒髪を揃えれば、龍と意思の疎通が取れて竜騎士団みたいなのも作れそうじゃね?」

「む! 竜を騎獣にするのか??? 考えなかったがそういうのも可能性としてはあるよなあ。竜騎士団か。やべえ。たぎるな」

「まあ、山脈のこっちに居る魔物としての竜種が、その加護持ちと意思疎通できるかというと疑問もあるがな」

「ふむ……」


 あ。

 俺達は別枠の黒目黒髪だからあんま関係ないのか。ドラゴンとの会話は出来るが。  


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