第135話 スス村のダンジョン 2
ダンジョンの中をしばらく歩くと何やら音が聞こえる。ウーノ村のダンジョンでドワーフたちがやってたあの音だ。
ガン。ガン。ガン。ガン。ガン。
近づいていくと数人のドワーフたちがストーンドールを囲んでタコ殴りしている。一応ダンジョン内ではお互いのテリトリーを侵害しないほうが良いのかなと大回りをしていく。耳を澄ますと色んな所で同じような光景が繰り広げられているようだ。
ドワーフだけではなく、若い冒険者風のグループも居ることから、地元の若者の良い小遣い稼ぎなのかもしれない。同じようにストーンドールが居る割にウーノ村のダンジョンが過疎っているのは立地的な要因なのだろうか。
奥に行けば行くほど敵は多く出てくる様だが、冒険者やドワーフたちも増えてくるためなかなか獲物にありつけない。
「もっと奥行くか」
「そうだな」
しばらく散策していると、茶色い泥団子の様な物がプワプワと近づいてくるのに気がつく。このダンジョンの人気の要因の1つになっているアーススライムだ。こいつが弱いくせに高確率で鉱石などの素材を落とす。
「おお、居たぞこれがアーススライ――」
プシャッ!
「あ、悪い。つい反応しちまった」
モーザが反射的にアーススライムの核を貫き、一瞬で泥水となり形を崩す。後には魔石と鉄の塊が落ちていた。
いやまあ、ダンジョンでの油断は禁物だ。敵影を確認したらすぐに処理しないとな。
更に奥に行こうとしたとき、横の岩の柱からゴゴゴゴとストーンドールが生えてくる。
おお。ダンジョンで敵が湧く瞬間を始めてみたかも。ちなみにストーンドールはただ殴ってくるだけの割と低レベルの魔物で、上位種になるとロックドールという<ストーンバレット>の魔法を撃ってくるやつが居る。あまり違いが分かりにくい見た目なのだが、ウーノ村のダンジョンで散々戦ったので見分けはつくように成っている。
「よし、まずは俺――」
ズゴーン!
「ん? 何か言ったか?」
「くっ……いや、何も」
ニヤリと笑うモーザは槍使い。当然のことながら剣を使う俺より間合いが遠い。スピード勝負になればコチラの不利は否めないが。そうか。やる気だな。モーザ。
サラサラと崩れ落ち、残った魔石を拾うモーザを見ながら。俺はふつふつと闘志を燃やす。感知を頼りに、先に始末してってやるぜ。
人の居ない場所を探しながら2人で散策をする。どこまでも続いている天井を見ていると確かに広い空間だというのがわかるが、あまりアイコン的な場所が無いため地図がどこまで役に立つのかなどと考えてしまう。地図を見ると奥の方に行くとロックドールも居るようだ。それからマウントマンバ。更に奥にはストーンゴーレムまで出るようだ。
――居た。
ストーンドールを見かけ、そいつに向かって走っていく。すぐにモーザも付いてくる。しかし俺には<俊敏>がある……ってモーザもか。しかも俺より10近くレベルが高いと聞いてる。追い越されそうになり、ついに<剛力>を発動する。
一気にモーザを突き放し、剣に魔力を込めながら斬りつける。
ガツゥィイイン!
「ぐぅおお。痺れた!」
いつもの要領で斬りつけるも、失敗する。<魔力操作>を外してしまったのを完全に忘れていた俺は、中途半端な魔力で、しかも普通の鋼の剣。思いっきり弾かれてしまう。
「頂きっ!」
すぐさまモーザの魔力のこもった突きがストーンドールの胸に吸い込まれていく。と、同時にストーンドールはサラサラと崩れていく。
「おいおい。<魔力操作>戻したほうが良いんじゃね?」
「くそぉ。今のは無しだ。次はきっちりやる」
ちくしょう。次はこうはならんぞ。
ただ奥に行くほど、魔物たちは単体で現れることがなくなり、数匹の塊で出てくるようになる。そうなってくるとモーザとの魔物の取り合い的な空気は無くなって来るのだが。
「くっくっく。その顔」
「良いんだ。今は必死にならないと切れねえんだから」
やがてロックドールが出始めると、今度はモーザにストーンバレットのキャンセルのコツを教える。<直感>と<魔力視>頼りの俺と違ってそういったスキルが無いモーザは最初だいぶ苦労していたが、程なくしてロックドールの魔法を打つときの動作を覚えて成功率も上がっていく。なんていうか、子供の頃から鍛えられていたせいか戦闘感というかセンスは良いよな。
「<動作予測>があるからな、コツさえつかめばなんとかなりそうだ」
なるほど、正解のスキルが有るわけでなく、様々なスキルが同じ様な結果に導いていくってのも楽しいな。
夢中になっているといつの間にか天井の光る石の光量が落ち始める。今日はこんなもんか。急ぎ出口に向かって走った。
「おおお。なんだこれ!」
出口付近まで戻ると、そこには沢山のテントやタープが設営され始めていて、冒険者やドワーフたちが野営の支度を始めていた。真ん中あたりに冒険者達が集まり何やら相談をしている。なんだと見ていると1人のドワーフに声をかけられた。
「おう、兄ちゃん今戻ってきたのか。夜番の当番を決めるからこっちこい」
「え? いや……」
「兄ちゃんたちは2人か? じゃあ他のパーティーたちと合同にしたほうが良いな」
「いやいや、そうじゃなくて」
「なんだ? 2人で行けるってか? 若え頃は無駄に自信満々の奴ら多いけどよ、みんなの命にも直結してるんだ。あまり背伸びするんじゃねえよ」
「だから、俺たちパス買ってるんで、ホテルに戻るんすよ」
「……なに? ああ。勘違いしてたわ。悪かったなあ」
ドワーフは俺が野営組じゃ無いと知ると、コチラに背を向け相談の続きを始める。
周りを見ると、どうやら相談しているのはパーティーの代表の人間だけでほかの冒険者達は各々に食事の用意などしていたりする。ドワーフ等は普通に酒盛りを始めているグループなどもあった。
ダンジョン出口の脇ではそこでも何やら人だかりが出来ていた。
帰るついでと、その集まりを見ていると、そこでは数人の商人らしき男が弁当などの食べ物や酒などをダンジョンに居残る冒険者達に販売していた。更に鉄などの鉱物の買取もしている。次元鞄やマジッグバッグなどの大量に入れられるカバン類を持たない冒険者は重い素材が溜まったらここで買取してくれるサービスを利用するんだろうな。
10日パスとか買えば、それでも元は取れるのだろう。どの商人も家で買い取りたいと必死になって客に声をかけていて、にぎやかだ。
「面白いなあ」
「ああ、なんか独特の文化があるな」
モーザも活気のあるダンジョンでの夜の光景に興味津々のようだ。
俺たちはそんな彼らを尻目にダンジョンから外に出てホテルに向かう。流石に今日は酒を飲まないで食事だけにしようと、ひとっ風呂浴びたあとにラモーンズホテルに設置してあるレストランで夕食をすませた。
食後、モーザが座禅をしている。こいつソツがねえ。負けてられないと俺も座禅をする。
リゾートホテルの二人部屋で、シュールな光景のまま夜は更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます