第134話 スス村のダンジョン 1
あんまり遅くまで寝かしていると生活リズムが狂うからな、お昼を少し過ぎた辺りでモーザを起こす。備え付けの小さい魔導コンロでお湯を沸かし、薬草を使ったハーブティーを作って渡した。
「うう。苦いけどなんとなく頭がスッキリするな」
「あんま寝すぎてもと思ってな。昼飯とか行くか?」
「なんか食欲ねえよ。風呂入ってくるかな」
二日酔いで食欲が無いのはしょうがない。俺はモーザが寝てる間に温泉を堪能してきたので、1人で屋台で軽くつまめるものを探して食べることにする。
ホテルは広めのベランダというかテラスというかがあり、そこに竹のような物で編んだ椅子が追いてある。リゾートホテルのような雰囲気を味わいながら、ケバブサンドの様な食べ物を頬張る。
テラスからの風景はちょうど村の広場をよく眺められ、奥にゴツゴツした岩山の風景が望める。他にも何軒か高級そうなホテルはあり、ラモーンズホテルも含めそれらはホテルの周りにかなり頑丈そうな塀で囲ってある。
「ダンジョンのある村だからな、いざスタンピートでも起きた時の為に良いホテルは防御壁を作ってあるらしいぞ」
風呂から上がって少しスッキリしたモーザが教えてくれる。そう言えばウーノ村でも村長宅はいざというときのために頑丈な塀で囲まれていたな。流石にあの村のラモーンズホテルの規模じゃそこまでの塀は無かったが。ここはリゾート気分で来る客も多そうだから金も掛かってるしな。
「どうする? 今からダンジョンって行けそうか?」
「本音言うと今日は動きたくねえけど。様子見だけでも行くか?」
「そういえばモーザも初めてだろ? 話は聞いたことある?」
「なんでも、1層から5層が1つのフロアに成ってるって話は聞いてるが」
「は? なにそれ?」
数百年前にこのダンジョンが出来たとき、1層だけの頃から2層目が増えるとき、階段とかじゃなく壁自体が広がって1層と2層が1つのフロアとして広がったらしい。そして5層まで1つのフロアがただデカくなっただけで、かなり広大な空間ができたという、6層で初めて下に降りる階段が出来。そこから10層まで同じように数十年単位ごとに広がっていき、やはり11層が出来たときまた下に降りる階段が現れたという。
同じ感じで今は17回ほどダンジョンの成長が確認されており、層としては17層まで。でもフロアは1~5、6~10、11~15、16~17の4層の広い空間のあるダンジョンとなっている。人によって17層のダンジョンと呼んだり、4層のダンジョンと呼んだり様々になっている。
ボスは各フロアの最終層の何処かに出現するらしく、その層の最奥に下のフロアに降りる階段があるという。ボス部屋のようなものが有るわけじゃないため、必ずしもボスと戦わなければ下の階に降りれないという事は無いようだ。
「なんか変なダンジョンだな」
「ダンジョンなんて存在そのものが変だからな」
「まあ言われてみればそうか」
ダンジョンはスス村の龍脈溜まりから100m程しか離れていない。ダンジョン口と言われるゲートがありそこからダンジョンまで両側を高い壁で囲まれた通路を通って入り口まで行く。
ダンジョン口には受付の石造りの建物が建っていて、そこで入山料を払う感じだ。
料金表のところに1回200モルズとある。ウーノ村のダンジョンはもっと安かった気がするが。
「これは一日の料金ですか?」
「1回入るのにかかる料金です。一度出てしまうと同じ日でもまた200モルズかかります」
「なるほど、じゃあ朝からガッツリ入ったほうが得なのか……」
「こちらは始めてですか?」
「はい。今日は遅くなったのでどうしようか悩んでいて」
すると、チケット売り場のお姉さんが5日パスと10日パスもあると勧めてくる。料金を聞くと5日パスが800モルズ、10日パスが1200モルズだという。だいぶ安い。
「なんかすごい格安ですね」
「はい、こちらの方は商業ギルドからの援助もありまして……」
なんでもチケット代をケチるためにダンジョン内で泊まり込みで入る冒険者も結構多いらしい、商業ギルドに所属するホテルや宿がそれだと客足が減ってしまうということでパスポートを作成して夜になったらホテルに戻って泊まるという効果を狙って資金提供をしているらしい。
なるほどな。冒険者にも金の有るやつや無いやつはいるだろうしな。
ついでにマップもあると言う。初めてならあった方が良いですよと四枚の紙に版画のようなもので地図が印刷されているマップも購入した。ここの村はダンジョン経営で成り立ってるのだろう。サービスが行き届いている感じがする。
パスを買えば出入りは自由らしく、それならと10日分を2つ購入した。解析の魔道具で名前の確認をし、名前が刻印されたパスを各々手に入れる。一応毎回入場時に解析の魔道具で本人確認もするらしい。
そのまま2人で通路を進む。3時間くらいは出来そうかね。
「さてと。実は<魔力操作>をオーブに吸わせたんだ」
「お? くれるのか?」
「違います。これから勝負をします」
「勝負? なんのだ?」
「どちらが早く<魔力操作>を覚えるかです」
「……良いだろう。座禅ってやつを続けているからな、俺もそろそろじゃないかと思ってるんだ」
通路の終点には岩の洞穴のような入り口があった。警備団の兵士が2人入り口で番をしている。軽く挨拶して中に入っていく。
洞窟内は意外なことに少し暖かい。中の方からモヤッとした温かい風が出てきている。入口のあたりは少し広めの空間になっていて、突き当りに狭い通路が見える。その広間には「ここでの寝泊まりは禁止です」との張り紙がされていた。なんだ?
突き当りまで歩き通路を覗いてみると、下る階段になっていて、先が明るいのがわかる。ワクワクする気持ちを抑えきれないまま小走りに駆け下りた。
……
洞窟を出ると、広々とした空間に出る。所々にデカイ岩の塔のようなものがそそり立っていて奥まで見えないがかなり広い空間だというのがわかる。岩の塔には光る石が埋まっていてさながら街頭のように辺りを照らしている。後ろを振り向くと洞窟の出口が空いているだけで岩の壁がそそり立っている感じだ。まるで一つの世界が岩で仕切られてる様に感じられる。
天井までの高さは、2~30mはあるだろうか、天井にも所々に光る石が煌々とあたりを照らし、外にいるような明るさを感じる。
「すげーなおい。これもダンジョンなんだな」
「ああ。スス村のダンジョンは初めてだが、なんか違う世界に迷い込んだみたいだ」
モーザと2人でしばらく佇む。しかし今日はそんな時間が無いからな、少し中の方に歩いていく。足元は土のようでゴツゴツとした岩の上を歩くような感じではない。
俺はミスリル混じりの剣から、鋼の剣に変え、モーザは槍から刃の部分を覆う鞘のようなものを外す。魔物は俺達の命を狩りに来る。気持ちを引き締めないとな。
ダンジョンの内部へと歩いていった。
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