第133話 スス村の夜

 次の日朝からスス村に向けて走り出す。ペース的には以前フェニードを狩りにピート達と走ったのと同じ感じで行く。


 道中野営をして、次の日の夕方にはスス村に到着した。途中のフードファイトが無かった分早くついたのかもしれない。前回ドラゴンの目撃情報で足止め食らった間に少し調べたらこの村にもラモーンズホテルのグループの宿があったので、そこに向かう。


「一人部屋の方がゆっくりできそうか? 金には余裕があるしどっちでも良いぜ」

「俺もどっちでも良いぞ、あまり無駄使いしない方が良いんじゃねえか?」

「夜、お姉ちゃんを連れ込んだりしたいなら一人部屋2つ取るけど」

「しねえよ!」


 とりあえず二人で一部屋を取る。もし不都合あれば途中で変えれば良いしな。

 そんな事より温泉だ。癒やされたいんだな俺は。



「温泉やべ~ 超きもちい~」

「ホントに温泉目的みたいだな」

「おう、メインは温泉だ。ダンジョンはついでだ」

「まじかよ」


 流石にここは銭湯風では無かったが、露天風呂まで完備されていてなかなかいい具合だ。手で水鉄砲を作りピュッピュッと飛ばしてると、不思議そうにモーザが見ている。


「どうやってるんだ? それ」

「お? 水鉄砲知らないか。こうやって指を組んでな……」

「こうか? お! 飛ぶな!」


 普段大人ぶってるモーザだが、なんだかんだ言って10代だ。水鉄砲を教えると喜んでピュッピュッ飛ばしてる。こういうのは童心に帰れて楽しいな。




 ちょっと長湯をしてしまったが、広場の屋台はまだやっているようだ。風呂上がりに薄手の服に着替え、紐のついた革袋に適当に貨幣を入れて、それを首から下げ出かける。スス村は酒大好きドワーフが多く住んでいる為、夜の賑わいは半端ない。村の中央にある広場はさながらビアホールの会場のように沢山の提灯のような灯りの魔道具が吊り下げられていて、至るところで酒を持ったドワーフたちが騒いでいる。


 この雰囲気を味合わないでスス村は語れないだろう。


 モーザも家族旅行で来たことはあるようだが、まだ酒を飲まない頃だったようであまり屋台で楽しんだ記憶は無いようだ。席を確保すると、キラキラした顔で屋台を回りつまみを買っている。広場の真ん中にテーブルと椅子が並んで設置してあり、店はその周りをぐるっと囲むように並んでいる。ショッピングモールのフードコートの様な物をイメージしてもらえば分かると思う。


 テーブルと椅子は、スス村の商業ギルドが準備してあるようで、このビアガーデン形態のシステム自体が商業ギルドの会員達で開催されているようだ。


 焼きそばのような……いや、もう焼きそばと言って良いな。どちらかというと東南アジア的な香辛料の強い焼きそばをズズズとすする。そして、グビグビとエールを煽る。


「プハー! 冷えてれば最高だがこれはこれで良いな」

「お前ほんと旨そうに飲むな」

「一度泥酔の時に殺されかけたことがあったからな、ベロンベロンに成るまでは飲まないけどよ。一杯くらいは許されるかなってさ」

「まあ、程々にしておけ。酔いつぶれたら宿まで運ぶの俺なんだからな」

「ふふ、お前より先に酔いつぶれることはまず無いから安心しろ、むしろ運んでやるぜ」

「……ん? 誰が先に酔いつぶれるって?」

「おや? なかなか自信家ですね。モーザ君」


 ――――


 ―――


 ――


 ―




 カラーン! カラーン!


 ……ん……教会の鐘が嫌にデカイ音で鳴ってるな……? あまり馴染みのない鐘の音だ。


 目を覚ますと、そこは広場でした。


 辺りには、モーザを始め沢山のドワーフたちが寝転がっている。なんだ?


「ん……ん!?」


 モーザも目を覚ましボゲーと辺りを見回している。


「あー。モーザ君。これは?」

「うう……お前っ覚えてないのか? 頭痛え。ガンガンする」


 えーと。モーザが煽ってきて、なんとなく飲み比べみたいに成って。うん。それを見ていたドワーフたちもなんか盛り上がって来て……後は……なんだっけ?


 記憶がございません。


 鐘の音に何人かのドワーフたちが目を覚まし動き出す。酔いつぶれるまで飲んでるくせにドワーフってのはタフだな。ンーと伸びて首をコキコキさせながら普通に動き出す。どのドワーフも何故か親しげに俺に話しかけてくる。


「おう。兄ちゃん! 楽しかったなあ。こんなただ酒なら毎晩頂きてえな!」


 ん? ただ酒?


「いやあ、いっぱいゴチに成っちまったなあ。またやろうぜ!」


 ん? ゴチ?


 困惑していると、屋台を片付けていたおじちゃんが笑顔で話しかけてきた。


「兄ちゃん、だいぶ稼がせて貰っちまったなあ。若いのに結構名のある冒険者なのかい?」


 ん? 稼がせて?



 見ていたモーザが呆れたようにコチラを見てる。覚えてるのか?


「お前、ホントに記憶ねえのかよ」



 何でも盛り上がり過ぎた俺が、「今日は俺のおごりだ!」と広場中のドワーフたちに酒をおごり始めたらしい。なんじゃそれ……首から下げた革袋を見ると金貨は5枚入れてあったはずだが……銀貨と銅貨だけになってる。お前らどんだけ飲んだんだよ。ていうか俺どんだけ飲ませたんだよ……勝新じゃねえかまるで。



 広場では、帰ってこない旦那を迎えに来た奥さんに怒鳴られ引きずられるように帰ってくドワーフや、肩を組み大声で歌を歌いまだ酒を出してくれる店を探すドワーフ達で混沌としている。俺とモーザはとりあえず、ちゃんと休もうとホテルに向かった。


「失敗したな、モーザ」

「お前が。だぞ」

「まあ、楽しかったからっ!」

「……記憶ねえくせに」


 モーザは二日酔いで今日はちょっと厳しそうだ。ふらふらとベッドに入り込み再び眠りにつく。可愛いもんだ。俺も、だいぶ遅くまで飲んでいてあまり寝ていないと思うのだが、なんか身体も頭もスッキリしてるんだよな。<強回復>なのかなあ。



 ……うん。全然眠くねぇ。


 しばし悩み、道中考えていたことをやろうと次元鞄からブランクオーブを1つ取り出した。


 自分の意志で発動させるアクティブスキルならここに込める感覚は解るんだけどなあ。パッシブスキルは常時発動してるからブランクオーブにスキルを吸わせる感覚がわからんな。


 まずはお目当てのスキルを……あれ?


 なるほど。コレか。なんか変なスキルが生えてる。


 <良き眠り>


 そう言えばここんところ寝起きが超快適で、快適すぎでアレ? って思ってたんだよな。<強回復>の影響かと勝手に考えていたんだが……これはコレで便利なのだが。まどろみの中でウダウダと布団でダラダラするのが割と好きだったからなあ。いつも目覚めはスッキリというのは少々残念な気もする。


 まあ、生えたのはしょうがない。ああ、あった。<魔力操作>。レベル2に成ってるのか少し大きくなってるが、吸ったらレベル1の分だけでも残るのかな?


 オーブを片手に意識を<魔力操作>に集中させる。


 う~ん。ぬううう。えいや!



 感覚がつかめないまま色々試してると頭の中のスキルが動かせるような感じがするのに気がつく。あれ、この感覚もしかしたらパッシブスキルもスイッチを切ったりは出来るのかもしれない。


 ……うん。切れるな。そして再びスイッチを入れることも出来る。なるほど。これなら<良き眠り>もゆっくり寝たい時はスイッチを切れば良いのか。便利なのかよくわからんが。その感覚のままスキルを……



「おお~ オーブに移せた!」


 塊ごと消えてしまったが致し方ない。コレを割れないように革袋に入れて次元鞄にしまいこんだ。



 ※勝新:昭和を代表する名俳優の勝新太郎の愛称。代表作「座頭市」 自身の監督する映画の殺陣に真剣持ち込んで死傷者が出たり、夜の繁華街での豪快なおごりでならしたり、麻薬をパンツに隠してて捕まって「知らない内に入っていた。もうパンツは履かねえ」などと宣う。伝説多き人。

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