第136話 スス村のダンジョン 3
次の日は鐘のなる時間にはすでにダンジョンに潜っていた。
昨日アレだけ盛り上がっていた入口付近の野営地もすでに人の姿がなくみな散り散りに狩りに向かっているようだ。確かにあんな感じで皆ダンジョン内で野営をしていれば宿泊客も減るし、入山料も売上が減るんだろう。パスでの割引は妥当なのかもしれない。
ただ。温泉を楽しむのも1つの目的であるわけで。俺たちはそれをやることは無い。
表層から2層部分と言われる辺りまでしかアーススライムは出ないようで、そこを過ぎるとパワープレイをするドワーフたちの姿は格段に減る。それでも冒険者達は奥にも居るのだが。
魔力斬と一括で言っているが、モーザが言うには俺達のやってるような自分の魔力を流し込むやり方が一般的ではあるが、魔法使いによる<エンチャント>で一時的に剣に魔力を付与したり、魔力を増幅したりもともと備わっているようなアーティファクト的な武器も世の中にはあるという。
因みに折れにくい裕也製の剣を使っているからこんな硬い魔物での魔力斬の練習が出来るのであって、剣を大量に駄目にするリスクが有るので一般的じゃないようだ。モーザもある程度魔力が込められるからここでやっていけるが、そうじゃなければ現実的な狩場にはならないんだろう。
だからここに居るのは、ある程度魔力斬の心得があったり、もともと鈍器をメインとする冒険者やドワーフたちがほとんどだ。
……あれ? 人っ子一人居ない入口付近の広場をなんとなく寂しい気持ちで眺めて居ると新たな疑問が湧く。
よくよく考えるとダンジョンに夜が来るっておかしくねえか? だってダンジョンだろ? 太陽が登るわけでもないし……。
「そりゃ、日が沈めば暗くなるだろ?」
おや? モーザは当たり前のように言う。
「イヤだけど、ダンジョンの中なんて陽の光がねえんだから関係ないだろ?」
「日が沈めば、太陽からの魔力だって途絶えるだろ?」
「へ? ダンジョンも太陽の魔力を使って明るさを出してるのか?」
「そりゃそうだろ。日の出と日の入りを知らせる魔道具だってあるじゃねえか」
……なるほど。そう言われればそうなんだが。ダンジョンのエネルギーって独立採算制だと思ってたわ。また1つ利口になりましたな。
少し深部に行くと、ストーンドールやアーススライムが出てこなく成る。その代わりに出てくるのがマウントマンバと言う蛇の魔物だ。実はこれも人気の魔物らしく、確率は低いが<毒耐性>のオーブを落とすのだ。これを狙う冒険者も多くいるらしい。ただここ迄来ると魔法を使ってくるロックドールが出てくるので、小遣い稼ぎの若者や、ドワーフたちが居なくなる理由に成る。
<毒耐性>のオーブは毒殺を恐れるような貴族に良い値で売れるということで、人気の理由は理解しやすい。
ということでこの辺りも魔物とのエンカウント率がやや下がるためもっと奥に進む。4層5層の辺りになればストーンゴーレム等も現れるようになりグッと難易度は上がる。
「うちらの魔力斬でいけるかな? ゴーレム」
「ストーンゴーレムくらいならいけないと駄目だろう。やってやるさ」
ガツィイン!
「ぐぅ!」
モーザの突きはストーンゴーレムに刺さるがそこまで深くは貫けないようだ。額の魔石はむき出しにはなっているものの反射的に防ごうとするようで防ごうとする腕を貫通するに至らない。もう少し魔力が必要か。一方俺の方はなんとかなっていた。<上魔質>のおかげか、<魔力操作>が無くても粘性を感じる魔力が霧散しにくいように感じる。
それでも必死に魔力を込めてやっと斬れるという感じもするがここに来て<上魔質>の恩恵に助けられている。
モーザの方もロックドールまでは上手く行っていたためやや魔力の込め方が荒くなっていたのを反省し、丁寧にやっている。しばらく狩りを続けているとなんとか同じ部分への2連突きをすることで防御する腕を貫通しストーンゴーレムを倒すことが出来るようになってきた。しかし魔力の消費はやや多くなり、疲れを見せる。
「はぁ、はぁ。しんどいな」
「同じ場所に即座に2連で突きを当てれるだけでもすげえよ」
「これも<操体>のおかげだな」
「……ん? まじで? いつの間に?」
「思う以上に2連で同じ場所を突けるもんだから、さっき確認したらあったんだ」
「まじかあ、くっそ。良いなあ」
そう、<操体>発生の訓練法を見出したのは俺なのに、なぜモーザが先に……だけど<魔力操作>は負けねえ。絶対に先に覚える。
そしてここのボスはボルケーノバイソンと呼ばれる魔物だ。動物系の魔物なので感覚的にドールやゴーレムより切りやすい気がする。ただこのダンジョンはボス部屋が無いため、散発的に深層の5層に当たる部分のどこかにランダムで出現する。
このボスもボスの特徴なのかドロップ品が良いものが落ちる確率が高く、それを狙っての冒険者もまたこの辺りには散見される。ただ。ボスを確実にやれるにはDランクでもそれなりに上位かCランク相当のパーティーで無いと厳しいようで、その数はそこまで多いわけじゃない。運が良ければそれなりにエンカウントするはずだ。
ボルケーノバイソンがドロップするのは金などの比較的レアな鉱石や、<剛力>のオーブだ。オーブが落ちる率はそれでもそこまで高いわけじゃなく、ボス自体もボス部屋に確実に居るわけでは無いのでリスクはかなり高く感じる。
それにしても<剛力>か……アジルが持っていたオーブもここ産のオーブなんだろうなと考えると感慨深い。
地図を見ながら、モーザにもここら辺からボスが出現するから常に警戒するように言う。まあ地図ではきっちりした場所は分かりづらいんだが、なんとなく層の境界を超えた時微妙な違和感を感じるんだ、魔素の濃さでも変わるのだろうか。
「流石に俺は牽制メインになりそうだな。俺に注意を向けさせるからショーゴが横から殺ってくれ」
「美味しいところ貰っちまって悪いな」
「まあどこから来るか分からねえから一応の予定だな」
そのままゆっくりと辺りを散策する。ゴーレムやマウントマンバを倒しながら周回していると先の方で戦う音が聞こえた。
「ん? ちょっと音が違くね?」
「ゴーレムっぽくないな」
「見てみるか」
音の方に向かうと、冒険者のパーティーがでかいバッファローの様な魔物と戦っていた。
「おお。あれか。迫力あるな」
間違いなくボルケーノバイソンだろう。バイソンは2つの角に火を纏わせてパーティーに突っ込んでいく。冒険者たちも慣れたものでタンク役の男がタワーシールドを斜めに受け突進をいなす。そこにアタッカー役の男が横から斬りかかり、魔法使いが氷魔法で氷柱の様な物を当てる。
確かに火の系統の魔物なら氷魔法の魔法使いなら相性は良さそうだな。見ている内にあっという間にボルケーノバイソンが倒れる。見事だな……まったく危なげない。
戦闘が終わるとドロップ品を回収しながらタンク役の冒険者がこっちを向いて話しかけてきた。
「そこの冒険者。何か用か?」
え? 女性?
紛れもなく女性の耳心地の良い澄んだ声だった。
※メモ代わりに。
ショーゴ ヨコタ
レベル 23
スキル
アクティブ <剛力> <魔弾>
パッシブ <言語理解><極限集中><根性><頑丈(Lv2)><直感><逆境><俊敏><強回復(Lv3)><魔力視><速視><上魔質><体幹><良き眠り>
魔法 <ノイズ><光源><光束><ラウドボイス>
モーザ
レベル31
スキル
アクティブ <硬皮>
パッシブ <俊敏><動作予測><操体>
魔法 <ノイズ> <センシティブ>
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