第137話 スス村のダンジョン 4

 何か用か? と問う声は警戒心を隠そうともせず、振り向いたタンク役の女性の視線も冷めた感じだった。


 うわ。なんかこの敵意むき出しの感じじゃね? ここで冒険者狩りする悪いやつとか出るって話は聞いてないけどな。ダンジョンだと割とあるのだろうか。


「いやぁ。初めてボスに挑戦しようと思って。ちょうど戦っている方が居たので参考にと……」

「……」

「いや、ホントですって。な、なあ?」

「お、おう」


 モーザも若干引き気味だ。こんな世界で冒険者をやっている女性だ。恐らく男に負けないと言う気持ちが敵愾心にまで発展しちゃっている感じなのだろうか。だが、やっぱりキレイな女性には良く思われたいと言うのが男性としてはある……いや。美人に冷めた目で見下されるのも悪くは――ゲフンゲフン。


「もう、パシャったらまたそんな怖い顔して。まだ若い子じゃない。可愛そうよ」


 アタッカーを務めていた女性がタンクの女性に話しかける。


「冒険者の強さは年齢とは関係ないだろ」

「そうだけど2人とも……ねえ。黒目黒髪の子よ? 幾らなんでも警戒し過ぎよ」

「……そうだな。悪かった」


 お、おう。黒目黒髪に救われた感じか? 微妙だなおい。


「いえいえ。大丈夫です僕らもボケーッと不躾に眺めてたのも悪いんだし、なあ?」

「お、おう」


 ん? モーザは女性の耐性が無いのか? まあキレイな感じだもんな。てかあれ? このアタッカーの子獣人じゃん。珍しいな。


「ここら辺で女性のパーティーって珍しいですね。地元の方ではないんですか?」

「あれ? そういう事は貴方も? そう。王都から来たのよ。辺境じゃ女性だけのパーティーって珍しいみたいでね、ここに来てしょっちゅう絡まれてパシャも大分ピリピリしちゃってるのよ。ごめんね」


 今度は獣人の女性が対応してくれる。きっとこの子は明るくて優しい感じなんだろうな。


「僕たちはゲネブから来たので一応地元の人間ですが、冒険者ギルドに所属しているわけじゃないので、ここも初めてきたので、知らない人がいっぱいなんですよ」

「へえ~。冒険者じゃないのにダンジョンに潜っているんだ」

「冒険者ギルドは黒目黒髪が入りにくい感じがありましてね。まあ一度は所属したんですがやめて個人で好きにやってます」

「変わっているわね」


 彼女たちは王都の冒険者で、所属するグループの強化のために<剛力>を求めてここまで来たようだ。ノルマが5個以上という事らしく、半月以上ここに籠もってまだ1つしか出ていないと愚痴っていた。


 ふむ。王都の冒険者で、女性が所属するグループ……間違いなくあれだな。


「じゃあ、お姉さんたちはあのアルストロメリアの人なんですか?」

「お! おおお! こんな辺境でもアルストロメリアを知っているのねっ! そうよ私達はそこの一員なの。まあエルメはゲネブの出身だけどね」

「パンテールさんは有名ですもんね」


 以前みつ子がアルストロメリアに所属している話をした時、エルフの集落に一緒に同行した警護団のロンドさんがパンテールと言う大物の冒険者が立ち上げたユニオンだという話をしていたのを思い出した。みつ子もパンテールに拾われたって言ってたしな。


 みつ子の事も知ってるのかな? ああ、でもあんま色々聞くのも怪しいか。


 すると話を聞いていたモーザが反応する。


「エルメって、あのエルメか?」

「ん? モーザ知ってるの?」

「俺と同年代に天才と言われる魔術師が居てな、確か王都の王立学院に行ったと聞いたが、驚いたな。冒険者に成っていたのか」


 話を聞いていたエルメと言われた魔法使いは無表情のまま答える。


「冒険者だけど問題ある?」

「いや、でも王立学院まで出たら、なんだってなれるだろ?」

「そう。だから冒険者になった」

「そうだろうけど……」


 なりたくても警備団に入れなかったモーザには分からない感覚だろうな。きっとこの子は国に仕えるようなかっちりした仕事より、自由な冒険者が自分に向いていると考えたのだろう。


 なおもなにか言いたげなモーザを一瞥すると、エルメは仲間に「次行こう」と声をかけて離れていく。まあ、ここら辺が潮時だろうな。俺たちも狩りをするために別の方向に向かった。


「そんな凄かったのか? あの魔法使い」

「面識があったわけじゃないから良くは分からないが、当時はそれなりに有名だったな。同い年なだけにまあ、色々と比べられたりしたさ」

「そうか……まあ似たような世界でやってるんだ。同じ土俵で負けなければ良いじゃねえか」

「あ? いや別に対抗しようとか思ってねえよ」

「うん、まあそうか」

「ただ、俺があいつの立場だったら親を悩ませたりしないんだろうなってな」

「そんなの子供が考える必要ねえんだよ。親が子供のことで悩むのはそれはそれで幸せなんだぞ?」

「……お前たまに妙にませたこと言うな」

「あー。天才だからな」


 ボスは倒されてから1時間から2時間程の間に再び湧くと言う事でその間ゴーレムなどを探して狩っていく。最初は少し気持ちが入らない感じだったモーザもしばらくすると吹っ切れたように狩りに熱中しだす。


「なかなか遭遇できねえな」


 フロアの一層分とはいえ、それなりに広さはある。しかも平坦な訳ではなく所々に丘のような感じで起伏があり、石柱も所々に立っているため遠くが見通せない。他の場所に湧いてそれを他の冒険者達がやっつけていればなかなか巡り会えない。


 しばらく狩りを続けていると小腹が空いてきたので軽く食事を摂ることにする。食事と言っても簡単な行動食だが。


「今度ホテルにお弁当作ってもらえるか聞いてみるか」

「そうだな。流石に毎日これは味気ないな」



 ブルルルルルッ



 ん? 


 音の方を向くと、丘の上でデカイ水牛みたいなのがこっちを見て唸っていた。


「げっ モーザ居たっ。居たぞっ!」

「おおおう。槍、槍は……」


 慌てて2人とも武器を持ちボスに向かう。


 と同時にボルケーノバイソンは大きく唸声を上げる。頭の上の2本の角が真っ赤な灼熱色に染まる。そのまま頭を低く下げ角を燃やしながら突っ込んできた。


 ボルケーノバイソンの突撃にモーザが左に避けながら突きを加える。俺は右に避けながら斬撃を放つ。


「ぐっ! あつっ!」


 遠くからアルストロメリアの冒険者達が狩っている時には解らなかったが斬りつけようと近づくだけで結構な熱気に煽られる。コレを平然と盾で受けてたのかあのタンク。


 モーザはある程度距離の取れる槍だからあまり気にしている感じは無いが、流石にそこまで深く刺さらないようで苦労している。


「ショーゴ、こいつノイズが効果ねえのかな。あまり反応がない」


 お、また忘れてた。獣系ならノイズは効きそうだもんな。そういうのモーザソツがない。


「よし、俺のハイパーノイズでやってみる。スキを見せたら一気にいけよ」


 <ノイズ><ラウドボイス>を全力で掛ける。バイソンは流石に効いたのかブロロロと嫌そうに呻く。そこにモーザの全力の突きが左目を貫いた。


「よしっ――うわっ!」


 左目を貫かれたバイソンはその痛みに反射的に首を思いっきり振る。刺さったままの槍が振られた角に引っかかり柄がボキリっと折れた。不味い。


 フンッ


 俺は全力で剣に魔力を流し込みながら首のあたりを斬りつける。しかし剣はバイソンの太い首を切り落とせずに半ばで止まる。再びバイソンが首を振ってくるので逆らわずに剣を手放す。


 次元鞄からミスリル混じりの剣を取り出しスラリと抜き放つ。


「厄介だなこいつ」

「そりゃボスだからなっ」


 バイソンは先程の一撃で既に死に体だ。急がず。慌てず。剣に魔力をたっぷり流し……。バイソンの右側に移動しながら剣を八相の位置に振り上げ。振り下ろす。


 ズバンッ!


 おし、ミスリル混じりの方なら一気に首を落とせるな。

 槍を一本折られてしまったが、一応はやれた。新しい槍を買わないといけねえか。


 ドロップ品は、何か良く分からない金属だ。レアメタルだろうか。ドロップ品を拾ってるとモーザは折れた槍の柄をじっと見つめていた。


「ああ……まあしょうがねえよ。ボーンズさんの遺品が折れたのはショックだろうけど」

「オヤジは死んじゃいねえよっ!」

「お、おお。そうだった」

「こいつが首をふるのは俺も予測は出来たんだ。でもそのまま折られた」

「うん、まあ反射的な動きだったし仕方ねえよ」

「でもお前は逆らわずに剣を手放した」

「うん……まあそうだな」

「くっそ。なんか、見せつけられた様で悔しいな」

「……」


 そうだな。年齢も俺より2つくらい上ってなってるし。プライドがあるんだろう。


 2人で強くなろうぜ。

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