第138話 スス村のダンジョン 5

「モーザは剣使えるか?」

「ああ、一応は使える。槍ほど慣れてないけど」


 とりあえず持っていたミスリル混じりの剣の方を渡す。槍は折れたのが柄の部分だけなので柄だけ付け替えてもらえればまだ使えるらしい。武器屋が開いている内に戻りたいので今日はこのまま入り口を目指す。


 途中見ていると、剣でも普通に戦えている。特に武器がミスリル混じりの方だからな。初めは片刃に戸惑ってる感じは有ったが、サクサクと切り捨てていく。


「なんだこの剣……すげえな」

「金属にミスリルを混ぜ込んで魔力の通りを良くしてるらしい、ほら、スティーブ達を特訓しに連れて行った裕也が打ったんだ」

「流石だな。名前は聞いていたが、かなりの業物だな」


 なんとなく裕也を褒められると嬉しいかもな。そのうちモーザの槍も頼むのもありか。ただモーザの槍もそれなりに良いものだと聞いているから本人が希望すればだな。




 ダンジョンから出ると、すぐに武器屋に向かう。以前フェニード狩りに来た時にパンクが槍を買った店だ。武器の修理は鍛冶屋なのかとも思ったが良くわからないので直接武器屋に聞いたほうが早そうかなと。


「ううむ。確かに穂先はまだまだ使えるな。ぬ。ラドゥーの打った槍か。良いの使ってるじゃねえか。坊主」

「オヤジが買ってくれたものだけどな。どうだ? すぐに治りそうか?」

「柄を付け替えるだけだから直ぐにできるが……ただ先がだいぶ刃こぼれしてるぞ。ダンジョンで使うなら少し直したほうが良いと思うが」


 まあ、魔力を込めても石を突いている訳だしな。そりゃあ刃が痛むか。柄の材料は金属とかの方が折れないんじゃね? なんて軽く聞くと、木のほうが魔力を自然に通すからミスリルなんかじゃない限り普通金属を使うことは無いと言われる。それに重すぎるとも。


 柄の取り付けと修理で鍛冶屋に出すということで、明日の夕方くらいの出来上がりになるようだ。モーザの槍はスス村じゃそれなりに名の通った鍛冶師が打ったものらしく。武器屋のオヤジも取引はあるということでその鍛冶屋に直接依頼するようだ。


 10日パスも買ったことだし、ダンジョンに潜るのを辞めるつもりも無いため、代わりの槍を買うことにした。今までのが戻ってきても予備の槍はあった方が良いだろう。


 予備と言っても、古い槍が修理から戻ってくるまで俺達の命にも関わるしそれなりに良いものを買いたい。修理が終われば予備にするということで次元鞄に入るギリギリの長さの槍を見繕う。いわゆる短槍と言われるサイズらしいがあまり種類が無くモーザも悩む。


「次元鞄に入るサイズなら良いんだろ?」

「まあそうだけど」

「じゃあ、好きな槍を選べば丁度いい長さで柄を切ってやるぞ」


 なるほど、そういうやり方もあるのか。


 結局モーザは少し刃渡りの長めの槍を柄の長さを1.5mくらいに調節してもらって購入した。短くなる分薙ぎ払う事も多くなりそうだというのが理由だった。財布を開こうとするモーザに金は会社持ちだと言う。


「いや、使うのは俺だし自分で払うぞ」

「そこは経費で買うから、一応お前ら固定給なんだからそんなの気にするな」

「そうか? じゃあ甘えさせてもらう」


 固定給って言ってもレア物ドロップとかしたらボーナスはあるからね。




 買い物も終わると、今日はもうダンジョンはやめて屋台で食事を取って早めに寝ることにした。酒はふたりとも乾杯のエール一杯だけという約束だ。


 初日に俺が豪快におごりまくったのを覚えてるドワーフたちがチラチラと今日はあまり飲まないのかと様子を探ってる感があったが。一杯だけの約束だからな。今日は止めておきますよなんて言いながら早々にホテルに戻る。


 フロントで明日のお弁当的なものを作れるか聞くと大丈夫だということでお願いして早めに寝ることにする。明日は武器屋が閉まる前に修理に出した槍を取りに行かないとならないので、スタートも早めにしようと目覚ましの魔道具をセットして寝た。



 次の日。

 日の出後の早朝にも関わらずホテルはきっちりとサンドイッチの様なものを用意してくれた。ホテルのレストランで朝食を取っていると、昨日ダンジョンで会ったアルストロメリアの3人が入ってきた。


「あら? あなた達もこのホテルだったのね」

「おはようございます。昨日はどうも」

「おはよう、あなた達若いくせに何気に収入あるのね」

「ははは。がんばってますので」


 レストランでは兜的な防具を付けていないので、獣人の子の耳まで確認できた。猫かな? うん猫だな。


「ん? 何? 私の美しさに見とれちゃった? 人間のくせに見る目あるわね」

「ははは。すいません。まったくもって美しいですよ。僕、猫の獣人さんと会ったのが初めてでしたので」

「は? 何言ってるの? 虎よっ! どう見ても虎族じゃないっ!」

「あ。虎でしたか。道理でお強いわけで」

「え? う、うん。そうね。分かっているじゃない」


 いや、分からねえって。顔の皮膚などにも短い産毛みたいなのが多いから獣人というのはわかるが、割と人間に近い。

 種族的なのは耳やしっぽで判断する感じなんだろうか。それとも白人の人から見てアジア人がみんな似たような顔に見えるらしいが、アジア人同士は割と違いがわかるように、獣人同士だときっちり違いが感じられるのだろうか。



 先に食事を終えた俺達は、とっととダンジョンに向かう。なんとなくモーザがエルメを意識してるしな。


 一応どちらかが<魔力操作>を覚えるまではこのフロアで頑張るつもりだが、それまでに1つくらいは<剛力>をゲットしたいなと思っている。もちろんサクラ商事のメンバー全員分のオーブが集まればそれに越したことは無いのだが、話を聞いている限り厳しいだろう。


 5層の部分に行くまでに見ていると昨日買った槍は問題なさそうだ。モーザも新しい武器を楽しみながら色々試しているようだ。


 夕方までに3匹ほどボルケーノバイソンと遭遇するが、特に問題なく倒せた。こいつは見た目と攻撃力は凄いんだろうけど、何気に火をまとった突進くらいしかしてこないので攻撃が通じるのなら倒すのはそう難しくはない。


 俺は1つレベルを上げ、ドロップは金属の塊の様なものが1つ。溶岩石のような物を2つ拾った。

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