第139話 スス村のダンジョン 6

 次の日も、また次の日もひたすら5層あたりを彷徨う。見ているとボルケーノバイソンを狙うパーティは、俺たちも含め5つ程あるようだ。ほぼ取り合いだが、お互いに干渉せずが不文律としてあるようでかち合ったりはしない。


 ボスとの遭遇はかなり運の要素が強いようで、さらにドロップ品の運もと考えると微妙だが、王都からアルストロメリアの冒険者がわざわざ<剛力>を得に来るくらいだから、オーブを得る難易度はそこまで高くないのかもしれない。



「今日はなかなか遭遇出来ねえな」


 ゴーレムが倒れたあと、落ちてる魔石を拾いながらポツリと呟く。


「そんな日もあるだろ」

「大人だなあ」

「特訓は出来てるからな、一応満足してる」


 オーバーホールを終えた槍の使い心地が随分良いらしく、モーザは調子がいい。柄も今までのより魔力伝達が良いグレードの高い物にしたため大分やりやすいようだ。俺のような剣使いと違って槍先までの距離がある分、柄部分の魔力のロスの減少が結構効いてくるらしい。


 朝から一匹しか遭遇しないままそろそろ夕方と言う時間か? などと考えているとようやく牛の嘶きが聞こえる。


「よし、急ぐぞ!」


 声の方に向かい走ると、ボルケーノバイソンと横にゴーレムが居る。


 げ。かぶってる。


 しかし魔物を挟んで遠くの方から走ってくるパーティーの姿も見える。だがボルケーノバイソンの位置はだいぶ俺たち寄りだ。ダンジョンマナー的には先に攻撃を加えたほうが優先権が有るはずだ。よし。距離的に間違いなく取れる。<剛力>で脚力を増し、一気に――。


 バシュッ!!!


 へ?


 バシュッ!バシュッ!


 遠くから来たパーティーの1人が氷柱をボルケーノバイソンに数発放つ。怒りに燃えるボルケーノバイソンが、ゴーレムを引き連れ向こうのパーティーめがけて走っていく。


 ……


 ぬう。


「おい、モーザ。アレはマナーとしてどうなんだ?」

「遠距離攻撃か、難しいところだな」

「あれ、アルストロメリアだろ? 感じ悪いな」

「まあな」


 なんかすげえムカつく。カッペムカつく!


 結局その日は、その後ボス戦をすること無くホテルに戻った。なんか、イライラしてしょうがないので、ちょっとだけ屋台で飲み。風呂に入って寝る。


 モーザは日課の座禅に勤しんでいたが、俺はふて寝だ。



 スス村のダンジョンに籠もり始めて6日経つ。そろそろ<魔力操作>が現れて欲しい所だ。前にウーノ村のダンジョンの時はそのくらいで生えた様な気がする。モーザもまだ出てないらしいが。だんだん魔力の纏まりは良くなってきてるような事を言っている。


 この日、いつものように5層部分に向かって走っていると、途中に現れたマウントマンバを倒すした後に玉虫色の玉が転がった。


 ……お。おおお。


 たしか、こいつは<毒耐性>を持ってるって言ってたな。そするとこれはまさしくそれか。ラッキー……なんだが、やっぱここは<剛力>の方が欲しかったなあ。致し方ない。バイオリズムが上がってきていると考えることにしよう。



 やはりバイオリズム向上中かもしれない。5層範囲に入ってすぐにボルケーノバイソンと遭遇する。戦闘終了後にモーザが突然声を上げる。


「おおお、来たぞ!」

「な、何? <魔力操作>か???」

「いや、レベルが上った。結構久しぶりな気がするから嬉しくてな」

「なんだよ、驚かすなよ」

「ふふ、<魔力操作>もそろそろだぜ」



 やはり今日の運気は良い。1時間後に再びボルケーノバイソンに出会う。


「あれ? なんかあいついつものより魔力が濃い気がする」

「ん? まあある程度ボスのレベルにもムラはあるんじゃないか?」

「そうか、まあ気をつけよう」


 いつものように正面からモーザがチクチクと攻撃をしかけ、バイソンがモーザに意識を持っていかれるタイミングで俺がバイソンの横から……ちょっと魔力量が多そうな個体だからな。出来る限り全力で……


 ズバンッ!!


 お? 予想以上に軽く振り切れる。ボルケーノバイソンのぶっとい首が一発で切り落とせる。


 ……まさか。


 慌てて調べると、やはり生えていた。<魔力操作>が。しかもいきなりレベル2だ。復活時は前のレベルで戻るのか? モーザもびっくりしてこちらを見る。


「おう、モーザ君」

「ま、まさか……」

「来ましたよ。<魔力操作>。復活です!」

「お、おい見ろよ」

「え? ていうか見ただろ? 俺の復活の一撃」

「いや、そんな事より」

「そんな事って何よ!!!」

「オーブが落ちてる」

「へ?」


 ……お。おお。来たな! <剛力>! あ、でも俺の<魔力操作>も……


 しかし、モーザは俺の話を聞いちゃいない。


「これ、俺使っていいんだっけ?」

「あ、ああ。それより俺さ、今――」

「よし、割るぞっ!」

「うん。割っていいけど、俺今さ――」

「おおお。来た来た<剛力>!」


 ……こいつワザとか? なんか嬉しそうに<剛力>発動させて高くジャンプしたりしている。


「モーザ、<剛力>は割と燃費悪いから気をつけろよ。あまりやってるとすぐ魔力枯渇するから」

「ああ、分かってる。よし。後は俺の<魔力操作>だな」


 予定通り俺が復活させたので<魔力操作>のオーブを渡そうとすると、モーザが拒否してきた。もうじき覚えるからと。裕也組で<魔力操作>を覚えられない生徒も居るかも知れないから取っておこうと。


 こいつ、俺の<魔力操作>復活分かってスルーしやがったな。

 正直もっと褒めてもらいたかったぜ。


 とりあえず今日はこのフロアで、増強した能力を試し下の層には明日から行くことにした。


 それでも今日の運気は最高でしたよ。昨日のむしゃくしゃを吹き飛ばすくらいに。この日はその後2度もボルケーノバイソンを倒すことが出来たし。そしてなんとモーザも<魔力操作>を生やすことに成功した。


 もうちょっと俺の復活が遅かったらすげえ上から目線でドヤ顔をされたと思えば、これで良いに違いない。


 暗くなる頃までダンジョンを駆け回り、ホテルに戻った。

 明日の6層以降の予定を少し相談して、今日は早く眠りについた。

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