第140話 スス村のダンジョン 7


 スス村のダンジョンは17層に渡るが、フロア的には1~5層、6~10層、11~15層、16~17層の4フロアになる。層が深くなればなるほど自然に魔物の強さは上がる。


 今日行く予定の6~10層は、そこまで強さが跳ね上がるわけじゃないようだが、キラーアントと呼ばれる蟻の魔物がしばし群れになって襲いかかってくるため危険度は上がる。ボスはバジリスクと呼ばれる大きなトカゲのような魔物らしい。


 特筆すべきは、10階から11階に降りる部分に転移スポットがあるということで、そこから一気に入り口の少し広い空間に転移できる。しかし逆の転移は行えない。


 が


 このフロアのボスであるバジリスクが「転移スクロール」というのをドロップする。ダンジョン内でこれを使用することで、10階の転移スポットに転移することが出来るのだ。ただこれは1人の人間が転移するのに1つ必要らしく。俺達の場合2つ必要になる。しかも一度しか使えないものなので何度かバジリスクを倒して数を用意する必要がある。


 もちろん。スス村の雑貨屋や、パスを買った案内所のような場所でも購入は可能だが割と良い値段をするため購入しての使用はあまり考えていない。



 俺とモーザは駆け足で5層まで飛ばす。一応魔力は温存しようと<剛力>は無しで走る。


 6階へ降りる階段は5層の最奥にある。道中は特にボルケーノバイソンなどに遭うこともなく階段までたどり着いた。


「はぁ。はぁ。はぁ、ちょっと頑張っちまったな」

「はぁ。はぁ。全然問題ない」


 強がりだなモーザは。とりあえず、降りる前に息を整える。流石にハアハア言いながら初めての層に降りていく度胸はない。しばらくして落ち着くとモーザが聞いてくる。


「降りる前に<センス>かけるか?」

「いや、俺は大丈夫だと思う。知覚増加しなくても<速視>もあるからな、普通の敵なら問題ないだろう。モーザは一応自分に掛けときなよ」

「わかった」


 <センス>はバフと言われる魔法の1つで、知覚的なものを一時的に上昇させてくれる。攻撃力が上がったり防御が上がるわけじゃないのだが、その効果はなかなか魅力的だ。しかし、まだそこまで使わないでも良いんじゃないかなと思ってる。


 少しワクワクしながら階段を降りていく。薄暗い階段を降りきると再び広いフロアが見える。上のフロアとはあまり変わらない感じか。ゴツゴツとした岩だらけのフロアだ。ただ起伏はこっちのほうが大きいか。石柱以外にも、視界を遮る大きい岩なども多い気がする。

 そんな中、向こうの方から冒険者のパーティーが走ってくるのが見えた。


 大量の蟻を引き連れて。


「げ、すげートレインだな」

「トレイン? まあフロアの階段までくれば魔物が追ってこないんじゃないか?」

「ていうか、1人やばくね? 足引きずってるな。モーザ行けるか?」

「問題ないぞ」


 モーザの返事を待たず俺は走り出す。逃げてくるパーティーの1人が足を引きずっており仲間が肩を貸しながら必死に走ってる。どうやらここまでは間に合わなそうだ。


 走りながら次元鞄から矢筒を取り出し背負う。弓を構えながらモーザにバフを頼む。流石に走りながらのシューティングは人を誤射りそうだ。


 バフがかかると視界が広くなっていく感覚とともに焦点が合う様うな感覚が、有る種の万能感を演出する。頭の上にりんごを乗せて射るのってロビンフットだっけ? いや。ウイリアム・テルか? そんな事も余裕でやれそうな気分になるんだ。


 ブンッ


 追いつきそうになっていたキラーアントを弓で射殺す。そのまま近そうな個体を数匹倒すと弓をしまう。その間に一気に詰めていたモーザがキラーアントの群れに突っ込んでいく。無茶をする。俺も剣を抜きモーザに続いた。


 キラーアントは外骨格の昆虫らしく硬い殻に包まれているが、石でできたストーンゴーレムを切れればそこまで問題じゃない。ただ、たまに蟻酸なのか、酸的な液体を飛ばしてくるのでそれだけは気をつけなくてはならない。これは魔法ではなくスキルの類らしく<ノイズ>でのキャンセルが出来ないため割と厄介だ。こういう攻撃の対処は俺より<動作予測>を持つモーザの方がやりやすそうだ。


 それでもやっぱりバフを掛けてもらってよかった。あらゆる知覚が増大している今は、キラーアントが飛ばしてくる酸もなんとか対応できる。


 俺たちが突っ込み、戦況が有利になっていくのを見て、逃げていた冒険者の元気なのが2人ほど戻ってきて戦列に加わる。やがて辺りにはドロップした魔石等散乱していた。


「すまん、助かった」


 リーダーらしき壮年の男が俺たちに近づき礼を言う。


「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ」

「そう言ってもらえると助かる」


 ポツポツと落ちてる魔石を拾いながら何か目ぼしいのが無いか探すが、魔石くらいしか無い。そんな事をボヤいてるとキラーアントが落とすので金になりそうなのはブランクオーブ位だと言われる。オーブを落とさないと言われる魔物もごくたまにブランクオーブは落とすらしいが、中身の入ったオーブと同じ様な確率らしく、そんな落ちることは無いらしい。


 魔石を拾い終わると、一緒に拾っていた冒険者が拾った魔石をすべて渡してくれる。せめてものお礼らしい。律儀なもんだ。ありがたく頂く。


 拾い終わると一度階段まで戻った。足を怪我した冒険者が、薬草などを塗りつけ治療をしていたが、どうやら大事は無いようだ。



 少し話をしていると、もともと彼等は上のフロアでボルケーノバイソンをメインに狩りをしていたらしいのだが、最近狩場を荒らすパーティーが居てやり難いということで下のフロアのバジリスクを狙って降りてきたらしい。その時に同じ様に魔物に追われてトレイン状態に成っていた他の冒険者のパーティーに巻き込まれたという話だが……その冒険者達は恐らく魔物に殺られてしまっただろうと言う話だった。


「ちょうど君等と同じ様な若い3人組だった。助けられなくて申し訳ないことをした」

「……若い子は無茶をすることが多いですからね。残念ですがしょうがないですよ」

「ん? 君等も十分に若いが。見た目と違ってオヤジ臭い事を言うな」

「ははは……」


 それにしても、狩場を荒らすパーティーか……思い当たりすぎて怖いわ。


「もしかして上で狩場を荒らすのって女性のパーティーですか?」

「なんだ、君等も同じくちか? 王都のアルストロメリアの人間らしいな。あっちのやり方だとアレが普通なのかもしれないが、ここは皆助け合う習慣が有るからな。まあ他所から来た人間に言ってもなかなか理解はしてもらえないのかもしれないな」


 たしかに、入り口で皆で固まって野営をして交換で番をする。そんな文化の有るダンジョンは珍しいのかもしれないな。それでもやはり命のやり取りをするダンジョンではお互いの心証を悪くするようなやり方は間違ってる気はする。


 もともとボルケーノバイソンを狙う冒険者は多く10組以上常に居る狩場らしいが、今はそのアルストロメリアが遠隔攻撃を使って他の冒険者の狙ってるボスを次々奪っていくようなやり方するため、皆狩場を変えて他所に行ってしまったようだ。


 初めに彼女たちに会った時に、タンクの女性がすごい警戒する様な対応をしてきたのは、女性だから舐められるとかより、やり方に文句を言ってくる冒険者達と揉めたりがあったりするのかもしれないな。


 ちょっとだけ、弓で同じ様に彼女たちの近くにいるボルケーノバイソンをこっそり奪ってやろうかとか考えていた自分が恥ずかしいぜ。

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