第141話 スス村のダンジョン 8
冒険者パーティーは怪我人が出ているため、一度ダンジョンから出るということで、そこで別れ俺たちは再び6層の方に向かう。
キラーアントとやった感じだが恐らく問題は無さそうだ。むしろストーンゴーレムの方が厄介かもしれない。<魔力操作>を覚えた俺たちなら魔力斬の威力も格段に上がっているためそれでも問題はないのだが。
ウーノ村のダンジョンではストーンゴーレムがボスとして出現し、結構苦戦した。その時のことを思えば、自分の成長が感じられ嬉しいもんだ。
さて、このフロアは8、9層の部分まで行くと火トカゲと呼ばれる魔物が出る。これはイメージ的にはサラマンダーなのかな? なんて思うが、恐らく火を吐く攻撃は魔法的なものだろうという予測で若干軽く見ている。
バジリスクは、ボルケーノバイソンの<剛力>程人気ではないが、<瞬動>と呼ばれる行動するときの初速度が上がるようなスキルのオーブが落ちる。とっさの反射での動きが機敏になるためスキルの枠がある冒険者は入れておきたいものの1つらしい。それでも一般的な魔物よりボスがオーブをドロップする確率は高いのでやはりボス狙いで10層部分に入り浸る冒険者が居る。
「一気に10層まで行くか」
「そうだな」
フロアの広さはほぼ1~5層と同じ感じか。途中にキラーアント等を倒しながら奥へ進んでいく。やがて火トカゲが出現し、大分奥に来たのを悟る。大型犬くらいの大きさの気持ち悪いトカゲが口を開いて火を吐いてくる。
「ノイズ効くかな」
「まあ、やってみるしかないな」
火トカゲのファイヤーブレスは、ファイヤーボールと違って持続的に火を吹いてくる。ということはノイズも持続的に与え続けないといけないのか。やや魔力効率が悪い気がするな。しかしそれ以外はそこまで脅威を感じる攻撃が有るわけでもなく、魔法を阻害されてうろたえている内にすぐに始末していくことが出来た。
「たしかに、上のボス狙いより人が多そうだな」
「普段はボルケーノバイソンの所もこのくらいは居るんだろうな」
10層部分に行くとたしかにボス狙いの冒険者パーティーがそこそこ居そうだ。なんとなく更に奥に進みつつ周りにライバルが居なそうな場所を探す。あまり動き回るのもよく無さそうで他の冒険者のテリトリーを侵さないように気を使いながら魔物を狩り時を待つ。
途中に見かけた冒険者達は水で湿らせた布のような物をかぶって火トカゲの火を防いだり、弓矢で離れたところから攻撃したりと様々だが、ファイヤーブレスの対処法にも色々有るのが興味深い。
……
……
「なかなかボス来ないなあ」
「……ああ。昨日運気使いすぎたんじゃないか?」
「そうか、昨日はついてたもんな」
「どうする?」
「どうするって?」
「温すぎじゃないか? ここは諦めて下に行くとか」
「……そうだな。まあ今日はここで、明日から下に行こうぜ」
「了解」
結局一度も遭うこと無く暗くなり始める。たしか、奥に入口まで行ける転移スポットがあるって言うが……。
探してると何パーティーかが奥の方に行くのが見えたので、恐らくそれだろうとついていく。
「すいません、この層初めてきたんですが、転移する場所ってこっちで良いんですか?」
「ああ、すぐそこだ。階段有るだろ? その脇に赤色の石があるからそれだ」
やり方は簡単らしい。赤い石の下にある石版に魔法陣のような物が刻まれたプレートがあり、そこに乗って30cm位ある赤い石に手のひらを当てて魔力を流すだけ。ちょっと怖いので他のパーティーの人達がやるのを見てから俺たちもやってみる。
「これだな。よし魔力を――」
すると目眩のようなクラッとする感覚に襲われ、気がつくと違う場所に居た。次に来るモーザと座標が重なったら怖いなとすぐにその場から離れると、今度は少し違う場所にモーザは現れた。見ているとモーザもすぐに場所を移動していたから同じようなことを考えたのだろう。
「これは楽だなあ。スクロール入手出来無かったけどまあ帰りはこれで良いんだもんな」
「ああ、ちょっと気持ち悪いけどな」
「どうしようか、転移スクロール買っちまうか?」
「日の出で起きて行けばいいんじゃねえか?」
「まあ、そうだな」
他の転移してきた冒険者パーティーはそのまま出口を出ずに階段を降りていく。入り口のあそこで野営してそのまま朝下まで降りるのかね。
次の日の朝、セットしておいた目覚ましとともに起床し。ホテルのレストランで朝食をとる。と、そこへアルストロメリアの3人が入ってきた。例の虎の獣人の子が親しげに挨拶をしてくる。
「お、おはよう。お前たち久しぶりじゃないか?」
ううむ。やはりコイツラは罪悪感とか無いんだろうな。なんかあまり相手したくない気分だぜ。
「ん? おい無視かよ。挨拶してるのにさ」
「いやね、なんか最近アルストロメリアの人たちの悪い噂が多くて、親しくしていいか分からなくてさ」
「なんだよ。お前らもか」
「お前らも?」
「魔物のとり方がルール違反だとか言ってくるのが多くてさ。こっちは戦闘してる魔物を横取りなんてしてないぜ?」
「でも、明らかに他のパーティーの近くで出現した魔物も遠くから魔法撃って奪っていくんだろ? 感じ悪いのは確かだよな?」
「だったらお前らも魔法使いをパーティーに入れれば良いだけの話だろ?」
きっとコイツラとは永遠に価値観が合わないだろうな。メンドクセ。
「ほら、言い返せねえだろ?」
「……」
「たく、辺境の連中は甘いんだよな」
やべえ。イラッとするなあ。
「辺境とか王都出身とか知らないけどさ。ダンジョンってのは常に命の危険がある中でみんなやってるんだろ? ここの連中はお互いにそれを解っていて、何かあったらお互い助け合ってやってるんだよ。場所場所のやり方ってのはあるんだから、ある程度余所者なら地元の人間にあまり迷惑かけ無いようにするもんじゃね?」
「はっ! だから田舎の冒険者は甘いんだよな」
「おいおい、甘いとか辛いとかって話じゃねえだろ?」
「じゃあ何なんだ? 田舎じゃ高ランク冒険者が少ないのだって結局そういう話じゃねえか」
うわあ。頭くるなあ。他の魔法使いのエルメとタンクのパシャは素知らぬ顔で飯を頼んでる。
「ランクの高い低いも関係ないだろ? そんなの需要の問題とかもあるんだからさ。問題は人間性の問題なんだよ。ここの連中はお前らと違って大人なんだよ。俺は人が嫌がることを平気でやって自分を正当化してるお前らの欠陥ぶりを指摘してるんだ」
「欠陥ってなんだよっ!」
「いいか? 結局これで、アルストロメリアはくだらねえ人間の集まりだってゲネブ周辺では固定されるんだよ」
「アルストロメリアは関係ないだろっ!」
「アルストロメリアの看板しょって人に迷惑かけてれば一緒だろ? そんなの見てればパンテールだってただ強いだけの下らねえ人間なんだろ?」
「貴様!」
パンテールを悪く言うと、関係なさそうにしていた2人も色めき立つ。
「おお、怒るのか?」
「当たり前だ! パンテールさんの話は否定しろっ!」
「アホか、お前らがアルストロメリアの看板を背負って辺境で地元民に迷惑をかければ、それはアルストロメリアの評判に成るのは当たり前だろ? アルストロメリアの評判が落ちればパンテールの評判も落ちるのは当たり前じゃねえか。それが組織に居る人間の責任の大きさなんだよ」
「くっ……」
「辺境でこんな事させられてるんだからお前らなんて末端のクズみたいな組織員なんだろうけどさ。ほんと。アホだよな」
「てめえ……」
「みつ子も下らねえ所に入っちまったみたいだなあ」
みつ子の名前を出すと、パシャが驚いて聞いてくる。
「なっ……お前、みつ子を知ってるのか?」
「知らねえよ、そんな事よりお前らはもっとマナーとか人の気持ちを知れっ!」
そう言い捨てると、席を立ちレストランから出ていく。イラッとして喋り過ぎちまった。モーザはかなりドン引きで白目をむいてついてくる。
うん。言い過ぎたかも。
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