第142話 スス村のダンジョン 9

「お前すげえな」


 ホテルから出てしばらくすると、黙ってたモーザがポツッとつぶやく。


「ん? いやさあ。モラルのねえ奴らがムカつくだけだよ」

「アルストロメリアって王都で有名なデカイ組織なんだろ? そんなのにあそこまで言うなんてな」

「む。やっぱ言いすぎたか?」

「まあ、間違ったことは言っちゃいねえよ」




 今日は、11~15層だと思うでしょ? でも16・17層に行く予定なのよ。15層に居るボスはレッドバジリスク。10層のボスのバジリスクの上位種なのだが、ドロップ品がブランクオーブなのだ。一応レベル2のサイズのブランクオーブの為、ある程度のニーズは有るらしいが、ここはお金より使えるオーブが欲しい。


 フロアの魔物のレベルも微妙に上がるくらいでレベル上げにもそこまで美味しい感じはしないし、何よりも17層に居るボスのキマイラが落とす<咆哮>が気になるんだ。


 <咆哮>は<威圧>と似たような効果があるものらしいのだが、動物の声帯と比べ人間の声が小さいせいか効果がかなり低いらしく、人気が無いという。人気がないからわざわざ危険を犯して狩りに行く冒険者も少なく市場にあまり出回っていない。


 だが忘れてはいまいか?


 <ラウドボイス>だ。<ノイズ>と同じ様に<ラウドボイス>と混ぜた使い方をすればかなりの効果のあるスキルになるんじゃないかと言うのが俺の見立てなんだ。


 しかも、16層から魔物のレベルが跳ね上がる。レベル上げにも丁度よい。




 かなり急ぎ目で走る。初めのフロアは30分程で走破する。そのまま下のフロアも止まらずに走る。途中に遭遇する魔物はトレインにならないように処理していくが、それでも入り口から一時間程で10層の階段にたどり着いた。


「はぁ、はぁ、はぁ。この時間をスクロールで一発で行ったほうが良いのかな?」

「このくらいの移動時間なら走っても良いと思うぜ」

「そうだな……」



 初めて降りる11層からのフロアだが、ひたすら奥に進むだけだ。なんとなく層を下るほど体感温度が上がってきている気がする。スス村は温泉もあるし、山の奥に行けば火山もある。そういうダンジョンなんだろうな。


 この階層にはあまり冒険者は居ないようだ。火トカゲや、ストーンゴーレムなどの変わらない魔物を倒しながら奥に進んで行くと突然火の玉が飛んでくる。14層辺りから出るラバドールだ。ロックドールの石が灼熱の溶岩で出来ているドール系の上位種だ。


「こいつは……あまり近づきたくないな」


 しかし、斬るには近づかないといけない。さらに遠くから溶岩を飛ばしてくるため、いちいち<ノイズ>でキャンセルしなくてはならない。溶岩を飛ばすから、ストーンバレットならぬラババレットとでも言うのだろうか。


 ラバドールに向かい走りながら正面から少しずれていく。ラバドールが魔法を使うタイミングで<ノイズ>を仕掛け<剛力>を使い一気に距離を詰めていく。


「死にさら――うぉお」


 完全にサイドを取り一気に斬りつけようとした瞬間、ラバドールは俺の方に向かい拳を突き出してくる。熱気ムンムンの灼熱の拳だ。


 ロックドールの感覚で近接戦闘は無いと油断をしていた。意表を突かれた俺は、のけぞるようにパンチを躱しながら魔力を込めた剣を片手で振り上げる。


 ガツィイン!


「ぐわっ。足りんかった!」


 流石に<体幹>があっても体勢が崩れたまま片手の一撃は通らないか。

 それにしても、ラバドールと近接戦を仕掛けたは良いが、近づくだけでかなり熱い。ここは……


 ドスンッ!


 俺に向けて更に追撃しようとしたラバドールを後ろからモーザが槍で一突き。そのままコアの辺りを何度か突き刺すと、ラバドールはドロドロと姿を崩していく。



「ふう、少し戦闘している気分が強くなってきたな」


 しかし動きが分かれば対処のしようはある。



 ちなみに上のフロアでバジリスクと戦えなかったため、このフロアでレッドバジリスクと戦ってみたいなという気持ちがあるんだ。


 しかし15層を突っ走っていると、遠くの方でレッドバジリスクと戦うパーティーの姿を確認してしまう。倒して再び湧くのに一時間ほどと考えると、そこまで待つ気はおこらないかな。遠目で見たレッドバジリスクは、足が4対あるワニのようなトカゲのようなデカイ魔物だった。なんとなくバジリスクって鳥みたいなイメージだったが。この世界だとこういう姿なのね。


 一応、今後遭遇したときのことを考え少し戦いを見学させてもらう。冒険者パーティーはかなりの実力者なのか卒なく戦えている。やっぱこのレベルでやってるパーティーは高確率でちゃんとしたタンクが居る気もする。一方のレッドバジリスクは、トカゲっぽい滑らかな動きを更に8本の足を駆使して素早く動き回る。


 マップに書いてあるメモ書きだと、バジリスクは石化の呪いを持っているという。これはウーノ村のダンジョンに居たロックリザードも持っていたが、それよりは強い呪いなのだろうか。このレッドバジリスクにはその様なメモ書きが無く、呪いが有るかはちょっと不明だ。動きの素早さや攻撃力が強いだけなのだろうか。


 タンクは何かタゲ取りのスキルでもあるのだろう。アタッカーが横から攻撃を入れてそちらに意識を向いてもすぐにタンクの方に向き直り攻撃を仕掛けていく。絶妙な感じだ。アタッカーも余計な心配をすること無く、攻撃に専念できている。まもなくレッドバジリスクは倒れ消えていった。


「アレを1人で殺れるようにはなりたいな」

「1人でか?」

「これだけ時間がかかるのは、結局あの人達の魔力斬の威力がそこまでじゃないって事だろ? きっちり斬れるならタンクが必死でタゲを取ってちまちまと削らなくても一撃でやれるんじゃねえ?」

「まあ、理論的にはそうだけどな」

「モーザも1人で倒せるようになれよ」

「……解った」


 なんとなく相談をしながら階段までたどり着く。実は買った地図にも16・17層のマップが乗ってない。簡単に出現するボスのメモ書き等があるだけだ。受付で聞くと、16・17層に降りていく冒険者自体がほどんど居なく、マッピングの専門家も危険度が上がる為に行きたがらず、なあなあのまま他の冒険者情報を乗せているだけのようだ。

 17層が出来たのが4年程前で、このマップ自体がそれより前に作られたものらしく改定もされていないというのも有るらしい。


 まあ、キマイラといえば日本に居た時代から聞いたことの有る有名な魔物だ。メジャーな魔物に出会えるワクワクが無いわけでもないが。普通の魔物もレベルが高めのようなので気をつけないとな。

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