第143話 スス村のダンジョン 10

 階段を降りるといつものようにだだっ広い空間があるのだが、天井を見ていると先が分かる。2層分の広さしか無いとこうなるんだな。この層にはポツポツと木が見える。決して多いわけじゃないが、枯れたような枯れてないような。そんなおどろおどろしい木だ。


 出現する魔物には、キラーアントの上位種の1つと見られるシザーズアントと呼ばれる魔物が居る。キラーアントとの違いといえば長いハサミのような顎だ。一体どんな進化をすればそうなるんだと思うが。アゴに挟まれるのは頂けない。鋭い刃物のような顎が真っ二つに切り裂いていくという。


 幸いなことにシザーズアントが群れることは無いらしいが、キラーアントと一緒に出てくる事が多いようで結局群れとの戦いになりそうだ。だが、数を狩れるということはその分レベル上げには優位だろうとポジティブシンキングで。


 正直言うと昆虫系の魔物はあまり得意じゃない。Gやムカデの様な魔物が出たら一目散に逃げ出す自信はある。アリは……ギリギリだ。子供の頃に色々やっちまって後ろめたいのも有るしな。



 16・17層はCランカー揃いのパーティーでやっとこと言うが、確かに厳しい。正直上のフロアのラバドールあたりからCランク位無いと厳しい気がする。特に溶岩を飛ばしてくる攻撃への対処など通常の冒険者ならタンクが居ないと厳しいんじゃないか? 


 <魔力操作>を持ち、ある程度しっかりと魔力があれば斬れない魔物は今の所居ない。モーザも<魔力操作>を覚えてから格段に穿通力が上がっている。今じゃゴーレムがコアを隠していても腕ごと破壊できるくらいだ。ただ少し気になるのが、点で攻める槍と線で斬れる剣の違いだ。もちろん薙ぎ払うような攻撃もやってはいるが、基本は突きだからな。


 ……そういえば。昔、日本の槍術をテレビでやってたのを見たことがある。


「槍を付く時にさ、回転させながら付くとか出来ねえか?」

「回転? ある程度なら捻れるが」

「管槍とか言ったかな? たしか前側の手の方を槍で直接持たないで、筒みたいなのに槍を通して筒を持つんだ。だから槍自体がフリーになって、後ろ手で付く時に回転させながら付くんだ。そうすると筒の中でクルクル回りながら突けるんだが」

「……イメージは付くが、回転させる時に後ろの手は離すんだろ?」

「そうだな離すと言うか手の中を滑らす感じだと思う」

「両手でグッと持って突かないと魔力の乗りも悪そうだしなあ、硬いやつ貫通させるのにも力を入れたい」

「ううむ……難しいか」


 対人の武器の使い方と対魔物の武器の使い方は違うか。それでもモーザも回転による威力の増加は理解したようで、当たる瞬間に少し槍に捻りを強めにかけたり意識してやってみるようだ。



 流石に初めての層で無茶はしない。走らずにゆっくり魔物を倒しながら奥に進んでいく。程なくして17層っぽい境界に入ったため、モーザにバフを掛けてもらいいつでもボスに対応できる心構えをする。



 ――居た。


 獣の特性で人間の匂いや気配をいち早く察知するようだが、バフが掛かっているためキマイラと俺達は同じタイミングでお互いを認識した。


 そいつはまさにライオンの顔に山羊らしき身体、そしてしっぽが蛇になっている。キマイラのイメージそのままだ。個人的には身体も山羊よりライオンの体のほうが関節も柔らかそうだし力も強そうなんじゃ? なんて思ってしまうが。


 <ノイズ>


 俺とモーザがほぼ同時に<ノイズ>をかける。

 出会い頭に、こいつは火を吹こうとした。出そうとした火が出ないことに苛立ち大きく咆哮する。


 まずい。<直感>に従い俺はすぐに自分の体を<ノイズ>で纏う。


「あ……あっ。」


 モーザは間に合わなかったか。これが<咆哮>スキルなのだろう。モーザは威圧されたように身体がピクピクとしている。流石にレッドドラゴンと出会った時にピート達が気絶したようなレベルでは無いが、まともに<咆哮>を喰らえば一瞬萎縮してしまうようだ。


 モーザが萎縮しているのを見てすぐにキマイラが突っ込んでくる。やらせねえよ。俺はすぐさまキマイラとモーザの間に入り齧りつこうとするキマイラの牙に剣を当てる。


 ガチィン!


 流石に硬い。うまく行けば牙ごと斬れると思ったが弾かれてしまう。再びキマイラの口のあたりに魔力が溜まっていく。火球か? <咆哮>か? どっちでも構わない。キマイラの口めがけ<魔弾>を飛ばし邪魔をする。


ガオォォオオ!


 流石に口の中に弾ける魔弾は痛いだろう。キマイラが嫌がるように顔を横に向ける。


「モーザ! 大丈夫か?」

「……悪い、なんとか」

「体にノイズを纏って戦え。精神系も防げる」

「わかった」


 たぶん、体もライオンなら爪での攻撃もかなり脅威なものになるだろう。だが山羊の体なんて退化も良い所だ。後ろ蹴りは怖そうだが……。って。おおお!


 突然キマイラは大きく立ち上がり、前足の蹄で踏みつけるように攻撃してきた。しかも早い。とっさに<剛力>を発動させ剣で受ける。折れないように必死に魔力を込めながら。超重い……。そのまま足をドンドンと繰り返し踏みつけようとしてくる。うぐぐぐ。


 やっとの思いでキマイラの蹄を支えていると嫌な<直感>に襲われる。そのまま口を俺に向けて俺めがけて火の玉を――。ヤバい、<ノイズ>を掛けるゆとりはねえ。


 ズシャッ!!!


 ……


 全力の一撃だったのだろう。モーザの槍がキマイラの口蓋を貫き、そのまま頭を貫通していた。キマイラはブルッと震えるとそのまま消えていく。


「おおお。助かったぜモーザ」

「いや、出だしで失敗したからな。このくらいは」



 転がる魔石と落ちた金塊を拾いながら今後のことを話す。初めは2人でやってみて、様子を見ながら交互にソロで戦ってみようかと。もちろんボスと一般の徘徊している魔物が同時に出てくることもあるだろうが。


 その後、17層部分を徘徊しながら数度のボス戦を繰り返す。やはりこの層は他にライバル的なパーティーが居ないのでボスとの遭遇率は高い。俺もまた1つレベルが上がりテンションも上がる。


 色々なアプローチを試したが、前で片方が牽制しながら後ろから攻撃を、と言うのは意外と効率が悪そうだ。山羊の後ろ足の蹴りが異様に鋭いのと、蛇の動きがかなり奇っ怪でじゃまになるんだ。結局2人で正面からガシガシ行くのが楽だろうということになった。


 少しづつ明かりが弱まり始めると10層まで戻り、転移スポットから入り口に戻る。


 後は最終日まで17層に入り浸りだな。

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