第144話 スス村のダンジョン 11

 次の日ダンジョンに入ろうとすると、あとパスがあと1日分なので気をつけるように言われる。そうか。もう10日経つのか。たしか、5日パスも有った気がするからあと5日頑張ろうと行ったところか。


 ダンジョンに入る前にちょっとお店に寄る。同じ様にダンジョンに入る前に寄る冒険者が居るようで、日の出から店を開けている所を何軒か見かけたのだ。


 目当てはマナポーション。モーザがバフと<剛力>そして、1人でボスとやる時に<硬皮>を使いたいと言うことで、魔力切れが少し心配だからだ。




 この日は2人で交代でボスに挑む。基本<ノイズ>などのサポートも行わず全部自分だけでやるが、思った以上に苦戦する。それでも俺の方は魔力斬の切れ味に依存したパワープレイになりがちだがなんとかなっていた。その日の夕方に突然相手の動きが解るようになり楽になる。後で確認すると<察視>が生えていた。


 <察視>は観察力の増すパッシブスキルだ。先日のオーク討伐の時に、オークの集落から逃げ帰ってきた俺達の足跡をたどったチェイサー的な警備団員が持っていたスキルだ。なるほど、戦いにも使えるもんだ。モーザの<動作予測>とは別のアプローチで相手の動きを見れるように成るのかも知れない。


 なんとなく、見る力が俺は特化しているのだろうか、<魔力視><速視><察視>とそちらのスキルが充実し始めている。そのうち邪眼とか開眼したら……いやそれはこじらせ過ぎだな。


 ……<透視>とか……いやいや。なんでもない。



 一方モーザも苦戦をしていた。<硬皮>の効果はなかなかいい感じで、受けるダメージも浅くなるようだ。ただ、<硬皮>を使う場面に成ると槍の間合いの中に入られているということでその時点で上手く行っていない事になる。一度槍を取り落した際に<硬皮>を纏った拳を<剛力>で無理やり殴るというモーザの対処は、技巧派を気取るモーザにとってはかなり屈辱のようだ。


 でも、<硬皮>パンチは、格闘系の人間にはかなりイケる攻撃だよな。おれもそのうち手に入れたら無手の練習したくなるぜ。




「うう……疲れたなあ。温泉が無かったらこんな頑張れないかも」


 夕方ホテルに戻るとすぐに2人で温泉に入る。汗とホコリに塗れた体を癒やしてこそ明日も戦えるもんだ。


「くそっ。明日は見てろ。もっと上手くやる」


 モーザは茹だりながらも今日の反省をしている。



 次の日、早朝時間でまたアルストロメリアの3人とすれ違ったがお互いに顔を背けたままダンジョンに向かった。俺も俺で気まずいんだよ。




 もしかしたら気が付かないかな? なんて思いながらパスを見せてダンジョンに入ろうとすると期限が昨日で切れてるぞと突っ込まれる。え? うっそ~と仕方なくパスを買う姿にモーザは冷めきった目で見つめてくる。いや。ジョークだから。アメリカンジョークってやつさ。


 予定通りパスは5日分のを購入。出来ればその間に<咆哮>を1つでもドロップしてもらいたい。後は俺とモーザが1つづつくらいスキルが生えてくれたら御の字だ。




 17層に籠もるようになって3日目は、そこまで状況が変わる感じではなかったが4日目になるとモーザがようやく安定してキマイラを倒せるようになってきた。特にスキルを覚えることでの実力の上昇というより、自力での技術的な向上があるのだろう。俺の方は更にレベルを上げ底力が上がり、より楽に倒せるようになった。


 モーザは父親と子供の頃から狩りの練習をしていたらしいが、やはり父子での訓練はどこかに甘さが出るのかも知れない。話を聞くとそこまで追い込まれること無くほぼパワーレベリングのような訓練だったという。レベルの割にスキルが少ないのはそういうことなのかも知れないな。今回だけで<操体>と<魔力操作>を覚えている。やっぱり追い込まれて考え、悩むことを繰り返すことが大事なんだろう。


 5日目になると、モーザは<魔力増加>スキルが生える。<ノイズ><センス><剛力><硬皮>を駆使し、定期的に不味いマナポーションを飲みながらの特訓で、魔力が必要だと体が感じたのかも知れない。


 俺も心が<操体>を必要としているのに……。スキルのブーストが無くてもある程度出来ていると言う事なのだろうか。<スタミナ増加>も他のスキルで補っちゃってるからもう出てこない様な感じになっているし。




 6日目。明日で最後だ。もう1つくらいレベルが上って欲しい所だ。モーザのレベルだと上がるのは厳しいかな。この日になるとキマイラの倒し方もパターン化してきてかなり余裕が出てくる。昼くらいにとうとう念願の物が落ちた。


「お。おおお。来た来た来たー」

「なんだその喜び方」


 <咆哮>だと思われるオーブを手にしモーザに使ってよいか一応確認する。倒したのがモーザだからなあ。モーザは好きにしろとあまり欲しそうにしていない。


 オーブを砕き。中に入ってくる<咆哮>を確認する。


 ボスが再び沸く前に辺りを徘徊しながら魔物を探すと、シザーズアント率いるキラーアントの群れを見つける。頭の中で<ラウドボイス>と<咆哮>を組み合わすイメージをしながら近づいていく。魔法とスキルが混合するかがちょっと不安だが。


 すぅっと息を吸い、魔力を込めるイメージで……。


「うおおおおおおおおおおお!」

「うるせえ!」


 <ラウドボイス>で拡声された声があたりに響く。一応対象をアントたちに絞るイメージで使用してみたが、うまく行ったようだ。モーザが耳を塞ぎクレームを入れてくる。当のアント達は……。


「ギ。ギギ……」


 おおお、みんなガチガチと牙を震わせ動きを停止させてる。効いてるぜ。これは超使えるんじゃねえか?


「すげーな……」

「ふふふ。だろ? 萎縮してる内に仕留めちまおう」


 萎縮時間は良くわからないが、すべてのアントを始末する間に状態を回復できるやつは居なかった。もうノリノリだぜ。



 とうとう最終日になる。この日なんとか無事にレベルを上げた俺は、帰りに転移先の広間から出口じゃなく1層の野営地に向かう。モーザが訝しげに聞いてくる。


「何しに行くんだ?」

「<瞬動>のオーブさ、どうせ皆ギルドに売るんだろ? ここで買取の値段位で買えねえかと思ってな」



 1層の入り口は既に人が集まり野営の準備が始まっていた。俺は隅の方の人があまり居ない所で軽く<ラウドボイス>をかけ呼びかける。


「すいません! どなたかギルドに売る予定の<瞬動>ございましたら買取の値段にちょっと上乗せしますので1つ2つ譲ってもらえないでしょうか!」


 ……


 しばらくすると厳ついドワーフ(皆ドワーフは厳つい感じだが)が近づいてくる。


「おお、兄ちゃんか。こないだはありがとうな! 旨い酒だったぜ」


 お? スス村初日に酒をおごりまくった連中の1人か。

 

「兄ちゃんならギルドの買値と同じでいいぞ。1つだけどな」

「まじっすか? ありがとうございます。ちょっと今日は酒は無いですけど」

「ガハハハ。酒なら持ってきてる。大丈夫だ!」


 おお、奢っておくもんだな。

 するともう1人冒険者がやってくる。


「君たちはこないだ、エーギル達を助けてくれた2人組だろ? 俺たちも1つある。俺たちもギルドの買値と一緒でいいぜ」


 エーギル? 名前を聞かなかったが恐らく6層でキラーアントの集団に追われていたあのパーティーの事だろうか。マジか……お前ら温かいぜ。


 オーブは基本冒険者ギルドの扱いと言うのが定番になっている。もちろん商業ギルドで扱う場合もあるがそこら辺はいろいろなしがらみがあるようで、冒険者ギルドが優位らしい。


 ギルドでオーブを買うと大分高く付くが、ギルドが買い取る値段はそれと比べればかなり安くなる。そんな値段で買い取れるならかなり旨い。もともと<瞬動>は有れば使えるが無くても問題ないくらいの効果と言われているためそこまで高価なものじゃないが、オーブ自体がいい値段するので助かる。


 <瞬動>を2つ購入すると冒険者やドワーフたちに礼を言いホテルに戻った。



 これでスス村ダンジョン特訓は終了だな。なかなか実のある日々だったんじゃないか? 最後の温泉を2人で堪能し、屋台村でアルコールを少々入れる。


 明日は、朝にはゲネブに向けてマラソンのスタートだな。

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