第8話 ゴブリンめった斬り

 洞窟の入り口まで来ると裕也がそっと中を確認する。中にいるゴブリンには気づかれていないようだ。2匹から魔石を取り出し、裕也がこっちを向きニヤッと笑う……何故か裕也の意図を汲んでしまった。


「いやいやいやいやいや」

「まあまあまあまあ」

「無理無理無理無理」

「大丈夫だいじょーぶ」


 助けを求めてエリシアの方を見る、エリシアはにっこりと天使のような笑顔を見せる。


「がんばってね」


 OKやろう。


 というわけで、俺が切り込み隊長。

 そういうのは身の丈を超えるような大剣を持った隻眼隻腕の猛者みたいな奴がやるべきなのに……。


 入る前に洞窟は狭いところもあるからと、コンパクトな剣の使い方をご指導ご鞭撻してくれる。


「これも良い経験だって言いたいんだろ?」

「そういうことだ。ウルフが一人で倒せるんだ、問題ない。ハヤト、省吾に防御魔法かけてやれ。物理と魔法両方だ」

「OK!」


 ハヤト、何でも出来るのね。

 支援魔法がかかるとなんとなしにテンションが上がってくる。

 なんだかやれそうな気がする!


 こうしてゴブリンの殲滅作戦は決行された。




「人型の魔物を殺すのに抵抗があったのは初めの2匹くらいまででした。気が付くとあとはただ作業のように殺し続けました」


 後に自叙伝を書くとしたらそんな感じに書くんだろうな。

 中に入ると、丁度外に出ようとしたゴブリンに鉢合わせた。一瞬お互いにギョッとお見合い状態になる。かなり慌ててだが先に動いたのは俺だった。ビビるわ。こうして1匹目のゴブリンを倒すと俺はゆっくりと中に進んでいった。


 洞窟の中は少しヒンヤリとした空気が漂い、入り口から少し登るように続いていた。足元に湧き水らしき水がチョロチョロ流れていて気を抜くと足を滑らしそうだ。


 おっかなびっくりに下を見ながら歩いていると、ふと水の流れの中に何やら文様が書いてある赤い石がはめ込まれているのに気がつく。裕也に指を指して伝える。


「シャーマンがいるな……踏むなよ。簡単なトラップだ」

「じゃあ先頭交代かな?」

「レジストマジックを掛けてあるから心配するな。他にもあるかもしれないから気をつけろよ。」

「暗くて自信ねえ……」


 洞窟は当然のように奥に行くほど暗くなっていく。魔法で目立たないくらいの小さな光の玉を裕也が作る。なんとか見える程度の光で歩けということだ。

 さっきと同じ様な赤い石はその後2つ見つけた。一つは気が付かず踏みそうになったところを裕也に止められたのだが。


「しっかし、これゴブリンは踏んだりしないのか?」

「水の流れてる通路の真ん中にしか設置してないから、水を踏まないように歩いてるんじゃないのか?」

「……まあ今気が付いたのならいいけど」

「くっくっくっ」

「……」


 坂を登りきり再び平坦な道になると、先の方に明かりが見えた。

 3匹ほどのゴブリンが言い争ってるように見える。いや言葉の響きが荒くて争っているように見えるだけなのだろ。なんとなく喋ってる単語がたまに理解できるような空耳アワーな感じもする。


 光を消しそっと忍び寄る。


 20mほどの距離に近づいた時に1匹と目があった。その瞬間全力で走り出し切りつけた。2振りで体勢の整わない2匹の首を落とす。しかし目のあったやつは既に槍を構えて突き出してきていた。突き出された槍を弾こうとした瞬間、レベルアップの立ちくらみに襲われて動きがとまる。


「おおおおお」


 何も出来ぬまま胸めがけて槍が差し込まれてきたのを見つめていた。



 ゆっくりと槍が胸に刺さるのが見える。



 やばい、終わった。


 ガツッ


 同時に胸に衝撃が走る……衝撃?


 その衝撃に一歩下がりゴブリンを見ると槍を突き出したまま目を見開いて驚いている。俺は、はっと我を取り戻しすぐに剣を一閃させ、槍を叩き切る。

 

 ゴブリンは奇声を上げ折れた柄を投げつけてきた。前に踏み出しながらそれを跳ね上げそのままもう一歩踏み出し、ゴブリンの肩口から。袈裟切りにする。


 心臓がかつて無いほどバクバク言っている。


 ふと胸を確かめたが革にちょっと凹んだ跡が付いているだけだった。

 裕也がやってきて肩を叩きながら話しかけてきた。


「なっ? 大丈夫だろ?」

「ああ……」

「まあ、レベルアップ酔はしょうがない」

「ああ……」

「今のでやつらも気付いたみたいだ、いっぱい来るぞ」

「ああ……」

「省吾? だいじょうぶか?」

「ん? ああ……」



 なんだか頭の中が落ち着かない。


 ウルフの時も一度死んだと思ったが、なんか今回は前よりショックが大きかったのか。心臓の鼓動も聞こえるくらいだ。


 自分でもどうしていいか解らなかったが、取り合えず深呼吸をする。


 スー ハー 


 視界の横で裕也がエリシアに指で×を作って合図している。

 おや、セコンドから、タオル投げ込まれた感じか。


 スー ハー


 心臓だけじゃない。頸動脈の脈もヤバい感じだ。ドックンドックン。

 おいおい……脳の血管切れねえか???


 スー ハー 


 通路の奥からガチャガチャと音が鳴り響く。かなりの数のゴブリンが思い思いの武器を手にしてこちらに向かってくるのが見えた。


 スー ハー


 何となく向かってくるゴブリン達を見ていると、落ち着いてくる。


 スー ハー


 もう心臓も落ち着いている。


 スー ハー


 いけそう?



 裕也が剣を抜き前に出た。


「省吾。お前少し休め」

「大丈夫。やれる」


 俺はそういうと裕也の前に出て剣を腰だめにしたまま集団に突っ込む。なんだかゴブリン達の動きがやけに遅く感じる。夢中というより集中できている感じだ。


「お、おい」


 裕也の制止する声が聞こえたが構わずゴブリン達の間合いまで突き進む。


 走り寄る俺に威嚇するようにギャーギャー叫びながら先頭のゴブリンが斧を振り上げる。やはり遅い。なんだ? 横にずれながらその腕ごと首を刈り取る。その横に居るゴブリンも斧だ。やけにゆっくりと振り下ろされる斧を避けながら首元に剣をあて引き切る。今度は1匹目のゴブリンが倒れた向こうから槍が突かれる。槍か。左手で槍の柄を払いのけながら踏み出し、右手で剣を突く。喉を貫通させられたゴブリンはそのまま崩れる。さらに2匹が攻撃を仕掛けてきたがバックステップで後ろに下がった。2匹の姿を視界に収める。


 おお、なんか余裕だ。あれ? これってスポ根漫画的にゾーンに入ったってやつか?


 さらに追撃しようと迫る2匹を切り払う。後ろにいたゴブリンがたじろぐのが解る。こいつはあと回し。左からゴブリンが斧を投げてくる。グルグル周りながら飛んでくる斧もよく見える。躱しながら、すぐに間合いを寄せ切り上げる。斧を投げたゴブリンは絶望の表情を浮かべたまま剣の餌食になる。緩やかな時間が進んでいる中で俺だけがスムーズに動けている。そんな感じ。


 やべえぞこれ。血に……酔いそうだ。


 襲いかかるもう一匹を斬り伏せ、たじろいでいたゴブリンに再び剣先を向けたときその後ろからデカい火の玉が飛んできた。魔法か! 慌てて右に避けるが目の前にいたゴブリンはそのまま火に包まれて倒れる。コノヤロー仲間ごとかよ! 鬼畜な野郎め。魔法を撃ったシャーマンにチラリと目線を向ける。そいつは他のゴブリンより頭一つ出ていた。ふむ……シャーマンと俺との間は3列分のゴブリン。


 すぐ行くからな。


 火の玉の射線にいてダメージを食らってるゴブリンのおかげで相手の手数は少ない。こんな通路の幅じゃ2匹3匹しか横には並べない。ゾーンに入った俺の敵ではない。


 血しぶきをあげながらゴブリンの列を抜けた瞬間に再び火の玉が飛んできた。なんとなく行ける気がする。そのまま火の玉に突っ込み火を突き抜けた。炎の先で唖然としているシャーマンと目が合う。おれは止まらずに首を刎ねた。


 その瞬間再び立ちくらみに襲われる。そのさなか頭の中に警鐘が鳴った。今度は動ける。警鐘に逆らわず、後ろに飛び下がると目の前に大剣が振り下ろされていた。


 ゴォオオン!


 そいつはほかのゴブリンはもちろんシャーマンと比べても一回りほど大きく、こいつがボスなんだろうと一目で理解できた。剣の速さもスピードも段違いだった。じりじりと間合いを詰め、切りかかるがそのたびに大剣で防がれる。反応も良い。


 明暗を分けたのは剣の差だったかもしれない。ボスゴブリンの大剣は俺の剣を受けるたびに削られていき、やがて折れた。

 ボスゴブリンは折れた剣を投げつけ、それを俺が処理してる間に下に落ちていた斧を拾い再び切りかかってきた。


 だがそのリーチじゃ無駄。


 斧を振り下ろすのに合わせ半歩下がりながら剣を振り上げる。そのタイミングで鼻先を斧が通過する。その瞬間に踏み込んで上段から振り下した。


 なんとも言えない手応えの中、ボスゴブリンは崩れ落ちていく。再び立ちくらみに襲われる中、すでに立ってるゴブリンが居ないのを確認するとそのまま座り込んだ。



「はぁ、はぁ……しんど……」


「兄ちゃんカッコえー!」

 遠くでハヤトの声が聞こえた。


「やるじゃねえか省吾。戦闘チートの片鱗か?」

「ゾーンっすよ師匠! なんていうか、俺、ゾーンに入りました!」

「ん?」

「なんか相手の動きが全部見えて、どう動けば良いのか解っちゃう感じで。まさにゾーン」


 裕也が頭をポリポリかいて苦笑いしながら答える。


「あー……まあゾーンでも良いんだがな。おまえ新しいスキル覚えてるぞ。しかも統合スキル」

「え?……おお? マジか。って統合スキルってなんだっけ」

「複数のスキル効果が一つにセットになったものだ。この世界で天才、異才と言われているような連中は大抵持ってる」

「おー、そういえば言ってたな、まさか<武の極み>とか言うやつか!?」

「<極限集中>だ。見たことなかったんでな、スキルも解析してみたんだが、死の危険を感じるような極限状態で発動するらしい。発動すると、<冷静>、<思考加速>、<感覚加速>、<危険予測>、<疼痛耐性>、の5スキル効果が同時に発動する。おそらくゴブリンに槍で突かれて死を覚悟したんじゃないか? その時にスキルが発現したんじゃないかなと思う」

「確かにゾーンっぽいスキルでやんすね。」


 むふっ、でもこれで俺もチートの仲間なんじゃないか? うんうん。これで無双してハーレムで大金持ちで……ふふふふ……ふ……ん? あれ?


 おや?


「あー。裕也ちょっといいかな?」

「なんだ?」

「これってもしかして、死にそうにならないとスキル使えなくね?」

「まあ、そういう事だな」




 ショーゴ ヨコタ

 LV9

 スキル 言語理解 極限集中

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