第9話 村に到着

 ボスゴブリンを倒した後、洞窟内をチェックしゴブリンの一家が壊滅しているのを確認してから村に向かった。家畜などの骨はあったが、捕まった人間などの形跡は見当たらなかった。ひとまずは安心した。ボスゴブリンはゴブリンチャンプじゃないかと言われた。


 いわゆる統合スキルと言うセレブ御用達の様なスキルを手に入れたのだが、オレの心は晴れない。

 結構なキャパを消費して、使い所が微妙な気がしてならない。何度も死にそうな目に合うというフラグだだったりしねえのかな……不安しかねえ。



 ゴブリンの巣穴から村まで一時間ほどで着く。確かにこの距離にゴブリンの巣があればかなり被害がでたんじゃないのだろうか。

 初めて見る村は、木の塀の少しゴツくしたような壁で囲まれていて、何個かの見張り用の櫓のようなのがあった。塀の外には塀に沿って空堀が掘ってある。初期村のイメージでかなり貧相な物を予想していたがそれなりに人口があるように感じた。


 村の門には小さい小屋があり、近づいていくと小屋から兵隊が出てきた。裕也の家族とは顔なじみのようで、裕也が挨拶をしている。


「こいつはちょっと縁があって面倒見ることになってな。ちょっと鉱山ダンジョンで鍛えようと思って連れてきたんだ」

「可哀想にお前と同じ黒目黒髪か? ハヤトは普通で良かったな」


 おいおい、本人目の前で可哀想とか言うなよ……まるで普通じゃないみたいじゃないか。ハヤトは困ったように苦笑いしている。


「省吾といいます。よ、よろしくおねがいします」


 しかし大人な俺は、ちゃんと大人対応を心がける。

 プラス可哀想な立場で気弱な雰囲気をちゃんと演出してだ。


 こういう所はキッチリしておかないと後々トラブルの元になる……かもしれないからな。


 それだけのやり取りであっけなく村に入れてもらえた。よくある異世界ファンタジーのように入るのにお金などは発生しないようだ。


 村の中は小ぶりな建物がごちゃごちゃと並んでいた。人影はまばらで店の掃除など作業している姿がちらほら見える程度だった。土がむき出しになった道は歩くと埃っぽさを感じる。当然アスファルトなんて無い。中世的な石畳みたいなものを少しイメージしていたが、このレベルの村じゃこんなもんなんだろう。


 だいぶ日も傾いてきたのでとりあえず宿を取ることになった。その後にゴブリンの報告をするために村長の家を訪れると言われた。



 宿に向かいながら、ふと疑問に思ったことを尋ねた。


「なあ、黒目黒髪の勇者の話は解ったんだけど、それだけでなんで可哀想になるんだ?」

「ああ、勇者関係で出世的な事が絶望的って見られるのもあるんだけどな、ほれ歩いてる人達見てもみんな髪に色ついているだろ?」

「ああ、なんかコスプレ会場みたいで違和感バリバリだ」

「この世界の人間は大抵なんらかしらの精霊の影響を受けていると言われている。単純な話をすれば赤い髪の奴は火の精霊の影響が強くて火属性の魔法が強い傾向がある。同じ様に青色の髪の奴は水の精霊の影響が強かったりと。でその中で黒は精霊の守護が貰えなかったと言われている。居ないわけじゃないんだが目も髪もとなると、割と珍しい存在で地方によっては忌み子として処分されることもあるらしい」


 忌み子かよ、それは穏やかじゃねえな。過去の勇者だけの問題じゃないのな。ちょっとどうしようもない気がしちまう。


「マジか、闇属性とか黒くなりそうだけどな」

「確かにその通りだな、だが人間で闇の精霊に守護されてるって話は聞いたことがないな。魔族には居るらしいが、魔族は種族特性で白目の部分は真っ赤になるというし。見た目も人間とは違うからな」

「やっぱ魔族も居るんだな。ちなみに金髪は?」


 ちらっとエリシアを見ながら聞く。


「風の精霊ともエルフの神とも言われるわ、だからエルフはほとんどが金髪なのよ」

「なるほど」



 宿は3階建てのレンガ造りのなかなか雰囲気のある建物だった。見た感じどの宿も2階建てで3階建てはここくらい、ちょっと格式が高そうな気がする。裕也に風呂もあるぜと言われテンションアゲアゲである。やっぱ井戸水で体を洗う生活は寂しいしな。


 宿は1階部分にエントランスがありその右側が食堂、左側に浴室になっている。部屋は2階部分はすべて一人部屋で3階は複数人数向けの広めの部屋になっているようだ。


 裕也ファミリーが3階のベッドが4つある部屋を、俺は2階の1人部屋を取る。金はすべて裕也が払ってくれる。まったくもって頭が上がらない。


 村長宅には俺と裕也で行くということで、自分の部屋に荷物置いたらエントランスで待ち合わせをしようという話になった。


 この世界での初めての宿。ちょっとウキウキしながら指定された番号の部屋に向かう。ちゃんと鍵があるのも安心だ。

 部屋にはベッドと小さいテーブルと椅子が一脚あるだけで日本の安いビジネスホテルの様な感じだった。一応チェックしてみたが、引き出しの中には当然聖書は入っておらず、テレビやポットなどもない。とりあえず大した荷物も無いが、エリシアさんから渡された着替えの入った袋をベッドの上に置きすぐにエントランスに向かった。


 エントランスのホールにあった木製のベンチに腰掛けてしばらくすると、裕也が降りてきた。エリシアとハヤトは宿の食堂で夕食を済ます予定らしい。うちらは帰りにどこかで飲んでこようと言われる。15歳の体で酒を受け付けられるか不安だったが、外で飲むと言うのも久しぶりの気がしてちょっと楽しみだ。



 そんな大きい村でもない、村長の家はすぐに着く。村長宅だけあって村の中で一際大きく重厚感のある建物だった。敷地の周りも石の塀が建てられており、建物も石を組んで建てられていた。この村のように近くにダンジョンがある村だとスタンピートの発生時などに村人たちの最後の砦として使われることも想定してあるとかで頑丈な作りをしてるとの事だ。

 確かに近くで見てみると、威圧感はあるが装飾などに金がかかってる感じではない。


 不用心な事で門は開かれていてそのままだったので、そのまま玄関まで進みノッカーを叩く。しばらく待つとゆっくりとドアが開き、中から30歳くらいのメイド服に包まれた女性が出てきた。


 おお……メイド……うん、メイドだ。

 秋葉原のメイド達とはかなりイメージは違うが、そりゃそうだよな。

 露出度も低いし、なんて言うかクラシカルだ。


「これはユーヤ様、お久しぶりでございます。今日はどのような?」

「ああ、今日ここに向かってる途中にゴブリンの巣を見つけてな、それで村長にも伝えておこうと思って。村長はいるか?」

「はい、中にいらっしゃいます。その、巣の規模は大きいのですか?」

「いや、まだ棲みついたばかりのようでそんなでもなかったがな、ただ場所がね、2年前と同じ洞窟だったんだよな」

「なるほど……了解しました。ところでそちらの方は?」


 チラッとこっちを見て尋ねてきた。


「ああ、ショーゴっていうんだがな。数日前に森で拾ったんだ。まあ色々と他人事に思えなくてな、独り立ち出来るようにここのダンジョンで鍛えようと連れてきたんだ」

「ご親族の方ではなく?」

「ああ、全く関係ない」

「……わかりました。只今村長は接客中ですので中でお待ちになってもらってもよろしいですか?」

「かまわない。特に用事もないしな。急いでもないし」

「ありがとうございます。それではこちらへどうぞ」


 そう言うと館の中に案内された。

 外から見た感じで中も冷たい石のイメージだったのだが、建物の内装は床や壁にちゃんと板が貼り付けられていてそれなりに温かみを感じる雰囲気だった。


 玄関から入って左手の部屋で待っているようにと案内された時、奥の方の部屋から真っ白な鎧に身を包んだ騎士の様な男と、30代半ばくらいの気の弱そうな青年が出てくる。


 鎧の男は、俺と裕也に気がつくと少し驚いた顔をしたがすぐにムスッとした表情になり声をかけてきた。


「なんでこんな所にスパズがいるんだ? しかも二人とは珍しいな」

「村の周辺で魔物を見かけましたので村長に報告をしようと」

「フン、そんなもんギルドにでも行けば良いんじゃないのか?」

「そうなんですが、ギルドには乱暴な方も多いので……」


 そう言うと、意地悪そうに笑ってこたえた。


「はっはっはっ。相手にされないか。良かったな優しい村長で」


 裕也は肯定するように、だまって頭を下げた。

 それを見て鎧の男は気が晴れたのか屋敷から出ていく。その間裕也は頭を下げたままだった。俺もそれに倣い後ろで頭を下げて男が出ていくのを待った。



 男が出てってからしばらくすると、青年がため息を付きながら声をかけてきた。


「ユーヤさん、すいません」

「ん? まあ慣れたもんだからな、気にしちゃいねえよ。しかし何の用だったんだ?」

「明後日辺りに、ゲネブから王都に向かう子爵様御一行がこの村で一泊するようなんです。それでその時にこの家で泊まるから歓待せよという先触れですよ」

「ゲネブの子爵と言うとピケ家か? なかなかに優秀だって話だな」

「王都に呼ばれるくらいですからそうみたいですね、まあ無難に過ごしますよ。ところで今日は?」

「まあ色々あってな、立ち話じゃなんだから座って話そうか」


 ちょうどその時に奥からメイドが出てきて、片付いたのでどうぞと執務室に通された。



「はじめまして、この村の村長を務めさせていただいておりますナルダンと申します。ユーヤさんにはいつもお世話になっております」

「はじめまして、俺は省吾です」


 村長というから結構年配のお爺さんを予想していたのだが、若いな。裕也と同じくらいか?

 黒目黒髪にも特に差別意識もなさそうだな。


「ここ来る途中にな、ゴブリンが居たんだ」


 裕也はそう言うとマジックバッグから革袋を取り出し村長に渡した。

 受け取った村長は袋の中を確認すると、なにか思い当たった様に気まずそうな顔になる。


「けっこういましたね……巣ですか?」

「ああ……2年前の巣と同じ場所だ」

「すいません……埋めるようにちゃんと指示はだしたんですよ?」

「どうせ入り口塞いだだけだろ? お前村長ならちゃんと確認しろよ。被害が出てからじゃおそいんだぞ?」

「いや……まあ……そうなんですけどね……」

「それからちゃんとギルドに言っておけよ。依頼がちゃんと果たせてないんだから無料でやらせればいい」

「いや……まあ……そうなんですけどねえ……」

「こういう時村長らしくちゃんとやっとかないとギルドの連中に舐められるだけだぞ?」

「はい……しかし……」

「親父さんならこんな適当な仕事ギルドにさせなかったぞ? ちゃんと領主から任せられた村の代表なんだから、そういうのも幾らでも言う権利はあるんだからさ」


 うわあ、裕也結構攻めるな……でもまあ顔見知りっぽいし。


 まあ話の流れはなんとなく理解できた。なんとなくギルドのイメージ悪いな。しかし大丈夫か? この村長。だいぶ裕也に絞られていたが、やがて話題を変えようと村長が言ってきた。


「それでもゴブリンの巣をつぶしてくれたんです。村としてもお礼させてください」


 その瞬間、裕也の目がギラリと光った……気がした。


「おいおい、俺は別にお礼が欲しくて村の危機を救ったわけじゃないぞ。うん、だが……そうだな。今回はシャーマンもチャンプもいたしな、確かにそれなりに大変だったが……そこまで言うなら、まあ一つ頼みがあるんだ。それでいい」


 うわあ……露骨にいやらしい空気を醸し出してやがる。

 村長も警戒心満々じゃないか。


「た、頼み事ですか?」

「なに大したことじゃない。ちょっと教会に回復魔法のスクロールを流してくれるように手を回してくれないか?」

「へ? よりによって回復ですか??? 無理ですよぉ」

「ほら、そこは準男爵様のご威光でさ」

「下級貴族にそんな威光無いですよ」

「いいか、ナルダン。諦めたらそこで試合終了なんだ」

「はい??? わけわかんないですよ」

「てことで、よろしくな。よし行こうか省吾」

「ちょ、ちょっとユーヤさんっ」


 慌てて言いすがる村長を無視して部屋から出て行く裕也。えっと。俺はどうすればいい?


 ……まあ付いていくか。


 部屋のドアを閉めるときにチラッと中を見たら、村長が頭を抱えて悶絶してた。



 玄関まで来るとメイドさんが見送りに来た。


「ユーヤ様、あまりナルダン様をいじめないでくださいね」

「いじめてるつもりはないんだがなあ……」

「回復魔法はショーゴ様に?」

「おまえさんなら、自己回復の重要性はわかるだろ?」

「そうですね……」

「ま、ナルダンはアレはアレで出来る男だ、期待してるさ」

「はぁ……用意できましたらお届けいたします」

「よろしくなぁ」


 そういうと、二人は村長邸をあとにした。

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