第10話 酒場トーク
「ここのおっさんは顔は悪いんだが味は良いんだ」
そう言いながら裕也に連れられて入っていったのは、こじんまりとした酒場だった。
酒場の中に入っていくとスキンヘッドのおやじが客に酒を注ぎながら言い返してきた。
「俺はお前の方が悪人顔だとおもうがな」
「こんなエンジェルフェイス捕まえて何言ってるんだ」
「ぎゃははは、エンジェルって面かよ」
すると奥の方に居たドワーフっぽい爺さん? が声をかけてきた。
「おう、ユーヤ珍しいじゃねえか。そりゃあ地震も起きるなぁ」
「地震なんてあったか?」
「さっきコップの中で酒が波打ってたぜ、ありゃ地震だろう?」
「そりゃアル中で手が震えてるだけだろっ」
「何言ってるんだ、ドワーフってのは酒に愛され、酒を愛する種族なんだ、アル中なんてならねえよ」
周りの客たちもヤンヤと囃し立て、訳解んない盛り上がり方をしてる。
裕也は顔見知りっぽい客たちに声をかけながら席についた。
なるほど、行きつけの居酒屋って感じか、いいなあこういうの。若い頃、こういう行きつけの居酒屋っていうのに憧れたこともあったけど……。
結局作れなかったな……彼女も……社会性の欠如とかかねえ。
「省吾、何飲む?」
「ん~取り合えずビールか? あるか?」
「エールならあるぞ、ドイツ人みたく常温で飲まさせられるけどな」
「ああ、かまわない」
「そう言えば、スパズってなんだ?」
少し気になっていたことを聞いてみる。
スパズと言うのは黒目黒髪の人間に対する蔑称だった。この世界の人間は産まれたときより精霊らの影響を受けて産まれてくるため、影響を受けた精霊によって髪の色や目の色が変わるという。遺伝的に考えれば普通黒色と言うのは優勢なのだが、そこら辺が全く考慮されない。精霊の影響を受けていない人間は結果として得意属性が無く魔法を覚えても中途半端になりやすい。逆を言えばすべての属性が万遍なくある程度使えるオールマイティ型とも言えるのだが、いつの間にか無能扱いされスパズと言う蔑称がついたということだ。
地球で言えば20世紀に黒人の事をニ○ロと蔑称してたのと同じ様な感じなのだろうか。
「過去の勇者は黒目黒髪でも魔法はすごかったんじゃないのか?」
「そう。特に光属性の魔法が半端なかったらしいぞ。まさに勇者って感じだな」
それから、転生してからの裕也の話を色々聞いた。
ドワーフの鍛冶職人に拾われた話。エリシアに出会った話。仲間とPTを組んで希少な金属を探して冒険をした話。それこそ、もうそれほとんど主人公キャラじゃねえのか?って具合で。
自分の立ち位置が少し心配になる。
気がつくと大分客は少なくなっていた。
裕也も大分酔ってきてるのでそろそろ帰るかと聞いてみるが、もうちょっと飲みたいと酒を追加している……これは駄目なパターンかもしれない。
「でもさあ、この村じゃそんな差別とか強くなさそうじゃね? あんな離れたところで住まなくても」
「ん? まあここは居心地いいな。俺に鍛冶を教えてくれたのもここのドワーフたちだしな。しょぼい店だが酒を飲める良い場もある」
「じゃあ、なんでまた」
「だーかーらー。あの糞残念勇者が革命起こしたろ? それだけじゃない、リバーシ、石鹸、製紙技術、活版印刷、ウォシュレット、技術的な革命だって数しれず起こしてる。転生してきてチート街道まっしくらってやつだ。そんなのがいれば国もスパズじゃない黒目黒髪が居ることを認識してるわけだ。んで、当然俺の事だってスパズじゃねえなって解ってるんだ。公にはなってねえが恐らく転生者って可能性も国が気が付かねえ訳はねえ」
うーん、200年前の勇者が転生の話を誰にもしなかったと言うのも可能性としては低いわな。王家とかだと過去の資料も管理されて残ってそうか。
「そもそも国の軍隊でも倒せなかった魔王軍を一人で殲滅させた男だぞ? 人外の身体能力、魔法それにチートなスキルまである。この世界にとっちゃ核兵器みたいな存在だ。そんなのが革命を起こしたのに何故失敗したと思う?」
「ん……ハニートラップとかか?」
「アホか。人質だ、民主主義という一つの理想に多くの民、村、中には利権を貪れる立場の貴族まで同調した。本来ならどうやったって成功しそうなものだ。だがそれに対して国はあろうことか民を人質としたんだ。抵抗を続けて村人すべて虐殺された村もあったらしい。勇者のシンパは国の至る所にいる。いくらチートでもその全てを守ることなんか出来っこねえ。民のために立ち上がった勇者が、それでも戦い続けることが出来たとおもうか?」
「難しいだろうな」
「そうして革命は抑えられた。スパズ達の中に同じ様な力を持つものが現れるのを恐れ、その後に国にいたスパズ達は子供を含めすべて処刑されたという話さ」
「ひでえな……」
「酷いが、それが体制の維持ってやつだ。それはその時の王が死ぬまで続いたらしい。その後10年ほど王が変わるまでだ。その後代を重ねて段々と記憶が薄れるようにスパズに対する差別も無くなってきては居るがな、今でも国はスパズが産まれると監視をしているという」
「じゃあ、裕也も監視されてるのか?」
「当然だ。戦闘チートじゃないが俺の作る剣は王家ですら求めてくる。当然スパズじゃない特殊な方だと認識されてる。勇者が人々に思想を植え付け人心を掴んだように、俺がここみたいな村に長く住み着いて人心を惑わせる様な事が無いか常に監視をしている」
おおう……見られてるのか???思わずあたりをキョロキョロしてしまう。
むっ。あの机で寝てるオヤジ……ちょっと怪しいかも……
……はっ! まさかマスター??? パターンとしては無いわけじゃない。
「あ~ 違う違う。お前も会ってるだろ?」
「へ? ……今日?」
「村長の所に居たメイドだ。オカシイと思わなかったか? 訪ねた時にメイドの立場なのにお前の事を聞いてきたり。村長に回復魔法の話をした時、奴は部屋に居なかった。だが帰り際に何故回復魔法かと聞いてきただろ?」
「そう言えばそうだな」
「逆にだからこそ回復魔法を村長にねだったんだ。村長の出来ないことはメイドがフォローする」
「回復魔法ってそんな手に入りにくいのか?」
「回復魔法と言えば聖職者だろ? 実際教会はゲガした住人にほぼ無償で治癒を与えたりして民間に溶け込んでいるんだ。だから見習いが正式な聖職者になるには回復魔法を使えることが必須になってくる。結果スクロールが出ればみんな自分たちで使っちまうんだ。村長がいくら頑張っても手に入れるには1年以上はかかるだろうな」
「そうか……でも国の情報部員みたいな所ならたやすく手に入れられるって事か」
「そういう事だ、こっちが相手の事を解ってるように向こうも自分の正体が知られている事を解ってる。お互い解ってる上で線を超えないようにうまくやっていくんだ」
「……なんかすげー複雑だな」
「あのメイドも10年くらい前に来た時もっと可愛い感じだったけどな。付き合いも長いし、奴に対してわだかまりも特にねえぞ? ただ、奴らは絶対に国を裏切らない」
なるほどなあ。結局村が人質になっているようなものなのか。だから離れられないし近づけない……やっぱ、この世界厳しそうだ。
そろそろ裕也の呂律も怪しくなりだしたころ、強引にお開きにし宿に帰ることにした。
宿につく頃には、大分足取りも怪しかったので3階の裕也の部屋まで付き添った。ドアをノックするとすぐにエリシアが出てきて裕也の泥酔っぷりに苦笑いをする。
「省吾さんありがとう。たまにはこの人にもこういう風に男同士で思いっきり飲ませてあげたかったのよ」
……ああ俺もこんな嫁さん欲しい。
自分の部屋に戻りベッドに横になると、流石に酔いが回ってるのが解る。若いうちに飲むのは体によくなさそうだからなるべくセーブはしたんけど。
風呂は……明日の朝にでも行くか……。
はぁ……。
「……思った以上にシビアだな……」
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