第11話 次元鞄
朝、教会の鳴らす鐘の音で目を覚ました。
もしかして、こういうので村の人は時間を知るのかな?。
今日からダンジョンに行くんだったか。しかし裕也のやつ二日酔いとかで動けねえんじゃね?
そんな事を考えながら備え付けのタオルを持って風呂に行ってみることにした。
風呂場は1階にある。風呂に行くにはフロントに降りる真ん中の階段ではなく、階の隅の方に直通の階段が別にあった。
浴室は昭和の日本に数多くあった様な銭湯と同じ様なデザインをしていた。そして壁には……
「何故、富士山……」
これも過去の勇者が残した文化なのか?
違和感を感じまくりながら体を洗う。一瞬悩んだが、シャワーの様なものの横に青い石が埋め込まれていたので魔力を流すと水が出てくる。流石にお湯は出ないかと思ったが、ぬるい感じでまあ冬でも何とかなりそう。
持ってきたタオルで体を洗い、いよいよ風呂に足を突っ込む。
「ふ~ 生き返るわ~」
体の隅々までぐおーっと温まる心地よさを満喫していると、浴室に二人の影が入ってくる。
「あっ! お兄ちゃんおはよ!」
「おう、省吾もいたか」
いつもの二人である。
「いつもの三人である。とか言いたいところだがな」
「ん? どうした?」
「いや、なんでもない。ところで裕也は二日酔いとか大丈夫なのか?」
「問題ない。頭ズキズキするくらいだ」
「風呂入って大丈夫なのか?」
「ハヤトが朝から風呂行きたいって言うからな。まあここは色々と懐かしい匂いがして好きなんだよ」
「銭湯画だろ? 俺も見てビックリしたけどさ、過去の勇者も望郷の念はあったみたいだな」
「いや、これは俺が描いた」
「おまえかよっ!」
バチャバチャバチャバチャ……
「ハヤト、泳ぐなっ!」
お風呂たのし~な~
風呂から上がりさっぱりした体で宿の朝食を早速いただく予定だった。
テーブルの前でエリシアさんがなんかプリプリしている。
「ちょっと体流してくるって、何で一時間以上も帰ってこないのよ」
「いや……お、男には裸の付き合いというものがだな……」
「人を待たせて?」
「あ、ああ……すまん」
「お兄ちゃんとお風呂で泳いだんだよ!」
「へえ、楽しそうね」
「お父さんも泳いでた」
「ふーん……」
なんか、こういうプリプリするエリシアさんも可愛いぜ。
ダンジョンはこの村から歩いて30分ほどの所に有るとの事で、今からすぐ行くならエリシアさんとハヤトが雑貨屋に農具の納品に行って来ると言われたのだが、異世界の雑貨屋という物を見てみたくて堪らなかった俺は涙ながらに訴えた。
ということで、ダンジョンは午後から行くことになり。皆で雑貨屋に行き、その後村でお昼を食べてからにしようと言う事になった。
雑貨屋は村の目抜き通りを入ってきた村の入り口の方に少し戻ったところに有った。店に入る前に裕也が俺のワンショルダーバックを外せと言って来た。
「こんな田舎でも商人だからな、ナイロン素材の鞄なんて持ち込んだら色々突っ込まれるかもしれん」
そう言うと俺のバッグをマジックバッグの中にしまいこんだ。
店は木造作りの建物で、店内は20畳ほどの長方形空間に真ん中を仕切るように棚があり、品物が所狭しと置いてある。奥に居住スペースがあるらしく店に入って声を掛けると初老のおばさんが顔を出した。
「ようやく来たかい、あんたにとっちゃ農具の売り上げなんてはした金だろうけど、あんたの農具じゃなきゃ駄目だって客も多いんだ。もっと早く持ってきてくれよ」
「すまんすまん、まあ職人なんてもんは気分で動くもんだと思ってくれ。一応剣も持ってきたけどいるか?」
それなら1本貰うと言われるとマジックバックの中から農具と剣を取り出しとカウンターのテーブルに置いていく。
おばさんは納品された農具を一つ一つ確認していく。しばらくして納得したのか金を計算し始めた。
「ついでなんだけど、次元鞄はあるか?」
「んあ? あるぞ。そこの奥の棚じゃ」
言われたほうに、ハヤトと行ってみる。どれだろうと探してると、そこの紙に包まれてるやつだと言われる。油紙のような包装に包まれたのが2つ有ったのでそれを持ってカウンターに戻ってきた。おばさんは二つとも包みから出し見せてくれた。
「作りの基本は変わらんからな、好きな色合いのほうを選べ」
それは30cm弱のポケットが付いた本体に同系色の皮のベルトが付いたヒップバックのような鞄だった。元の魔物のポケットに蓋のように覆いが付いていて二箇所ボタンで留めるようになって物がこぼれ出ないようにしてある。1つは白に近い灰色で、もう1つはもう少し濃い焦げ茶っぽい色の鞄だった。
うーん、ヒップバッグは個人的に便利追求型でファッション的にはダサいなと思ってるんだが……冒険者的には腰にあった方が何かと便利って事かな。あでも、こういうのってワンショルダーみたく使ってる人も居るよな……。
そう思いながら、左肩から回してみると。ベルトの長さはいい具合だった。
「んあ?それは腰に巻いて使うんじゃぞ?」
「そうなんですけどね、なんか腰周りにあまり物を着けたくないと言うか……」
「ふん、好きにすればいい。どうだ? 買うのか?」
戦闘中に邪魔になったりしないかな? と肩に回した状態でジャンプしたりして動いてみる。
うーん……悪くは無いとは思うが……。
「この鞄の本体から、左の腰辺りを回って、こういう感じでベルトまで繋げて固定出来る紐があるともっと安定しそうですけどね……」
「なるほどな……まあ肩から回せば少し遊ぶからな。いいぞ付けてやる」
「え? そんな事出来るんですか?」
「んあ? 出来るのかだと?」
おばさんがちょっと機嫌を損ねたような顔になると、裕也が口を挟んできた。
「あー、そいつこんなんだから、親も周りに存在を隠していたみたいでな、最近まで家から出してもらったことが無かったんだ。それでちょっと常識的なところが欠けてたりするんだ」
「ぬう……そうじゃったか……それは……苦労してきたな……」
「省吾、雑貨屋の主人となれば品物売るだけじゃなくこういう革製品の修理とかも普通にするもんなんだ。だから紐をつけるくらい軽くやってくれるぞ」
うわあ……なんか俺の設定がどんどん不幸になっていく……。
おばさんは、なんだかちょっと優しい目でこっちを見ている。
「そのくらいの仕事サービスしてやるわ。鞄の値段だけでいい、どっちの色にするんだ?」
そう言われてチラッと裕也を見ると、うんうんと頷いているので焦げ茶の方を選んだ。
紐をつける位置と、長さを測ると。1時間もあれば出来ると言われたので、他の店を回ることにした。
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