第7話 村に向かう
カンッ! カンッ! カンッ!
目を覚ますと、外から鉄を打つ音が聞こえる。
まだはっきりしない頭で、今更ながら裕也は鍛冶屋とか言ってたなあと思い出す。リビングに出ていくとエリシアさんがおはようと声をかけてくる。それだけで頭がシャンとする気がする。
まったくもって神々しい。
裕也とハヤトはすでに朝食を済ませているという事で、1人テーブルで名前の知らない野菜のサラダをポリポリと食べている。するとエリシアさんが聞いてきた。
「ズボンの穴は塞いだけど、今日ウーノの村はこっちの世界の服を着ていった方が良いと思うの」
「あーそうっすね。初めて村に行くしあまり目立たないような格好が良いですかね」
「そうね、修行合宿だってあの人も言ってたし、鎧用の下着を何着か用意しておくわね」
「いつもすいません」
「気にしないで、あの人もあんな楽しそうにしてるの久しぶりだし。ハヤトも年の近いお兄さんが居てくれて嬉しそうだもの」
「はは……中身はもうちょいオッサンですけどね」
朝食を終えると、鍛冶場の小屋に行ってみた。
小屋の中はムッとした熱気が籠もり、中では裕也親子が何かを打っている。
気がついた裕也が話しかけてきた。
「おう、おはよう。今日村に行くから注文受けていた農具を少し打っているんだ」
なるほど。確かに刀を打ってる感じでは無い。
炉の横の方に打ち終わったと思われる鍬や鎌、小刀などが置いてあった。
「あれ? 木の柄とかは作らないのか?」
「ああ、店ではたいてい柄の部分と刃の部分が別に売っているんだ。柄が折れれば柄だけ交換して、刃が欠ければ刃だけ交換するって感じで。小刀の方は柄を作る職人に直接頼むんだろうし。」
なるほど、分業か。
「まあ剣は俺のこだわりで柄まで自分で作ってるけどな。村じゃそんな剣のニーズは無いんだ。旅の途中で剣を駄目にした冒険者が買うくらいで、たまにしか依頼は来ないなあ。それでも2本ほど作ってあった鉄の剣は持っていくけど」
「でも裕也の剣ならそこら辺のより全然上物なんだろ?」
「それはそうだ、スキル補正が違うからな。ただそういうのには銘を入れないからな、偶然買った冒険者がびっくりするってのを想像して楽しんでるんだ」
しばらくすると仕事を終えて炉の火を落とした。
今日はあとは野菜を取れるだけ収穫して、昼飯を食べたら出発する事になった。俺は革鎧を身に着ければ準備は完了する。準備をしてリビングに戻るとハヤトも同じ様な革鎧に身を包んでいた。勇ましい感じが可愛らしい。
「じゃあそろそろ出かけるか。俺と省吾は林の中を突っ切っていくけどお前たちはどうする?」
おいおい……何やら裕也が鬼畜な発言をしてる。
「林の中? 街道があるのになんでわざわざそんな事を」
「悪路を頑張って走破したほうが得られるスキルも豊富なんだよ」
うむ、それは断れない。せっかくだからエリシアさんとハヤトも付いてくるという。無邪気にはしゃいでいるハヤトにお兄さんの顔をして諌めてやる。
「おいおい、ハヤトは無理しなくていいんだぞ」
「えー。大丈夫だよ、僕も小さい頃よく父ちゃんにやらされたから」
「え……」
まったくもって嫌な予感しかしない。
「兄ちゃん頑張って! もう半分くらいは来たからっ!」
ハヤトは既にレベル30を超え<スタミナ上昇>スキルも完備していた……。
エリシアさんに至っては、裕也よりレベルは高いという……。
当然といえば当然なのだが、息を切らして死にそうに走る俺を余裕綽々の裕也一家が励ましてる構図だ。俺の理想とはかけ離れている。そして励ましてくれるのだが回復魔法もギリギリまで使わないという、あれだ。
そのうち裕也が「大チート養成ギブス」とか作って装着させられそうで怖いんだ。旅立ちの日に、森の隅っこでVサインして見送ってくれるかな……。
距離的には街道を半日もあれば着くと言うが、なかなかにしんどい。途中に休憩は無し。半分来るまでに二度回復魔法を掛けてもらっただけだ。先の方を走る裕也とエリシアさんは村に行ったら何処で食事しようかとか楽しそうに雑談をしている。走りながらだ。
意識を朦朧とさせながら、そろそろ回復欲しいなと思った頃、先を走る二人が足を止めた。
やっと回復貰えるのかと思ったのだが何やら二人の顔が硬い。後ろをついてきたハヤトも何かを感じたのか小声で聞いてきた。
「父ちゃんどうした? なんかいるの?」
「ハヤト、省吾を回復させろ。ゴブリンだ。巣があるかもしれん」
エリシアさんも背中にくくりつけた弓を外して準備を始めていた。
「おそらく斥候ね。まだ村までは被害が無いといいけど」
「規模によってはもう被害が出始めているかもな」
突然の話の流れについていけてないが、何となく近くにゴブリンの巣があるらしいことは解った。ハヤトはちょっと嬉しそうな顔で二人の様子を伺ってる。子供にはイベント的な感じなのか?
俺は……。
「どうすればいい?」
「とりあえず斥候はエリシアがやる。その後巣を潰しに行く。働いてもらうぞ」
ゆっくり足音をたてないように進んでいくと、裕也が止まって手招きをする。
隣まですすむと、前の方を指差した。
その方向をみると50mほど先の木々の間を、緑色でこじんまりとした人型の魔物が歩いているのが見えた。
なるほど、ゴブリンのイメージぴったりだ。
音も立てずに弓を構えたエリシアさんが隣にやってくる。エルフ=弓のイメージはあったんだが。人が弓を撃つのなんて初めて見るので少しワクワクしてしまう。エリシアさんが背中の矢筒に手を伸ばしたと思うと、スススと流れるような3連射を放つ。全くの無音だ……。
その無駄のない洗練された動きに思わず鳥肌が立つ。やべえ。コレ狙われたらどうしようも無い。
エリシアさんは再び弓を背中に背負うと、裕也に目配せした。
「OK」
「英語!?」
「あ、ユーヤがよく言うからね、こちらの言葉じゃないわよ」
恥ずかしそうにそう言い訳するエリシアさんも美しい。俺にもOKって言ってほしいぜ。まったく。
仕留めたゴブリンの元に行くと、正確に頭を射抜かれた3体の屍が倒れていた。
そのまま裕也が慣れた手付きで魔石を取り出すと、エリシアさんと地面見ながら巣の方向を探っている。まるで映画でチェイサーと呼ばれる追跡者が逃走者の足跡を追っていくような感じでちょっとカッコいい。
ハヤトはといえばゴブリンの頭を足で抑え、フンと矢を抜いていく。かなりグロい絵面のハズなのだが、ハヤトがやるとちょっと可愛く見えるから不思議だ。そして血糊を布で拭うとエリシアさんに渡していた……やっぱり矢は回収するものなのね。
足跡を確認しながらしばらく歩いていくと山の斜面に洞窟のような穴が開いているところがあり、穴の前には見張りのようなゴブリンが2匹立っていた。
裕也が不機嫌そうに舌打ちをする。
「ったく、村長はなにやってるんだよ。ちゃんと埋めろって言ったのに」
「ん? この洞窟知ってるのか?」
「2年くらい前にもここにゴブリンが棲みついていたんだよ。その時も俺らが潰してその後に穴を埋めるように村長に言っておいたんだ。こういうゴブリンには丁度いい穴は埋めておかないとまたその内違う一家が棲みつくんだよ」
なるほど。そういうものなのか。
裕也がエリシアに目配せをすると、うなずいたエリシアさんが再び弓を構え放つ。
あっけなく2匹を仕留めると、4人はそっと洞窟の入り口まで近づいた。
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