第6話 地球からのお土産
次の日も、また次の日も俺たちは狩りに出た。
生活がルーティンと言えばそうなんだが、ネットもテレビもラジオも無い世界だとそんなものなのかもしれない。ハヤト達は何してるのか聞くと、昼間は勉強をさせているらしい。子供の教育に時間を割けるのはある意味豊かさの象徴なんだろうなと思う。
こんな辺鄙なところに家族だけで住んでるからハヤトの為にも兄弟を欲しかったようだが、エルフは長命な分、子をなすのがなかなかに難しいらしい。
うん、話がナイーヴな感じなので適当に相槌を打つ。
やはりレベルはどんどん上がりにくくなるようで、初日に8頭のウルフを狩ったもののレベルは1つしか上がらなかった。
ウルフもそれなりに間引かれたのか、2日目はなかなか遭遇できなかった。フォレストボアも結局初めての日以来出会えていない。
結局レベルが上がらないまま4頭ほど狩ったところで、少し早めに帰宅した。
ウルフを捌いていると、思案気に裕也が提案してきた。
「明日村の方に行ってみるか?村の近くに小さな鉱山ダンジョンがあるんだよ。鉱山っていってもレアな金属は出ないし小規模で魔物もそこまで強くないからギルドの管轄も入ってないんだよ」
「おお! いわゆる初心者向けのダンジョンか。それは行きたいな」
「ちょっとウルフも飽きたろ?それに……氷室がそろそろ一杯だしなあ……」
確かにウルフから見たらオカルトな光景が氷室に広がってる。
「ウーノ村って言うんだけどな、街と街を繋ぐ街道沿いの宿場町っぽい村なんだ。だからそれなりの宿もあるし、旅行がてら嫁と子供連れて何日か合宿だな」
「まじか、テンション上がるなあ! そうだ、とっておきの良いものがあるんだ、しばらく出かけちゃうなら夕食にでもエリシアさんとハヤトに飲ませてやろう」
「なに??? それは……地球のか?」
むむ。「エリシアさんとハヤトに」って言ったのだが裕也が目をギラつかせて食いついてくる。まあ……そりゃそうか。懐かしすぎるよな。きっと。
「当然俺の持ってるのなんて地球のしかないからな。いざという時のために手を付けないでいたんだが、お世話になりっぱなしで悪いからお礼だと思ってくれ」
「おいもったいぶるなよ、なんだよ教えろよ」
「ん? いやコーラだよ、未開封のペットボトルがあってな」
「おおおおおおおお!」
何やら裕也がすごいハッスルしている。暑苦しい。
「まじか……赤いの? 青いの?」
「当然赤いやつだ」
子供へのサービスのつもりだったがどうやら裕也がすごい飲みたそうだ。
まあ20年ぶりに故郷の味を味わえるとなれば食い気味になるもの致し方ないだろう。でもそこまで喜んでもらえるなら尚の事良かった。なんか至れり尽くせりでレベル上げも手伝ってもらっちゃって悪い気がしてたのは事実だし。
夕食時、4つのグラスにご丁寧に氷を入れてストローを指してスタンバイしている裕也がとても微笑ましい。俺はまだ思い出に浸れるほど時が経っている訳ではないので遠慮することにして、3人にコーラを飲んでもらう。
「これだよ! この味だよ!」
「まあ……不思議な味ねえ」
「なんかシュワシュワして美味しいっ!」
3人とも満足してもらえたようだ。
裕也が何やらハヤトにサンタクロースの色がどうのと、うんちくを垂れ流している。自分の子供にも本当は故郷を見せてあげたいんだろうな。
「そういえば前にネットでコーラの作り方が載ってて作ったことがあるんだけど……でもまあその材料がこの世界にあるか……微妙だよな」
ふと呟くと裕也が食いついてきた。
「ほんとか??? コーラはレシピが企業秘密じゃなかったのか?」
「ああ、赤いのは完全に再現できないけどいろんな企業で出してる偽コーラみたいなのは多いだろ? なんちゃってコーラって感じだったけどそれっぽいのは作れたぞ」
「それでもいい。どんなレシピだった?」
「うーんと、確かレモンとクローブ、カルダモン、バニラビーンズ、黒砂糖……砂糖でもよかったけど透明になっちゃうからカラメルを混ぜるんだったかな? 黒砂糖の方が代用品だった気がする。カラメル作るの面倒だからそっち使ったんだ……あ、あとシナモンか……うんシナモンスティックも入れて煮出したわ。で濾すとコーラのシロップが出来て、それを炭酸で割って完成」
見ると必死にメモをしてるおっさんがいる。
「確か7Xとかいう7種類のハーブのレシピがあるんだけど、コーラってはじめは薬として作ったものだからそれで作ると初期の薬っぽい味になるらしいんだ。より簡単にってネットで今風のレシピが載ってたんだ。あー、それ見たときレモンじゃなくてライムってなってた気もするな、他にもオリジナルはカレーで使われそうなスパイスが入っていた気がする」
「ううむ……実は昔にカレーを再現したくて色んなスパイスに成りそうな香料を試したことがあるんだ。今度そこら辺で色々試してみるわ」
「ああ、カレーもクミンとターメリックとコリアンダーがあれば取り敢えずカレーになるもんな、あ、あと唐辛子も必要か」
サラッと答えると驚愕に震える裕也がいた。
「なっ……お前は料理人か!?」
「うぉ、食いついてくるなあ。いや1人暮らしだったから料理を自分でしてたくらいだぜ。休みの日にたまに凝ったもの作ったりしたくらい」
「よし、色々と落ち着いたら地球メニュー再現を一緒にやろうか」
やばい、裕也がグイグイ来る。
「え~。まあ、ある程度は手伝っても良いけど……」
「なんだあまり乗り気じゃないな?」
「まあ、転生物読んでて地球の料理の再現が無駄に多い小説はすぐ飽きたから……」
「その理由っ!」
まあ、今はあまり気にしてないが多分この世界の生活が長くなると色々懐かしいものを食べたくなるんだろうな。そうしたら裕也と色々試すのも悪くないかな……。
取り合えず今はこの世界でちゃんと生きていけるようにがんばらないと。
コーラの話で盛り上がり過ぎてしまったが、その後裕也がウーノ村のダンジョンに行こうという話をエリシアさん達に切り出した。最寄りの村という事でちょくちょく行ってはいるらしいが宿泊まですることはなかなか無いらしく、エリシアさんもハヤトも楽しみにしてくれていた。
そして転生して5日目。俺はようやく魔力を流すのに成功した。
ただ、ハヤトは魔力量に比べて流れる量がちょっと少ない気がすると言っている。裕也はだんだんバイパスが開いてくるんじゃないかと言ってるのでちょこちょこと練習は続けようと思う。
なんにしろ明日の朝にようやくウォシュレットで快便を味わえる。とそんな期待に胸を膨らませつつ俺は眠りについた。
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