第5話 魔力の扱い方
狩りを終え家に戻ると、今度はフォレストウルフの皮剥ぎの手ほどきを受ける。
狩った獲物の処理は冒険者には必須だと言うことで文句は言ってはいけない。言えやしない。
皮を剥ぐと、今度は内蔵を取り出す。流石に内臓は捨てるらしい。2頭いるので、1頭を説明しながら裕也が解体し、それを見ながらもう一匹を俺が請負った。グロ耐性には自信は無かったが、割と平気だった。
手先に血が付く程度の裕也とくらべ、なぜか俺は全身血だらけ。
皮を剥がされたウルフは切り分けずに家の地下にある氷室につるす。氷室は氷属性の魔道具が設置されている倉庫で、色んな食材が安置されていた。チート的な設備かと思ったが、特に氷室も珍しいものでもなく、各家庭によくあるものらしい。
なんだか某ボクシング映画の食肉倉庫で練習しているシーンを思い出してペチペチと殴ってみる。
……痛てえ。
見事にカッチカチに凍っていて激痛。
「狼の肉は硬くて旨くないって言ってなかったか?」
「俺は食べないけどな、南に下ったところにある街はそれなりに大きいからスラム街も出来ているんだ。冒険者たちの孤児も多い。そこで毎日教会が炊き出しをしててな、そこに寄付するんだ。じっくり煮ればちゃんと柔らかくはなるし、ちゃんとしたタンパク源ではあるからな、魔物であろうと奪った命は無駄にできないのが日本人だろ?」
なるほど、食品の廃棄が多い日本ではあるが日本人的には本来そういう考えだもんな。ただ、そんなしょっちゅう街に行くわけでも無いため普段別の魔物を狩りに行く時に倒したフォレストウルフはその場で処理することもあるそうだ。
今回は、ある程度訓練などが終わったら、俺をその街に案内してくれると言う予定らしく。その時に持っていけるなと、処理をしないで持ち帰ってきたようだ。
あとは魔物の皮剥などの処理の仕方を俺に教えるためと言うのもあるようだが。
作業が終わると浴衣のような着替えを出してもらい、井戸で体を洗って夕食をいただく。
夕食はさっそく今日仕留めたボアの肉が出てきた。ステーキという事だがイノシシだけにポークソテーといった感じで激うまだった。他にもスープや自家製のパンなど日本人にもイケる味付けの料理が出てくる。もちろん作ってくれるのはエリシアさん。料理の旨いスーパー美人。隙はみじんも感じられない……正直うらやましい。
食事をしながら気になってたことを聞いてみた。
「異世界転生物の定番でさ、ウォシュレットとか温泉とかあるけど、そう言うのは作らなかったのか?」
「ああ、悪いっ説明忘れてたわ。うちのトイレはウォシュレット仕様だぞ。便座の右側に青い魔導石があるからそこを触って魔力を流すと作動するんだ。あと風呂はなあ、土魔法で作れるんだけど露天になっちまうからな。客が来たときはなんとなく嫁もいるし、特にお前は覗きそうなタイプに見えるからやらない方向だ」
ななななんという、心の狭いリア充だ。覗くだと? 違う。俺は断じてそんな不純なことをする男では無いのに。まったく裕也は分かってない。偶然の事故が起こるだけなのに。
しかしエリシアさんがくすくす笑っていて怒るに怒れない。
尊い。
ところで。異世界二日目のこの俺様。魔力の流し方が解らない。
魔力の流れは、これもよくある手法で、手をつないで魔力の流れる感じを教えて貰うらしいのだが、裕也と手をつなぐのを俺が拒否し、エリシアさんと手をつなぐのを裕也が拒否したので、結果ハヤトに教えてもらっている。
これがなかなか難しい。魔法の概念のない世界からやってきた弊害か自分の中の魔力を練って流すというのが解らないのだ。よくある異世界物だと下腹に意識を持ってくると言うのがある。それも上手く行かない。兼ねてから丹田を意識するやり方は気功の鍛錬じゃないか? と思っていたのだがそんな素直じゃない心が邪魔をしているのかもしれない。
結局その日は魔力を動かすことができなかった。
「俺だって最初はそんなもんだったぞ。エリシアが根気強く教えてくれたから何とかなったが。な」
「ふふふ。懐かしいわね。あの頃は毎日手をつないでいたわね」
「おいおい、あれは練習のためだろ?」
「そうね、そういう事にしておくわ」
うわあ……おっさん殴りてえ。
なんとなく部屋の空気が蒸していたので俺はとっとと寝ることにした。
次の日も裕也に連れられて狩りに出かけた。
「今日もウルフメインでやるのか?」
「そのつもりだ、まずは攻撃的なウルフで魔物にも慣れてもらいたいしな」
「ううむ。たしかに牙をむき出しにされて突っ込まれると一瞬固まる自覚はある」
「そりゃ野良犬も居ない日本からくれば誰だってそうなる」
狩場を目指して歩きながら裕也は魔法とスキルについて教えてくれた。
「この世界は……まあ転生物に詳しければ定番ではあるからイメージは付くと思うが、魔法とスキルがある。どちらも覚えるのにキャパを消費するからカテゴリとしては似たものなんだがな、魔法は基本的にはスクロールと言われるものを使って覚える。巻物みたいな物でな、それを使用することで魔法を自分に刷り込む事が出来るんだ。といっても出回るスクロールは初級のものがほとんどで、それを使い続けることで上級に昇華させることが出来ると言う感じだ。中には生まれたときからある種の属性の魔法を持って産まれる場合があって、そういう場合はその属性の適性が強くて上級に昇級しやすい。結果優秀な魔法使いに成れるという」
「ハァ、ハァ」
「そのスクロールは通常教会に売っている。教会が神から授けられるとかで、その作り方は極秘扱いになっていて俺も知らない。で、教会でも狙った魔法のスクロールを作れるわけじゃないらしく、レアなものはそれだけに高額で取引されてる。地球と違って実際に神は実在を確認されているからな。この世界の教会はかなり善意的な存在なんだ。スクロールも誰でも買える」
「ハァ、ハァ……なるほど……」
「で、スキルの方だがこれはまた魔法と別の存在で、技能的なものなんだ。解析の魔法に対して鑑定スキルがあるように鑑定スキルに類する行動を取り続けていると発生するんだ、ようするに修練で得られるものが多い。」
「ハァ……じゃあ……狩りを、続ければ、剣術スキルも?……」
「いや、剣術とか槍術とか弓術みたいな特定の武器に対するスキルは確認されていない、<バランス>や、<弱点看破>、<重心把握>、<操体>、といったように戦闘に付随するスキルが得られる。剣聖などと言った戦闘チートみたいな連中は<武の極み>といったさっきのスキルを統合したようなスキルを持っていたりするがな。修練だけでなく才能も必要だ」
「……うん……ハァ、ハァ」
「あとは、オーブという物でスキルの習得も可能なんだ。オーブはダンジョンで魔物を倒すと稀にドロップする。使い方は魔法のスクロールと同じようなものだがそのオーブを使うことでスキルを習得することが出来るんだ。オーブはその魔物がもともと持ってるスキルがオーブ化して落ちるから人気のスキルを持つ魔物が居るダンジョンは混み合って大変なんだ。地上の魔物からはそういうドロップはないのが面白いだろ?」
「ハァ、ハァ……なる、ほど……」
「それから覚えたスキルや魔法は消去することも出来る。何かのエラーなのか元々そういう目的で生まれたものなのかは不明だがブランクオーブとかブランクスクロールと呼ばれる何も入ってないオーブやスクロールがあってな、そこにスキルや魔法を発動することで自分のスキルや魔法を移せるんだ。これの良い所はそのスキルを吸ったオーブはそのスキルを他の者に与えることが出来る。ただ、キャパが大きいスキルはオーブのキャパを超えて吸収することが出来ないから、消去に失敗する事になる。だから消したいスキルとオーブのクラスを合わせないといけないんだ。後はスキルを消すスキルがあって、それを生業にしてるやつが居るからそいつに頼むというのもある。そうやってこの世界の住人は自分にあったスキルを選択してるんだ」
「ハァ、ハァ、ゼエ、ゼェ……うん」
ていうかこいつ、歩きにくい森の中をこのスピードで歩き続けてひたすら喋り続けて、なぜ息切れ一つしない……。
後ろから、コケろコケろと念じていると裕也が足を止めてこちらを見た。
む! 読心スキルか!!
身構えてると、おもむろに回復魔法をかけてくれる。
「うわ~回復魔法もっと早くくれよ」
「スタミナスキルを得るにはある程度追い込んでかないと出てこないんだよ。キャパが有り余ってるんだからあった方が良いスキルは全部身に付ける」
「そこはさ、オーブでささっと……」
「オーブ一個がいったいくらすると思うんだ?最低でも1万モルズはするぞ?しかも人気スキルは予約待ちになるぞ?」
「1万モルズだと15万円くらいって言ってたっけ……そりゃ厳しいわ」
マジで厳しいや、裕也のスパルタっぷりも厳しいし現実も厳しい。チート鍛冶屋の裕也は金には困ってなさそうだがあまり借りるのも嫌だしな。
そしてこの日は、一日かけて森を散策し7頭のウルフを狩り、レベルを2つ上げることが出来た。レベル5だ。
身体能力に関しては、数字が有るわけじゃないのでアバウトな感じらしいが、それでも少しは変わってきては居ると言われるが。よくわからん
家に帰ると再びウルフの解体をする。
裕也が4頭担当し、俺は3頭捌いた。はじめはなかなか上手く捌けなかったが3頭目になるとようやくコツが掴めてきてそれなりに綺麗に皮を剥ぐ事が出来た。ちなみに、裕也は俺が1頭捌き終わる頃には4頭全て終わらせて、横から細かい指導を入れてくる。
その日の夕食後もハヤトと魔力を流す練習をするが一向に上手く行かない。
まだまだウォシュレットの恩恵は受けられない……ティッシュが減っていく。
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