第4話 狩りはじめました
魔物は家から30分も歩けばうろつき始めるらしいが、最初の一匹に出会うまでは1時間ほど歩いた。裕也としてはスピードを加減しているんだろうけど、森の中を結構なスピードで歩かされる。ついていくのがやっとの現状だ。
龍脈近辺は辺りの魔素が浄化されるのかあまり魔物が出てくることは無いが、一応龍脈を外れればいつ出てもおかしくないらしい。ただ、ここらへんはそこまで魔物が多いわけでも無いという事で少し森の奥に行くという話だった。
ここら辺は温暖な気候なのだろう。広葉樹が広がる森の中をひたすら歩いていく。休憩を願い出ようかと悩んでいるとようやく裕也が足を止める。最高にしんどい。ゼェゼェと荒い呼吸を必死に整えながら、一息つけるとホッとする。
と、体がスーっと楽になる。裕也の回復魔法だ。
「正面にいるな、剣を構えておけ」
なるほど、戦闘前に体調を万全にというわけか。うんうん。裕也解ってるじゃないか。だけど、いきなり実践なのか? 見本とか見せてくれねえのかな。
それにしても……普段着で腰の剣も抜かず、ちょっとタバコでも買ってくる感すら漂う裕也師匠と比べ、ガチガチに武装して剣を構えて緊張してる素人省吾……これが二十年の差か……萎えるぜ。
…………うん?
言われたように正面に向けて剣を構えて待つが、さっぱり気配とかが解らない。チラッと裕也を見るが、素知らぬ顔で正面を見据えてる。
その時、ぴょんと倒木の影から犬……いや。狼が飛び出し真っ直ぐにこちらに向かって走ってきた。
俺の方に。
「うぉっ! ヤバいの来たヤバいの来た!」
涎を垂らしながら、歯をむき出しにした狼が突進してくるんだ。どうしたって慌てるだろう。車に轢かれそうになる動物が、びっくりして硬直しちゃうと聞いたことがあるが。今の俺がまさにそれ状態に違いない。それでもパニック状態の中で狼に向かいエイヤと我武者羅に剣を振る。
ブンッ
空振る。
そのまま体勢が崩れた所に、狼は牙をむき出しにしながら首筋めがけて飛んできた。
狩るのが本能とばかりに涎を飛び散らせながら迫る牙が、ゆっくりと近づいてくるのを感じる。
やばい、終わった。
と思った瞬間、バシュっと狼の首が消えた。
何が起こったか、全く把握できない中。首筋に頭の無くなった首がペトっとぶつかる。
「うぎゃあああ」
「ちょっと焦り過ぎだな。もうちょっと相手をよく見ろ。見えないほどのスピードじゃないはずだぞ」
裕也が何でも無かったように布で剣の血糊を吹きながら指導し始めた。俺の顔についた血糊はそのままだ。そして心臓のあたりから黒いビー玉の様なものをほじくり出している。俺は硬直状態のままただそれを眺めていた。
「フォレストウルフは一応牙と毛皮が売れる。肉は硬くて味も少し癖が強くてな、二束三文にしかならない。魔石は早めに取り出しておかないと魔力が放出されちまうんだ。死んだ体でも修復しようとする働きがあるんじゃないかと言われてる、だから抜いておく」
そう言うと無造作にカバンに死体を詰めていった。
これで戦闘チートじゃないとか。やべえな。ちょっとカッコいいとか思っちまったぜ。俺に付いた血はそのまま放置されてるけど。
さらに30分ほど森の中を歩いていると再び裕也が足を止めた。
「居たぞ、準備しておけ」
やはり今回も俺にはどこに居るかさっぱりだった。しかしさっきので、死ぬことは無いと少し安心もあったのか落ち着いていられ……とっ突然左の藪の中から体長2mもありそうな一匹のイノシシが突っ込んで来た。
「うぉぉぉ、なんかデカイデカイデカイ!」
「落ち着け、ギリギリで躱しながら右に抜けろ!」
裕也の声が飛ぶ。そうだ。練習の動きだ。
突っ込んできたイノシシを躱しながら、、剣をクルンと回し下から上に跳ね上げる。
スッ
あまりに抵抗がなさに当たりが軽かったかと慌てて後ろに飛びすざるが、目の前で首が半分千切れかかったイノシシがそのまま力なく倒れて行くのが見えた。お? 俺がやったのか? 慌てて裕也の方を見る。
その瞬間、立ちくらみに襲われた。
おおお……おお……こ、これは。まさに……。
「師匠、レベルアップしたかもっ!」
「師匠ってなんやねん。ちょっと待ってろ解析してやる」
そう言うとじっとこっちを見る。
なんか目を合わすと恥ずかしい気がして思わずうつむいてしまう。
まるでBL……じゃねえよ。
「確かにちゃんと3になってたぞ。ここら辺の魔物は初心者には少しレベルが高めかもしれないからな、10くらいはすぐに上がるだろう。特に武器が良いからな、俺が打ったんだ。ちゃんとあてられれば一撃で行けるだろうし」
「よし今日残り半日でどこまであげられるかな」
「いや、今日はもう終わりだ。帰るのに一時間くらいかかるし、久しぶりにフォレストボアの肉が手に入ったんだ。早速処理して持ち帰りたい」
「これくらいの魔物なら裕也なら簡単に狩れるだろ?」
「そうなんだがな、ボアは割と希少なんだ。一週間さまよっても見つからないことだってあるんだよ。すぐ血抜きをしないと肉が臭くなるしな」
うんレベル上げよりグルメ上げだな。
裕也は俺に血抜きと皮のはぎ方などを説明しながら処理していく。処理が終わると、裕也は無造作に皮や切り身をかばんの中に入れていく。どんどん入れていく……ていうか全部入った……。
おお、マジか。これって異世界あるあるの、アレだよな?
「やっぱりそれってマジックバッグだろ?」
「そうだ、時間の停止とかの機能はないけど、容量はかなり入るぞ」
「いいなあ、やっぱマジックバッグは必須だよなあ。やっぱり結構高いもん?」
「これはアーティファクトの一種だからなあ、う~ん……ベンツのSクラスが買えるくらいと言えばわかるか?」
「まじかあ」
相当高価だな。なかなか買えなそうな予感だ。良いなあ。あれば便利なんだろうな。そんなことを考えていると裕也が良さげな情報を教えてくれる。
「ただ、ポシェットサイズの容量が少なめの鞄ならそんなでもないぞ。南の方にいる……なんて言ったかカンガルーみたいな有袋類のモンスターが居てな、そいつのポケットが同じような次元ポケットになっていて、そいつの皮を加工して作ってるやつが割と普通に出回ってるんだ」
うわぁ、ポケットって、ド〇えもんみたいな魔物までいるのか。
でも乱獲されてそのうち絶滅危惧種とかになるんじゃないのかな。
作業が終わり帰ろうとした時、裕也が嬉しそうに魔物の来訪を告げた。血の臭いに釣られてやってきたのだろう。
言われた俺はアタフタと剣を拾い準備する。
まっすぐ向かってくる狼に今度はきっちりと剣を当てることができた。裕也の居る安心感もあるが、ちょっとだけ魔物と言うのに慣れ始めた感じか。
しかし。
「ちょっと腰が引けて手打ちになってるな。切りつけるときは一歩前に踏み込む感じで腰を入れて切らないと硬いやつには弾かれるぞ。今みたいに踏み込むタイミングが取れないときは逆に左足をぐっと後ろに引きつつ……」
やはりおっさん、為になるのだが指導が始まると細かいんだ。
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